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2-18.キエラの買い物

 双里悠馬が覆面男なのは知っていたけど、まさか黄色い魔法少女が普段は車椅子生活を送っているとは思わなかった。


 澁谷梓は魔法少女たちが怪物を倒しに行くのを、驚きの表情で眺めていた。


「信じられないわよね。魔法少女になれば、失われた片足が生えてくるなんて。あの子が片足になった理由、知ってる? ファミレスのガス爆発らしいわ」


 同じく背中を見送った謎の女が、渋谷の知らなかった情報を当然のように語った。


「あなた、何者なの?」

「ふふっ」


 女は落ち着きを取り戻したのか、微笑みを見せた。カメラに撮られる状況は覆しようがなく、その中でどう振る舞うのが最適なのかを悟ったようだ。


「質問に答える前に、ひとつだけ教えて。あなたはなぜ、魔法少女に味方しているのかしら。独自取材をして、人気を集めて出世でも望んでいるの?」


 女は挑発するような質問を返した。


 なるほど。中央のテレビ局に入れず燻っていた自分にとっては、魔法少女のニュースは魅力的。そう話したことはある。

 けど、それだけじゃない。


「彼らが助けを求めたからよ。助けが必要な人たちだったから。世界を守るために戦う魔法少女は、そんなに強い人間じゃない。それに……子供から頼られたら、助けてあげるのが大人です。わたしはそう考えます」

「……なるほどね。いいわ。わかった。事情は話すわ。ただし、あの子たちが戻ってきてからね」

「ええ。取材はさせてもらいますから」

「あー。それは」


 女は困ったような顔を見せた。動揺はしていなかった。


「できるだけオフレコでお願いね。たぶん取材の内容、放送しようとは思わないだろうけど」



――――



 フィアイーターが暴れているのは、週末も戦ったショッピングセンターの玩具売り場。

 当然ながら先日の惨状はほとんど片付いておらず、何かの破片やら商品の箱なんかが乱雑に散らばっていた。


 警察が規制線を張っていたのが数日間。これ以上調べても何も得られることはないと判明して、遺体の収容も終わったから、店員なり業者が片付けようとしていた矢先に新しいのが現れた。

 営業妨害も甚だしいよな。魔法少女の聖地とか繰り返し魔法少女が現れるかもしれない場所とかで、被害に遭ってない部分はファンが大勢訪れて繁盛してるらしいけど。


 現れたフィアイーターは、箒の形をしているらしい。

 細かな瓦礫の掃き掃除に使われてたのかな。

 場所が場所だから、避難は既に完了していたとのこと。というか、元々人がいなかった。清掃業者くらいだろう。


 その場所に着くまで俺たちはショッピングセンター内を駆け抜けるわけだから、怪物から逃げつつ魔法少女の到来を期待している人々の目に留まることになるわけで。


「おお。すごい歓声。やっぱわたしたち、基本的に人気者なんだね!」

「いい傾向だ。魔法少女が希望になっている」

「メディアのおかげでもあるよな。テレビが好意的に取り上げてくれたから」

「へー。そうだよねー。悠馬は、あの美人のアナウンサーさんに感謝してるもんねー」

「だから」


 そういうのじゃないってば。


 人々が俺たちに道を開ける。怪物はあっちだとか、こんな形をしているとか声をかけてくれる。

 現場につく前にフィアイーターの姿や現場の様子を把握できたのは、そのおかげ。


 スマホから情報収集したのもあるけど。


「フィアァァアア!」

「おー。ちゃんと箒だね! ぶっといけど!」

「そうだな。武器も箒みたいだな」


 成人男性くらいの大きさに巨大化した箒は、横にも伸びていて細いはずの柄の胴体は簡単に折れそうって印象にはならなかった。

 俺が片手で掴んでも、親指と中指が届かなさそうな程度には太い。そこから生えている手足も太かった。

 そして手にはプラスチック製の箒。これは普通サイズ。とはいえ怪物が圧倒的な腕力で振り回せば、人は死ぬだろう。


 今回は幸いにも、倒れている人の姿は確認できなかった。見た範囲では、という意味だけど。

 その代わりに。


「はぁい、ラフィオ。何日ぶりかしら」

「キエラ……」


 怪物騒ぎの元凶が、買い物かごを片手にフィアイーターの後ろから顔を出した。

 買い物かごの中身は、ピンク色の目立つ玩具の箱。


「ティアラからお願いされて、ミラクルフォース? の玩具を貰いに着たんだけど何がいいのかわからなくて。変身アイテムってやつと、なんか武器みたいなやつと……あと何を買えば喜んでくれるかしら。なりきりコスチュームっていうやつは、ティアラには小さすぎるのはわかるのよね。着たいって言うかもしれないけど」

「そんなこと、教えるはずがないだろ」


 唸るように言うラフィオに、キエラは一切動じる様子がなかった。


「ふふっ。わかるわかる。あなたが教えてくれるはずがないって。だから、わたしは帰るわね。お買い物の邪魔されるのは嫌だし、早くティアラの喜ぶ顔が見たいわ」


 買い物か。金も払ってないだろうに。

 玩具が散乱していて持っていき放題だからとかの理由でこの場所を選んだだけのキエラは、笑いながら姿を消した。

 後には、気合い十分で箒を素振りしているフィアイーターが残されている。


「買い物のために人払いをする目的でフィアイーターを作るなんて。キエラのやつ」

「ちょっとだけ、冗談のわかる奴に思えたか?」

「冗談にしては趣味が悪すぎる。あいつを好きになるわけにいかない」


 ラフィオは本気で、キエラを憎悪してるようだ。

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