俺も雑賀のSNSを見る。魔法少女への感謝の言葉と、事務所を避難所として使えたことを誇りに思っている旨が書かれていた。
あと俺と握手してる写真も。おい、許可してないぞ。まあ顔が隠れてるわけだし、配慮もなにもないのかもしれない。
魔法少女や覆面男の写真や映像は既にネットやメディアに出回っているし、今更なんだろうな。
それから。
「魔法少女と被災者支援の基金を設立する、だって」
遥がふとつぶやいた。
「基金?」
確かに、そんな書き込みもある。専用のホームページも用意されていた。
市の予算と国民からの寄付を募って、被災遺族に見舞金を送ったり負傷者や損害を負った人たちへの補償金とする、みたいな内容が書かれていた。
それから、市民のために尽力している魔法少女たちへの支援のためにもお金を使うと。
「わたしたちへの支援って、なんだろ。お金くれるのかな?」
「素性がわからない、調べる気もない相手に金をどうやって渡すんだ?」
「そっかー。たしかに無理そう」
じゃあ、支援とはなんなのか、俺にもわからなかった。
ホームページを見るに、市民の迅速な避難誘導システムの確立と避難用シェルター設置と書かれていた。
まあ、あってもいいと思う。避難が迅速に進んで被害が少なくなるに越したことはない。魔法少女は人がいない場所で変身しなきゃいけないから、さっさと逃げてくれるのは嬉しい。逃げ場所が決まっているのもいいだろう。
その他、アイディアを広く募集しますと書かれていた。あまり多くは決まってないのか。
アイディアはないけど、とりあえず動き出すのは早いほうがいい。ページのどこを見ても、募金を促すポップアップがついてくるのは……金がかかりそうな事業だし、仕方ないのだろう。
雑賀の他、彼女に賛同する数名の市議会議員が音頭をとってやってるらしい。
「なんとか、わたしにお金くれる方向にならないかな」
「まだ言ってるのか。まとまったお金があったら、なにがほしいんだ? 高い車椅子とか?」
「車椅子はこれで十分です! 高い電動車椅子とか、操作を覚えるの大変だし! これが一番使いやすいので! お金の使い道は……考えてません!」
「なんだよそれ」
「お金は、あればあるほどいいので!」
親指を立てるな。この世の真理かもしれないけど。
「自分の足で走れる上にお金も貰える。これって最高じゃないですか!?」
「はいはい。そうだな」
そんなことより、本題の方をなんとかしないと。
このメモ、怪しいんだよな。気になるのだけど、素直に従っていいものかわからない。
「だったらさ、会わずに相手の様子を見てみようよ」
「うん?」
「相手の居場所がわかるなら、喫茶店の外から隠れて様子を見てみよう。それで、会ってみて問題がなさそうならお店に入る」
「なるほど」
会って問題がないかどうかを、どうやって判断するのかの問題はあるけど、何もしないよりはいい。
もちろん、もう少し考えつく対策はした方がいい。俺は少しだけスマホを操作した。
少し後、放課後。
「あのお店だね」
俺と遥とラフィオは、例の喫茶店の近くにいた。
駅周辺の俺の行動範囲は、あのショッピングセンターまで。そこより向こう側には行ったことがない。
知ってるようで知らない場所という非日常感に、少し心が踊る。いや、それどころじゃないのだけど。
約束の時間までもう少し。俺たちは車道を挟んだ反対側の道に立って、店内の様子を見た。
喫茶店の前の路上に停車している車もあるけど、確認は可能だった。
「全面ガラス張りってわけじゃないけど、大きな窓があるから店内は見えるね。例の人はいる?」
「見当たらないな。……てか、なんで遥がいるんだよ」
「放っておけないので! それにあれじゃん? 悠馬は相手に素性がある程度知られてる。覆面男と同じ制服を着てるしね。けど、わたしの素性は誰も知りません! だから堂々と、ここから監視ができます!」
それはそうかもしれないけど。車椅子の女子高生が道の向こう側の喫茶店をジロジロ見るのも、かなり目立つぞ。
「その女の人、悠馬のファンかもしれないよ。悠馬っていうか覆面男のだけど。だからお知り合いになろうとしてメモを入れたの」
「俺が戦ってる所に駆けつけて、急いでメモを書いてピンチになったのを見計らってポケットに入れたって?」
「うん!」
遥は自信満々らしい。
そんなこと、あるかな。準備が良すぎるというか。
魔法少女のファンがいるなら、俺のファンもいていいのかもしれないけど。
それが、怪物が暴れていると知るや、自分も魔法少女になる好機と見て……いや、ありえないと思うけどな。
「ありえるね! というか、悠馬に近づこうとする不埒な女は許せません!」
「何を言ってるんだ、お前は」
「わたしというものがありながら、他の女と仲良くするのは良くないな!」
「別に恋人でもないし、いいだろ」
周りにはそう誤解されてるけど。遥のせいで。
あと、こんな変な呼び出し方する知らない女と、仲良くなりたくない。
「だいたい悠馬は、年上とばっかり仲良くして。もっと同年代を見なさい!」
「なんだよ。年上ばっかりって」
「お姉さんと仲いいでしょ!」
「姉と弟。仲いいのは当たり前だろ。てか、そういう仲じゃないし」
唯一の肉親なんだから。最近は家もちょっと賑やかになったけど。
「ふーん。へー。そっかー。まあ悠馬からすれば、そうかもしれないけどねー」
遥は全く納得していない様子だった。
「なんだよ」
「あと、アナウンサーさんとも仲良くなったしー?」
「あれは仕事上の関係だよ」
「へー。まあ、悠馬からすればねー」
「だから」
同じ言葉を繰り返して俺をニヤニヤ笑いながら見る遥。なんなんだ、こいつは。