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2-19.箒のフィアイーター

「フィアアアアア!!」


 フィアイーターは俺たちを見て、箒を振り上げて襲いかかった。魔法少女であるライナーが前に出る、と思ったら。


「うおおおお!! お姉ちゃんが来ましたよ!」


 現場に急行したらしいセイバーが前に割り込んで、剣でフィアイーターの箒を受け止めたと思ったら、さらに踏み込んで体当たり。

 フィアイーターを一歩後退させた。


「とりゃー! セイバーキック!」


 そのフィアイーターの胴をセイバーは真正面から蹴って、よろけさせた。


「ちょっとお姉さん!? キックはわたしの技なんですけど!?」

「わたしがキックしてもいいでしょー? てかお姉さん言うな!」

「うるさいです! 大した蹴りもできないくせに!」

「ふふん。その分、わたしには武器があるから!」


 横に並んでフィアイーターに攻撃を試みるライナーの抗議に、セイバーは涼しい顔だ。


 そのままふたりして攻撃に移ろうとした瞬間、ふたり揃ってぎょっとしたように横に退いた。

 直後、ふたりの間を光の矢が通過してフィアイーターの額に当たる箇所を貫いた。


「ちょっ! ハンター! 危ないでしょ! なにするのよ!?」

「大丈夫です! 別に避けなくても、ふたりの間を通る矢を撃ちましたから! ちょうどふたりの、首の細くなってる所を通るように!」

「当たり前のように首をかすめるやり方しないでくれるかな!?」

「心配しなくても、わたしは狙った的とラフィオは外しません!」

「怖いな。このモフモフ魔、マジで怖い……」


 俺を乗せて戦況を見守っているラフィオは、言いながらガタガタ震えていた。


「ラフィオ! 乗せて!」


 光の矢を放った張本人であるハンターは、そんなラフィオに尋ねながら上にまたがる。俺の前にだ。

 ラフィオの返事は聞いてない。聞く意味もない。


 駄目だと言われて、そうかラフィオは照れ屋さんだねって言いながら肯定と受けとる。つむぎはそういう子だ。


「ところでラフィオ、あのキエラって女の臭いがするんだけど。いたの?」

「臭いでわかるのかよ。いたけど、もう帰ったぞ」

「そっかー。いたら、わたしがラフィオの恋人だから諦めてって言おうと思ったのに」

「嫌だなあ。キエラも嫌いだけど、こいつと恋人扱いになるのも嫌だ」

「ラフィオ、フィアイーターの横に回ってくれ。ハンターはフィアイーターを側面から撃って動けなくするんだ」

「はーい」

「お前、僕の気持ちを一切考えずに指示出してるだろ」


 ふたりとも、気持ちに差はありつつ俺の言うことを聞いてくれた。


 目の前のフィアイーターに対処しつつ、背後から矢が飛んでこないかと気にしてる様子のセイバーとライナーを助けるための指示。

 ハンターにしたら、自分の矢が外れるはずがないから心配は無用なんだろうけど、無用な心配で邪魔させたくない。不意に動いた結果当たることもあるし。


 横に回って、柄から生えるようについているフィアイーターの足を正確に射抜くハンター。まずは踵、それから膝と脛。容赦がない。

 片足がボロボロになったフィアイーターは大きく体勢を崩し、そこをライナーに横面を蹴られて完全に転倒した。


「うおー! セイバー斬り!」


 気合が入ってるのかいないのか、そんな叫びと共にセイバーがフィアイーターに向けて剣を振り下ろす。何度も何度も。

 太い柄が剣で両断されて輪切りにされていく。そしてやがて、コアが転がり出てきて。


「えいっ!」


 ライナーが光る足で踏み潰して、直後にフィアイーターは黒い粒子となって消滅した。


「今日は楽な戦いだったわねー。味方に後ろから狙われたこと以外は」

「もー。大丈夫ですよ。わたし、外さないので!」

「だとしても怖いのよ」

「それよりラフィオ、キエラがいたこと、もう少し詳しく教えてくれるかな?」

「大したことじゃない。あいつは、ここからミラクルフォースの玩具を万引するために、人払い目的でフィアイーターを作った」

「んー? 本当かなー?」

「本当だよ。僕だって信じられないくらい馬鹿馬鹿しい理由だけど」

「そっかそっか。あの女と、また付き合うとか言わないならいいよ! 今のラフィオにはわたしがいるしね!」

「その言い方もどうかと思うぞ。僕は嫌だからな」

「モフモフー!」

「あああああ! やめろ!」


 相変わらず賑やかだな。特に、事情を知らないセイバーとハンターは。



 けど、忘れちゃいけない用事があったわけで。


「なあ姉ちゃん、聞いてくれ。実は、会わないといけない人がいるんだ」


 さっき喫茶店の前でやりとりした、謎の女のことを話す。

 澁谷に取材の名目で足止めしてもらってるけど、詳しい事情を聞かないといけない。


「えー? なんでそんな大事なこと、お姉ちゃんに相談しなかったのかな!?」

「朝話そうとしたけど、なんか遅刻しそうだったし。姉ちゃんがもっと早い時間に、自分で起きられたら相談できたんだけど」

「あー。それは無理ね!」


 セイバーのままで、駄目社会人は無い胸を張った。得意げに言うな。


 こんな姉だから、俺もメモに気づいたんだけど。


「まあいいわ。大人を交えて会おうとした努力は立派ね。なんで保護者のわたしじゃないのかは疑問だけど。会うのが六時なら、仕事を早めに切り上げて一緒に行ってあげたのに!」

「悪かったよ」

「むしろ! 仕事から早く帰る口実ができたのに!」

「駄目な姉だなあ」


 尊敬できる所とできない所を高速で往復する姉の姿には疲れる。

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