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2-25.素行調査依頼

「あなたが変身した場所に急いで向かって、車椅子を確保するくらいの努力はするわ」

「ありがとうございます」

「それ、よかったらわたしも協力するわ、遥ちゃん。スタッフもいるし社用車もあるし、力になれるかも」


 澁谷も善意からそう申し出てくれた。


「ありがとうございます。じゃあ、澁谷さんと樋口さんでどうするか話し合って、協力してお願いします」

「ええ、是非。樋口さん、ついでに公安の取材は」

「それは駄目。それで、あなたの他の要求は?」

「素性を調べてほしい人がいる」


 ずっと気がかりなことを、公安に解決してもらおうと考えた。


「公安向きの仕事ね。誰を調べてほしいの?」

「市長だ」

「大貫正造。地元の工業系企業を支持基盤としている市長。前の市長の基盤をそのまま引き継いでいる」

「それは知っている。地元民だしな」


 本当はこの前調べて初めて知ったのだけど、ちょっとだけ見栄を張らせてもらった。


「さすがね。知りたいのは彼の人柄かしら。信頼できる人間かどうか。あとは違法行為の有無でしょうか。支持者から違法な献金を受けてるかどうか。魔法少女の件と自分の立場を利用して私腹を肥やそうとしているかどうか」

「ああ。そういうことを知りたい」

「期待に沿う答えかどうかは知らないけど、彼は潔白よ。調べた限り、違法行為は見当たらなかった。支持者とはよく会ってるけど、常識の範囲内。法に触れる賄賂を受け取ったりはしていない。もちろん他の市民との交流も欠かさないし、地域の発展のために日々尽力しているわ。人柄という意味でも、悪い話は聞かないわね。家では家族を愛する良き夫で父親」


 さすがだ。市長が公安に魔法少女の件を調べろと命じた時点で、公安の方も逆に市長を調べていたのか。

 公安と関わるっていうのは、そういうことなんだな。


「でも、そんな市長は俺たちを探ろうとしている」

「市民の安全のためよ」


 非難し辛い理由。そのために俺は頭を悩ませている。マスコミとの協力体制を得られもしたけど。


「どうかしら。期待には沿えた?」

「公安はすごいな」


 答えの中身は期待通りじゃないけれど、公安の調査能力は本物らしい。


「雑賀優子という政治家については?」

「あの人ね。市民への人当たりはよかったわ。事務所に避難しただけのわたしにも、気を遣ってくれた。いいわ、調査してあげる」


 こっちは未調査だったか。いち市会議員だし仕方ないか。


「もうひとり。日野ティアラという女子高生について調べてほしい」

「日野?」

「あそこの駅を毎日利用していた。どこの学校かはわからないけど、うちの制服じゃない。中学生ってほど幼くはないし、高校生だ。どんな字でこの名前なのかも知らない」

「彼女はね、怪物に変えられたんだ。今はキエラの所にいるはず。悠馬、知りたいのは彼女の家族についてだろう?」

「……ああ」


 ティアラは行方不明扱いになっているはず。家族は心配しているだろうか。

 知ってどうなるというものじゃないけど、知っておきたかった。


「悠馬。あまり怖い顔しないで。あの子のことは、あなたの責任じゃない」


 愛奈が気遣わしげな声をかけた。自分で思っていたよりも険しい表情をしていたらしい。


「わかったわ。調べて、わかったことは伝えます。これで全部?」

「人の調査についてはこれで全部。あとひとつだけ、個人的にお願いしたいことがある」

「むむっ」


 俺に口を塞がれたままの愛奈が、咎めるような目を向けた。

 絶対、姉ちゃんが考えてるようなことじゃないからな。


「俺に戦い方を教えてほしい」

「へえ。戦い方?」

「あんた、俺より強いだろ。さっき投げ飛ばしたし。俺、変身もできないしラフィオみたいに大きくなれない。普通の高校生だけど、なんとかして戦いの役に立ちたいんだ」

「悠馬はもう、十分に役に立ってるよ」

「むぐぐ……ぷはっ! そうよ! 戦いはわたしたち魔法少女に任せなさい。悠馬はちょっと引いた所で、わたしたちを手助けしてくれれば十分よ」


 遥と愛奈が気を遣ってくれてるけど、俺もそれに甘えてばかりじゃいけない。


「わかってる。どれだけ強くなっても、怪物には勝てないし殺せない。けど、少しでも対抗できるようになりたい」

「なるほどね。わかりました。都合がつく時間を後で教えて」


 名刺には樋口の連絡先が載っていた。名前は偽名でも、こっちは本物らしい。


「俺からは以上だ。俺だけ色々お願いしてごめんな。みんなは他にあるか?」

「んー。わたしのは悠馬がさっき言ってくれたからなー。車椅子の問題がなんとかなれば、後はどうとでもなるというか」

「わたしも、ラフィオと一緒なら他はなにもいらないかなー」

「厳重に抗議させていただくぞ」

「ラフィオはなにかあるか?」

「ねえ! わたしの意見は無視かな!?」

「姉ちゃんの希望はなんだ?」

「働きたくない! 絶対に働きたくむぐぐ」

「樋口さん。僕に用意してほしいものがあるんだ。街のどこかで、空き家を手配してほしい」


 愛奈の口を塞ぎながらラフィオを見れば、彼は奇妙なお願いをした。

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