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2-6.愛奈の仕事と再撮影

「なるほどねー。大貫市長か。そういえば選挙行ったわねー」


 五人で夕食を食べながら、俺は愛奈とつむぎに改めて事情を話した。


「うちの会社にも訪問してきたわ、市長。投票お願いしますって。地元の工業系の会社ひとつひとつに足を運んでるらしいわ。票は足で稼ぐってね」

「どんな人だった?」

「さあ。外面は良かったけど、わたしああいう政治家好きじゃないし」

「好きな政治家はいるのか?」

「いません! 政治家とかあれでしょ? なんか中身のない格好いいこと言ってたら、周りがちやほやしてお金が儲かる仕事でしょ! 羨ましいから嫌いです!」


 そして愛奈は無い胸を張る。


 権力をどう牽制するかを考えてる時にあれだけど、さすがに愛奈の言い分は政治家を馬鹿にしすぎてる。

 あの人たちも、もう少し忙しく毎日頑張ってると思うぞ。SNSに掲げたスローガンは、たしかに中身がないけど。


「まあわたしも、成人だし投票は行ったけどね。正直市長のひととなりとか、よくわかりません!」

「ああ、参考にならない意見をありがとう」

「それで、その市長と対立してる候補が澁谷さんだっけ?」

「雑賀さんだ。澁谷梓は、政治家じゃなくてアナウンサーな。あと雑賀さんも市議会議員で、市長の対立候補じゃない」

「そんなこと言われても! 急に名前がたくさん出てきても覚えられないし! せめて名前に肩書をつけて話してください!」

「はいはい……」


 大貫市長が魔法少女の正体を探っていて、雑賀議員が反対している。雑賀議員の存在はありがたいけど、どこまで信頼できるかわからないから、とりあえずメディア向けに声明を出そうと考えたわけだ。

 犯行声明じゃなくてな。


「なるほどねー。ちなみに悠馬、なにを喋るかは事前に決めてある? 原稿は用意してる?」

「え? いや。とりあえず動画を撮らないとって思って」

「駄目よ。テレビで流してもらうんでしょ? 言いたいことだけ長々と話しても、相手は聞いてくれないわ。テレビは特に、秒単位で構成を決めてるんだから、手短にまとめないと放送してくれないわ」

「おおう……」


 愛奈が突然、的確なアドバイスをしてきたから面食らってしまった。ラフィオも遥も同様らしい。

 つむぎだけは、いつラフィオの体を掴むかと狙いを定めていた。


「急にどうしたんだ」

「どうしたって。いつも仕事で考えてることよ。顧客が必要な商品を提案する時、長々と話すよりは一言でバシッと心を掴む方が成功しやすいの。細かい説明は、その後でいいわ。そうじゃなきゃ営業の仕事はできない」

「お姉さんの仕事、営業なんですか!? 一番できなさそうな仕事なのに!」

「お姉さん言うな」

「仕事できなそうよりも、そっちの方が言い返すのが優先なんですね。ところで、なんの営業ですか?」

「簡単に言うと、ドリルね」

「ドリルですか? 昔のヒーローものとかに出てくる、地面を掘り進んでいくマシンについてる三角形のやつ?」

「ああいう地底戦車は、実際作っても使えないのよ。それとは違う、穴を開けるための道具よ」

「……ホームセンターで売ってる電動ドリルですか?」

「似たようなものね。うちで扱ってるのは家庭用じゃなくて、工場とかの製造現場のやつ。ボール盤とかで使うやつ。知らないわよね。板に物を固定して、上から回転するドリルを降ろして穴を開けるの。ドリルの形とか経も色々あってね」

「一言でバシッとはどうした」

「ああう。やっちゃった……」


 長々と説明し始めた愛奈の言葉を打ち切る。


 愛奈の仕事も大事だけど、今は動画撮影だ。


「ラフィオ。とりあえず伝えたいことは、俺たちが人類の味方で敵が異世界から来ていること。俺たちの正体を探るのは困るということと、みんなに希望を持って恐怖に打ち勝ってほしいことの四点だよな?」

「そうだ。そのこと、簡潔に伝えるように話そう」

「動画を編集してテロップを入れてもいいな。姉ちゃん、なんか簡単に使える動画編集ソフトを探してくれ。それから、別途説明用のスライドを作ってくれ」

「えー。なんでそんな。帰ってからも仕事みたいなことしなきゃいけないのよ。てか、わたしって外回りがメインの営業だし、資料作る機会そんなにないのよ」

「作れないわけじゃないだろ。やってくれ」

「ふぁーい」

「遥は連絡用のアカウントを作ってくれ。撮影役はつむぎ、頼む」

「終わったら大っきなラフィオモフモフしていい?」

「ああ。いいぞ」

「よくない!」


 いつもの騒がしさで撮影を始めたけど、あらかじめ話すべきことをまとめていたら、思ったよりもスムーズに進んだ。

 あとは編集作業。テレビ局に送ったら、向こうでそれなりに親切に見やすくしてくれると、希望的観測をしてもいいのだけど。それと。


「仕事なんてやってられるかー! 酒だー! 酒持ってこーい!」


 パソコンに向かいながらビールを飲んでる愛奈が作った、誤字だらけのスライドの修正もしないと。

 これはテレビ局向けの説明資料だし、多少完成度が低くてもいいか。足りない分は、言葉で説明しよう。


「ラフィオー! モフモフさせて!」

「お断りだ! 絶対に嫌だ!」


 撮影が終わった途端に、つむぎはラフィオに飛びかかったし、ラフィオも人間態に変身してこれを受け止めた。

 腕と腕の掴み合いで、一進一退の熱戦が繰り広げられている。ラフィオの方が腕力は上だけど、一瞬でも油断すれば首をくすぐられて妖精に戻ってしまうから。


「なんで男の子の格好になるの!?」

「嫌かい?」

「このラフィオもかっこよくて好きだけど! わたしはモフモフしたいの!」

「させないからな! くすぐり返してやる!」

「わひゃー!?」


 楽しそうだなあ。

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