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2-13.雑賀優子

 関係性を考えるなら、取材には応じた方がいいよな。けど。


「はい! 今日も魔法少女シャイニーフォースは世界を守りました! ではまた!」


 セイバーはさっと仕事に戻ってしまう。ライナーもそれに続いた。それは仕方がないこと。


「なんだい? 取材かい?」


 大きなラフィオが、ハンターにしがみつかれたまま、のそのそと歩いてきた。


「ラフィオたちも先に帰っててくれ。取材は俺が受ける」

「いいのか?」

「ああ」


 大人数で受けることはない。魔法少女がこの場にいると、野次馬が集まってきそうだし。奴らは澁谷たちと違って信頼できない。

 だから単独で、この取材班の車に連れて行かれてゆっくり取材を受け入れるという流れにしたい。


 既に怪物は倒されていて、テレビ局的にも撮れる映像と言えば破壊の爪痕くらい。

 カメラマンは既に、へこんだ車や事務所の入口なんかにカメラを向けていた。


「取材には俺が応じます。場所を変えましょうか」


 ラフィオとハンターを行かせてから、俺は澁谷とその後ろのディレクターに目を向けた。

 向こうも俺たちの事情は知っている。破壊された映像を背景にした覆面男の画も、既にカメラで撮っていた。

 連れて帰ってゆっくり話そう。ついでにロケ用のこの車で家まで送ってもらおう。クルーたちもそれに納得しかけたところで。


「少しいいでしょうか!」


 そんな風に声をかけられた。


 いいかどうか返事をする前に、声の主はこっちにずんずんと歩み寄ってきた。カメラも思わずそっちに向いていた。

 さっきも見た顔だ。本人じゃなくて事務所に飾ってあったパネルで、だけど。そしてようやく、この人が誰か思い出した。


「雑賀優子さん?」


 俺の質問に、彼女は感極まったような表情を見せた。うろ覚えの名前を間違って言ったとかはしなかったらしい。


 魔法少女と覆面男の正体を知るべきだと主張している市長と大勢の市議会議員に反対意見を唱えている議員。

 ああ、さっき突っ込んだ事務所は、この人のだったのか。なんというか、奇妙なめぐり合わせだな。


 面倒くさいと、ちょっと思ったのも確かだった。


「この度は、市民を怪物の手から守っていただき、ありがとうございました!」

「は、はい……」


 雑賀は俺の手を握って、満面の笑みを浮かべてそう言った。


 もちろんその様子もカメラに撮られている。雑賀を見ると、顔は俺ではなくカメラの方を向いていた。

 マスコミ向けの画を提供しているのだろう。俺への感謝は、間違いなくあるのだろうけど。


「市長をはじめとして、議会の主流派が皆さんの正体を暴こうと考えていること、ご存知でしょうか?」

「え、ええ。知ってます……」


 知らないと答えたら、たぶんこの人は細かく説明するだけ。時間の無駄だ。


 とはいえ俺が戸惑い気味に肯定の返事をしたことに、雑賀は満足げな様子を見せた。戸惑いが、市長たちの方針への不信感から来たものだと思ったのだろう。

 正義のヒーローたちが、権力の横暴に虐げられているのに困惑していると。


「ご安心ください! この雑賀優子、みなさんのことをお守りします! 魔法少女やあなたの正体を決して詮索しない。そう約束します!」

「あ、ありがとうございます……」


 その宣言自体は嬉しいんだけどな。


 あと、そろそろ手を離してほしい。カメラが回っているのも……これはテレビクルーたちとの関係を考えれば、やめろと言うのも難しい。


「市民の皆様も、どうかご安心ください! わたくし雑賀優子、雑賀優子は魔法少女を支援し、市民の皆様を守るため、全力を尽くすと約束します!」


 おお、と様子を見ていた市民から声があがった。


 おそらく雑賀は、事務所に市民を避難させていた。そこの人たちから感謝されていることだろう。  

 そうじゃなくても、ここに事務所があるなら、ご近所さんに普段から挨拶して支持者としているのは想像ができた。


 しかし、魔法少女を支援か。どうするかな。


 味方にしていいものか。俺にはまだ、判断はつかなかった。



 雑賀はまだ俺と話したがっている様子だったけど、俺たちの正体を詮索しないと宣言した手前、長く引き止めるわけにもいかない。

 俺は澁谷たちの車に同乗して、家まで送ってもらった。もちろん道中はインタビューを受けることに。


 ちらりと振り返ると、雑賀は今度は集まった有権者たちと話しているところだった。選挙活動に余念がない。


 集まった人のなかに、ふとスーツの女が目についた。さっき俺を助け起こしてくれた人だ。

 俺を一瞬だけちらりと見たけど、すぐに雑賀の方に視線を戻した。



 受けたインタビューの内容は、大したものじゃない。戦った感想と、今後の意気込みについてだ。

 タオルはようやく脱げた。取材には撮影がつきものだけど、俺のお腹のあたりを撮るから顔は映さないとのことで。


 このタオル、ずっと巻いてると蒸れるんだよな。外気もそうだけど、自分の呼気に含まれる水分で。


 これ、なんとかしないといけないな。


「さっきは大変でしたね。政治家に話しかけられるなんて」


 インタビューも一段落したところ、澁谷にそう声をかけられた。

 さっきまでの、アナウンサー然とした話し方ではなく、フランクな知り合いと接する時の話し方だ。


「あの政治家、どう思う?」

「そうね……悪い噂は聞いていないです。そもそも前の選挙で当選した一期目の議員だから、情報がないのよね」


 テレビ局も、特になにか悪いことをしたわけじゃない政治家について、わざわざ調べたりはしない。

 特に政治部の記者でもないのだから。

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