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2-33.魔法陣

 当然ながら家具の類はなく、殺風景な内装。もちろんそれは、ラフィオの求める広さが確保されてることも意味している。


「ねえラフィオ。もしかしてどこかに、血の跡とか残ってるかな?」

「今は静かにしていろ」

「えー。でも」

「大事なことなんだ」


 つむぎをあしらいながらラフィオが家の中を歩く。

 玄関から歩いて数秒。リビングに足を踏み入れた。


「なるほど。これなら問題ない。コアを育てるには十分だ」

「お気に召したようで良かったわ」

「次は材料の調達だね。この街なら、手に入ると思うけど」

「何が必要なの?」

「石。それもできるだけ多く。河原から拾ってきたものとか」

「河原の石でいいのか?」

「この土地はある種の霊脈で、魔力が満ちているのは説明しただろう?」

「霊!? この土地に霊むぐっ!?」


 ラフィオの説明に別の意味を見出しかけていた愛奈の口を塞いで、続きを促す。


「この土地に古くからあった石にも、ほんの僅かだけど魔力が蓄積している。それをひとつの石に凝縮すれば、人を魔法少女に変える石になるんだ」

「この石も、そうやって作ったの?」


 遥がポケットに入れている黄色い宝石を取り出しながら尋ねた。


「河原の石から作ったにしては、綺麗すぎるけど」

「魔力を凝縮するにつれて、石の色が変わって透き通っていく。何色になるかは僕も知らないけどね。その石の中でも中心付近に集まるから、サイズ自体もだんだん小さくなっていく」

「へえー。だからこうなるのかー」

「まあ、魔力が豊富なエデルードで作ったコアと、こっちで作るコアで違いが出るかもしれないけどね」

「コアが完成するまで、どれくらいかかる?」

「わからないけど、長期戦を覚悟してくれ。石に溜まる魔力は、本当にごくわずかだから。魔力集積の仕組みを作って、あとはしばらく放置だ。チョークはあるかい?」

「ああ」


 頼まれて、学校の白いチョークを一本貰ってきた。大量にあるものだし、別に構わないだろう。


 それを手に取ったラフィオは、早速リビングの床になにか紋様を書き始める。

 大きな円と、その中に小さな円がいくつか。その他たくさんの図形と、文字のようなもの。

 随分と複雑な模様だ。


「魔法陣ってやつか?」

「君たちの言葉では、そう呼ぶのだろうね。中心にコアにする石を置く。その周りに、他の石も置いて中心の石に魔力を集約する。その他、土地自体の魔力も吸い上げる」


 説明しながら、ラフィオは迷いなく魔法陣を描き上げていく。

 床は普通のフローリングで、溝がいくつもある。ラフィオは別に気にせず描いてるけど。


「元々、砂だらけで凸凹の多い地面に描いても有効なものだ。この床なら、むしろ平坦な方さ」


 なるほど。


「今のうちに、石をいくつか持ってきてくれ。別に河原のじゃなくてもいい。そこの庭先のでも構わない。コンクリートの欠片は新しい物の可能性があるから、ちゃんと石で頼むよ」

「わかった。おい姉ちゃん、そろそろ離れろ」

「うん……お化けいなさそうだし」

「ラフィオー! 二階も広かったよ!」

「ひあぁぁっ!?」


 ドタドタと音を立てて降りてきたつむぎの物音に、愛奈は情けない悲鳴を上げた。


「そうか。二階に興味はないというか」

「あれ、夫婦の部屋ってやつだよね! ねえラフィオ、ここにふたりで住むんだよね!?」

「住まないからな! お前にも家があるだろ!」

「だって。お父さんもお母さんも帰ってこなくてつまらないし! ラフィオとここで住みたい! 毎日夜までモフりたい!」

「おい悠馬! こいつも外に連れて行ってくれ! っていない!?」


 楽しそうなラフィオとつむぎを背に、俺は愛奈を引きずり遥と一緒に玄関に戻っていく。

 愛奈はたぶん、俺にくっつきたいだけかもしれない。


「ねえ悠馬。わたしにも肩、貸してほしいなー」

「お前はひとりで歩けるだろ」

「えー。でもー」


 松葉杖で慣れた様子で歩く遥のお願いを即座に却下する。


「ふふん。悠馬はわたしのものだからねー」

「姉ちゃんもさっさと離れろ」

「えー。だってお化け出そうで怖いし」

「このまま墓場まで引きずっていくぞ」

「ひいぃっ!?」


 あ、離れた。



 この空き家が無人だった間、当然ながら手入れは誰もしていない。小さな庭は一面雑草が生い茂っていた。


「この草かき分けたら、石が出てくるかな。雑草、全部抜いた方がいいかな」

「よし! 悠馬頑張って!」

「姉ちゃんも頑張るんだよ」

「えー? そうだ! 悠馬これは修行よ。あなたを鍛えるためなの。この草むしりを終えた時、悠馬はきっと強い男に痛たたた……」

「鍛えるのはいいが、姉ちゃんもやるんだ」

「わーん!」


 まあ、この量の雑草を今から草むしりするのは無理がある。すぐに暗くなるだろうし。本格的にやるのはどこかの休日かな。

 今週末は公開討論会ってのもあるらしいし、なかなか暇はない。やっぱり河原から拾ってきた方が早いかもな。


「そうだ! 庭があるってことは、ここでバーベキューできるよね! やりましょう! やろう!」

「そのためにも草むしり、やろうな」

「いやー! 肉体労働は嫌です!」

「ふたりとも頑張ってねー」

「ああああああ! 車椅子にふんぞり返ってる遥ちゃんが憎い!」


 車椅子で草むしりは大変そうだもんな。それは仕方ない。

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