「フィアアアアア!!」
フィアイーターは俺たちを見て、箒を振り上げて襲いかかった。魔法少女であるライナーが前に出る、と思ったら。
「うおおおお!! お姉ちゃんが来ましたよ!」
現場に急行したらしいセイバーが前に割り込んで、剣でフィアイーターの箒を受け止めたと思ったら、さらに踏み込んで体当たり。
フィアイーターを一歩後退させた。
「とりゃー! セイバーキック!」
そのフィアイーターの胴をセイバーは真正面から蹴って、よろけさせた。
「ちょっとお姉さん!? キックはわたしの技なんですけど!?」
「わたしがキックしてもいいでしょー? てかお姉さん言うな!」
「うるさいです! 大した蹴りもできないくせに!」
「ふふん。その分、わたしには武器があるから!」
横に並んでフィアイーターに攻撃を試みるライナーの抗議に、セイバーは涼しい顔だ。
そのままふたりして攻撃に移ろうとした瞬間、ふたり揃ってぎょっとしたように横に退いた。
直後、ふたりの間を光の矢が通過してフィアイーターの額に当たる箇所を貫いた。
「ちょっ! ハンター! 危ないでしょ! なにするのよ!?」
「大丈夫です! 別に避けなくても、ふたりの間を通る矢を撃ちましたから! ちょうどふたりの、首の細くなってる所を通るように!」
「当たり前のように首をかすめるやり方しないでくれるかな!?」
「心配しなくても、わたしは狙った的とラフィオは外しません!」
「怖いな。このモフモフ魔、マジで怖い……」
俺を乗せて戦況を見守っているラフィオは、言いながらガタガタ震えていた。
「ラフィオ! 乗せて!」
光の矢を放った張本人であるハンターは、そんなラフィオに尋ねながら上にまたがる。俺の前にだ。
ラフィオの返事は聞いてない。聞く意味もない。
駄目だと言われて、そうかラフィオは照れ屋さんだねって言いながら肯定と受けとる。つむぎはそういう子だ。
「ところでラフィオ、あのキエラって女の臭いがするんだけど。いたの?」
「臭いでわかるのかよ。いたけど、もう帰ったぞ」
「そっかー。いたら、わたしがラフィオの恋人だから諦めてって言おうと思ったのに」
「嫌だなあ。キエラも嫌いだけど、こいつと恋人扱いになるのも嫌だ」
「ラフィオ、フィアイーターの横に回ってくれ。ハンターはフィアイーターを側面から撃って動けなくするんだ」
「はーい」
「お前、僕の気持ちを一切考えずに指示出してるだろ」
ふたりとも、気持ちに差はありつつ俺の言うことを聞いてくれた。
目の前のフィアイーターに対処しつつ、背後から矢が飛んでこないかと気にしてる様子のセイバーとライナーを助けるための指示。
ハンターにしたら、自分の矢が外れるはずがないから心配は無用なんだろうけど、無用な心配で邪魔させたくない。不意に動いた結果当たることもあるし。
横に回って、柄から生えるようについているフィアイーターの足を正確に射抜くハンター。まずは踵、それから膝と脛。容赦がない。
片足がボロボロになったフィアイーターは大きく体勢を崩し、そこをライナーに横面を蹴られて完全に転倒した。
「うおー! セイバー斬り!」
気合が入ってるのかいないのか、そんな叫びと共にセイバーがフィアイーターに向けて剣を振り下ろす。何度も何度も。
太い柄が剣で両断されて輪切りにされていく。そしてやがて、コアが転がり出てきて。
「えいっ!」
ライナーが光る足で踏み潰して、直後にフィアイーターは黒い粒子となって消滅した。
「今日は楽な戦いだったわねー。味方に後ろから狙われたこと以外は」
「もー。大丈夫ですよ。わたし、外さないので!」
「だとしても怖いのよ」
「それよりラフィオ、キエラがいたこと、もう少し詳しく教えてくれるかな?」
「大したことじゃない。あいつは、ここからミラクルフォースの玩具を万引するために、人払い目的でフィアイーターを作った」
「んー? 本当かなー?」
「本当だよ。僕だって信じられないくらい馬鹿馬鹿しい理由だけど」
「そっかそっか。あの女と、また付き合うとか言わないならいいよ! 今のラフィオにはわたしがいるしね!」
「その言い方もどうかと思うぞ。僕は嫌だからな」
「モフモフー!」
「あああああ! やめろ!」
相変わらず賑やかだな。特に、事情を知らないセイバーとハンターは。
けど、忘れちゃいけない用事があったわけで。
「なあ姉ちゃん、聞いてくれ。実は、会わないといけない人がいるんだ」
さっき喫茶店の前でやりとりした、謎の女のことを話す。
澁谷に取材の名目で足止めしてもらってるけど、詳しい事情を聞かないといけない。
「えー? なんでそんな大事なこと、お姉ちゃんに相談しなかったのかな!?」
「朝話そうとしたけど、なんか遅刻しそうだったし。姉ちゃんがもっと早い時間に、自分で起きられたら相談できたんだけど」
「あー。それは無理ね!」
セイバーのままで、駄目社会人は無い胸を張った。得意げに言うな。
こんな姉だから、俺もメモに気づいたんだけど。
「まあいいわ。大人を交えて会おうとした努力は立派ね。なんで保護者のわたしじゃないのかは疑問だけど。会うのが六時なら、仕事を早めに切り上げて一緒に行ってあげたのに!」
「悪かったよ」
「むしろ! 仕事から早く帰る口実ができたのに!」
「駄目な姉だなあ」
尊敬できる所とできない所を高速で往復する姉の姿には疲れる。