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2-20.謎の女の正体

 まあいい。愛奈に知らせた以上は、あの女に一緒に会うことになる。

 あと、遥も一緒に。それはいいとして。


「ラフィオー。モフモフしていい?」

「駄目」

「わーい。モフモフー」

「会話がね、出来てる気がしないんだよ。お前と」


 ハンターは巨大化しているラフィオにまたがったまま、体を寝そべらせて首に抱きついている。

 俺の前で、だ。前屈みみたいな姿勢なわけで、短いスカートが持ち上がって、気まずくなって目を逸した。


 あの女が俺たちの素性を知ってる以上、ラフィオとの会合も望むだろうな。そしてつむぎは、ラフィオと離れようとしない。

 一緒に連れていくしかないか。


「みんな、来てくれ。ラフィオ、さっきの所に」

「あの女とみんなを会わせるのかい? いや、そうするしかないか。味方だといいんだけどな」


 ラフィオも、状況は十分わかっている様子。


 澁谷に連絡を入れてから、魔法少女たちを追いかける人々から逃げて人気のない場所で変身解除。それから例の喫茶手の前に向かう。


「早かったですね。そちらの女の子は……」

「はい! シャイニーハンターです! それで、こっちがラフィオです!」


 澁谷とは初対面のつむぎが、元気に挨拶。テレビ局の人と会うとは事前に説明しておいた。


「僕のことは、この人も知ってるからね。あと、モフモフするな」


 小さくなってつむぎの手に握られているラフィオが抗議の声を上げるけど、それより先に確かめないといけないのは。


「あの女は?」

「ここよ。マスコミとなれ合う気はないけど、魔法少女の帰りは待たないといけないから」


 少し離れた所で、ガードレールに体を預けていた女が声をかけてくる。


「勝手に逃げたら、悠馬くんに暴力振るったところをテレビで流すって言っておいたし、あまり強気には出られないはずよ」


 澁谷がそう耳打ちした。なるほど、それはありがたい。

 暴力に関しては、魔法少女とは無意味の報道になるだろうけど。あの女はどうも、顔が世間に出回るのは困る立場らしい。


「じゃあ、始めましょうか。立ち話もなんだし、夕食でも食べながら」


 愛奈がそう提案して、さっさと道を渡って喫茶店の方に歩いていく。


「いいね。たまには、僕も夕食を作らない日がほしい」

「わたしはラフィオのご飯好きだけどねー」

「お前は自分の家で食えよ」

「澁谷さん、車椅子預かってくれてありがとうございます。あと挨拶が遅れました。シャイニーライナーの、神箸遥です」

「はじめまして。テレビもふもふのアナウンサー、澁谷梓です。車椅子のこと、お安い御用よ。今度、魔法少女とは関係なく取材していいですか? 車椅子の女の子の日常とかを」

「え? わたしテレビに出ちゃうの? なんか照れるな。ねえ悠馬、どうしよう」

「好きにしろ」

「悠馬も出るんだから、ここは真剣に考えなきゃいけないよ?」

「いや、なんでだよ」

「普段のわたしを献身的に支える、親しい男の子役で」

「いやいや……」


 そんな他愛のない会話をしながら、俺たち五人と澁谷は喫茶店に入っていく。ラフィオも店内で話しやすいように、少年の姿になっていた。

 謎の女は、ちょっと戸惑った様子ながらついていく。


 他のテレビクルーは外で待機だ。女の希望で、撮影は一応しないということになっているらしい。

 似た感じの役者を使って撮影した上でいい感じでぼかした映像と、それっぽい声の声優を使っての再現VTRを作って放送に乗せることはできるらしい。

 澁谷がそう耳打ちしながら、小さなボイスレコーダーがポケットに入っているのを見せた。


 合計七人、丸いテーブルに座る。謎の女は、俺とほぼ対面する形だ。


「それで、みんな何食べる? わたしはナポリタンかなー。あと、ここってお酒出るのかしら」

「酒飲むなよ。知らない人の前で」

「悠馬は何食べる?」

「……エビピラフ」


 メニューにピラフの文字を見つけた瞬間には、俺の心は決まっていた。


「悠馬ってピラフ好きよね」

「へー。そうなんだ。じゃあ、今度お邪魔したとき使ってあげよっか? てか、今度からお弁当のご飯ピラフにしよっか?」

「本当か!?」

「おおう。思ったより食いつきが強い。いいよ、やってあげる」

「ラフィオー。オムライスあるよ」

「僕はカレーとプリンが食べたい」

「え、デザートもいいの? じゃあわたし、メロンクリームソーダほしい! ……いいですか、愛奈さん」

「あー。聞くべきはわたしじゃなくて、澁谷さんかなー? この飲食費、経費で落ちたりしますか?」

「取材って名目なら、なんとか」

「ちょっといいかしら……」


 咳払いしながら、女が声をかけてきた。そういえばちょっと、この女のことを忘れてた。


「立場上、誰かに奢ってもらうのはまずいのよね、わたし」


 ちょっと遠慮がちに言う彼女。そういう立場ということは。


「わかった。あんたのこと、教えてくれ」

「ええ。わたくし、こういうものです」


 と、名刺を取り出して俺に見せる。魔法少女たちの代表が俺だと考えているからか。愛奈や澁谷じゃなくて。


 名刺には「警視庁公安部 樋口一葉」と書かれていた。

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