当然ながら家具の類はなく、殺風景な内装。もちろんそれは、ラフィオの求める広さが確保されてることも意味している。
「ねえラフィオ。もしかしてどこかに、血の跡とか残ってるかな?」
「今は静かにしていろ」
「えー。でも」
「大事なことなんだ」
つむぎをあしらいながらラフィオが家の中を歩く。
玄関から歩いて数秒。リビングに足を踏み入れた。
「なるほど。これなら問題ない。コアを育てるには十分だ」
「お気に召したようで良かったわ」
「次は材料の調達だね。この街なら、手に入ると思うけど」
「何が必要なの?」
「石。それもできるだけ多く。河原から拾ってきたものとか」
「河原の石でいいのか?」
「この土地はある種の霊脈で、魔力が満ちているのは説明しただろう?」
「霊!? この土地に霊むぐっ!?」
ラフィオの説明に別の意味を見出しかけていた愛奈の口を塞いで、続きを促す。
「この土地に古くからあった石にも、ほんの僅かだけど魔力が蓄積している。それをひとつの石に凝縮すれば、人を魔法少女に変える石になるんだ」
「この石も、そうやって作ったの?」
遥がポケットに入れている黄色い宝石を取り出しながら尋ねた。
「河原の石から作ったにしては、綺麗すぎるけど」
「魔力を凝縮するにつれて、石の色が変わって透き通っていく。何色になるかは僕も知らないけどね。その石の中でも中心付近に集まるから、サイズ自体もだんだん小さくなっていく」
「へえー。だからこうなるのかー」
「まあ、魔力が豊富なエデルードで作ったコアと、こっちで作るコアで違いが出るかもしれないけどね」
「コアが完成するまで、どれくらいかかる?」
「わからないけど、長期戦を覚悟してくれ。石に溜まる魔力は、本当にごくわずかだから。魔力集積の仕組みを作って、あとはしばらく放置だ。チョークはあるかい?」
「ああ」
頼まれて、学校の白いチョークを一本貰ってきた。大量にあるものだし、別に構わないだろう。
それを手に取ったラフィオは、早速リビングの床になにか紋様を書き始める。
大きな円と、その中に小さな円がいくつか。その他たくさんの図形と、文字のようなもの。
随分と複雑な模様だ。
「魔法陣ってやつか?」
「君たちの言葉では、そう呼ぶのだろうね。中心にコアにする石を置く。その周りに、他の石も置いて中心の石に魔力を集約する。その他、土地自体の魔力も吸い上げる」
説明しながら、ラフィオは迷いなく魔法陣を描き上げていく。
床は普通のフローリングで、溝がいくつもある。ラフィオは別に気にせず描いてるけど。
「元々、砂だらけで凸凹の多い地面に描いても有効なものだ。この床なら、むしろ平坦な方さ」
なるほど。
「今のうちに、石をいくつか持ってきてくれ。別に河原のじゃなくてもいい。そこの庭先のでも構わない。コンクリートの欠片は新しい物の可能性があるから、ちゃんと石で頼むよ」
「わかった。おい姉ちゃん、そろそろ離れろ」
「うん……お化けいなさそうだし」
「ラフィオー! 二階も広かったよ!」
「ひあぁぁっ!?」
ドタドタと音を立てて降りてきたつむぎの物音に、愛奈は情けない悲鳴を上げた。
「そうか。二階に興味はないというか」
「あれ、夫婦の部屋ってやつだよね! ねえラフィオ、ここにふたりで住むんだよね!?」
「住まないからな! お前にも家があるだろ!」
「だって。お父さんもお母さんも帰ってこなくてつまらないし! ラフィオとここで住みたい! 毎日夜までモフりたい!」
「おい悠馬! こいつも外に連れて行ってくれ! っていない!?」
楽しそうなラフィオとつむぎを背に、俺は愛奈を引きずり遥と一緒に玄関に戻っていく。
愛奈はたぶん、俺にくっつきたいだけかもしれない。
「ねえ悠馬。わたしにも肩、貸してほしいなー」
「お前はひとりで歩けるだろ」
「えー。でもー」
松葉杖で慣れた様子で歩く遥のお願いを即座に却下する。
「ふふん。悠馬はわたしのものだからねー」
「姉ちゃんもさっさと離れろ」
「えー。だってお化け出そうで怖いし」
「このまま墓場まで引きずっていくぞ」
「ひいぃっ!?」
あ、離れた。
この空き家が無人だった間、当然ながら手入れは誰もしていない。小さな庭は一面雑草が生い茂っていた。
「この草かき分けたら、石が出てくるかな。雑草、全部抜いた方がいいかな」
「よし! 悠馬頑張って!」
「姉ちゃんも頑張るんだよ」
「えー? そうだ! 悠馬これは修行よ。あなたを鍛えるためなの。この草むしりを終えた時、悠馬はきっと強い男に痛たたた……」
「鍛えるのはいいが、姉ちゃんもやるんだ」
「わーん!」
まあ、この量の雑草を今から草むしりするのは無理がある。すぐに暗くなるだろうし。本格的にやるのはどこかの休日かな。
今週末は公開討論会ってのもあるらしいし、なかなか暇はない。やっぱり河原から拾ってきた方が早いかもな。
「そうだ! 庭があるってことは、ここでバーベキューできるよね! やりましょう! やろう!」
「そのためにも草むしり、やろうな」
「いやー! 肉体労働は嫌です!」
「ふたりとも頑張ってねー」
「ああああああ! 車椅子にふんぞり返ってる遥ちゃんが憎い!」
車椅子で草むしりは大変そうだもんな。それは仕方ない。