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2-37.魔法少女たちの買い物

「ちょっと高めのお肉買っちゃおうか。しかも大量に!」

「いいんですか、そんなに奮発して」

「いいのよ公安もお金出すんだから。あの人、絶対に奢られることしないし」

「公安を何だと思ってるんですか、お姉さん」

「お姉さん言うな。……つむぎちゃんは?」


 近所のスーパーで遥は愛奈に車椅子を押してもらいながら、そういえばと周りを見回す。

 入った時は一緒にいたんだけどな。


「愛奈さん遥さん! プリンこれくらいあれば足りるでしょうか!?」

「その半分でいいんじゃないかしら」


 両手いっぱいにプリンの容器を抱えて駆け寄ってきた。


「えー。でもラフィオってプリンこれくらい食べると思いますよ」

「プリン以外も食べるから。ていうかそれ、売り場にあるプリン全部持ってきたでしょ。他のお客さんにも迷惑だから返してきなさい」

「えー」

「数より種類を揃えない? いろんな味のプリンがあった方が、ラフィオも喜ぶと思うわ。後で他のお店も探しに行きましょう」

「!! そうですよね!!」

「そうだ。卵とか砂糖とか買ってきて、ラフィオと一緒にプリン作りするのはどう?」

「ら、ラフィオと一緒に……プリンを……?」


 つむぎはプリンを抱えたまま、ふらふらと元いた場所に戻っていく。

 幸せな想像が振り切りすぎて、あの元気なつむぎが逆に静かになってしまったらしい。


「お姉さん」

「なによ」

「今の、すごくお姉さんっていう感じでした」

「だからね」

「いえ、わたしのお姉さんという意味じゃなくて。保護者っぽかったというか」

「まあねー。悠馬がいない時は、わたしが一番年上だからね。しっかりしないと」

「悠馬がいる時も一番年上なんですよ。しかも圧倒的に。普段から、もっとしっかりしてください」

「悠馬の方が頼れるでしょ?」

「そうですけど。姉としての威厳はないんですか?」

「ないわね」

「胸張って言わないでください」

「誰の胸がないって?」

「大きさの話しはしてませんよ。思ってますけど。なんなら、つむぎちゃんの方がちょっと膨らんでるかなって思ってますけど」

「ひどい……」

「あ、その肉いい感じですね。買いましょう。あと、野菜も買わないといけませんね。海鮮系とかはいりますか?」

「……遥ちゃん」

「なんですか」

「わたし、肉を食うことしか考えてなかった。海鮮って、遥ちゃんおいしく焼けるの? なんか難しそうな気がするけど」

「任せてください」

「ふっ……仕方ないわね。料理は全部遥ちゃんに任せるわ」

「かっこいい顔で情けないこと言わないでください」

「愛奈さん遥さん! プリンの素っていうの見つけました! 普通のだけじゃなくて、黒ごまプリンとかフルーツプリンとか作れるみたいです!」


 つむぎが、四角いパッケージの箱をいくつか抱えて走ってきた。

 まあ、これくらいならいいかなと愛奈も頷いている。これ、一通り作る気なのかな。ラフィオと一緒に。大変そうだな、ラフィオが。助けてあげるべきだろうか。


 最年長はあんまり役に立たないし、小学生も暴走気味な性格をしているし。


 自分がしっかりしないと。遥は決意を新たにした。



――――



 司会者の、あくびが出るような退屈な話しを聞いた後、魔法少女の扱いを市としてどうするかの議論がようやく始まった。


 あの退屈な前振りにも意味はあったようで、両派勝手に話し合えというわけではなく、論点を整理して順番に話せということらしかった。


 いわく、魔法少女が本当に街のために戦っているのかを市独自に調査すべきとか、仮に正体を突き止めたとして魔法少女たちのプライバシーをどれだけ尊重すべきかとか。

 魔法少女の力を怪物の排除以外に使うよう要請するのは可能なのかとか。災害時に強力を要請するのは可能か。やるとすれば窓口は誰がやるのか。

 全国的に注目を集めている事案なのを利用して、町おこしなどに活用することは可能か。


 などなど。


「なるほど。こういう視点は思いつかなかったな。町おこしか……絶対に嫌だけどな」

「けど、魔法少女を一目見ようと街を訪れる人が増えているらしいわ」

「マジで?」

「観光地は少ないけど、大きな街ではあるからね。行楽ついでにあわよくば魔法少女を見られるかもと考える人もいるみたいよ」

「マジかよ」

「既に町おこしになっているのは事実よ。それを促進するのも、為政者の仕事ですもの」

「勝手に使われるのも、なんか嫌だな。俺から許可出して参加したいわけじゃないけど」


 たぶん、愛奈たちも同じ意見だろう。


 災害対策に関してもそうだ。地震とかが起こった時に瓦礫を排除する仕事とか、火事の時に避難が遅れた人を助ける仕事とかをやってほしいとかだろう。

 確かに魔法少女に適任な仕事だけど、愛奈にそんな負担はさせたくないというか。


 でも、こういう話題が出るってわかったのは新鮮だった。


 問題は、せっかく整理した論点が全く機能してないって所だ。両陣営はさっきから、激しく議論していてしばしば脱線している。司会の男が軌道修正を試みてるけど、できてない。



 どうも雑賀の方が、政治は魔法少女と一切関わるべきではないと強固に主張して一切引かないのが原因らしい。討論と言いつつ話し合いを一切拒否しているのだから当然か。


 魔法少女たちの人権を守るためとか、正しいことを言ってるのは間違いないのだけど。


「その割には基金を設立してるわけで、自分は関わってるんだよな。というか話し合う気はないのに、なんで討論会来たんだよ。そもそも、あいつ側が企画したんじゃなかったか?」


 話し合いを論破の場と考える人間もいるにはいる。けど、議員さんがそんなレベルでは困るな。意見をすり合わせてお互いに納得する妥協点を見つける。そういう議論にすべきだ。

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