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2-5.動画撮影をしよう

 本当にこの市議会議員が信用できるか、わからないもんな。戦いの手伝いをお願いするにしても、具体的に何をしてもらうか俺たちもわからないし。


 聞いたことのない地方議員と、どう接触すればいいんだろう。


 それに、先方がこちらに協力的かもわからない。こっちの正体を探らないと言い切ってるのはつまり、俺たちと積極的に関わる気がないって受け取り方もできる。


「とはいえ、なにもしないわけにはいかないよ。どうする?」

「つきつめれば、世間に気にするなって伝えればいいんだろ? 魔法少女に任せておけって」

「まあ、そうだね」

「伝えてやろう。マスコミを使うんだ。テレビとか」

「なるほどメディアか。いいね。広く呼びかけるには最適だ」


 多くの人が魔法少女を希望と認識するのがラフィオの戦略。マスコミを使うのは。彼にとって理に適っているのだろう。


 となれば、マスコミの中で誰に協力を要請するかだ。

 こっちに好意的な相手なら都合がいい。


 心当たりがあった。



「これだねー。テレビもふもふのアナウンサー、澁谷梓」

「嫌な名前のテレビ局だなあ」

「模布市にあるローカル局だし、名前にそれ以上の意味はない」

「モフモフって言葉自体が嫌なんだよ。あの悪魔を思い出して」

「ラフィオー。モフモフさせてー」

「ひいぃっ!? って! おい遥! 心臓が止まりそうな物真似をするな!」


 俺の家に上がりこんだ遥が、スマホの画面をラフィオと一緒に見ていた。

 愛奈はまだ帰ってない。つむぎも、今は家にいない。


 俺たちが助けて、ショッピングセンターでの戦いでは中継で感謝の言葉をかけてくれたアナウンサーを調べているところだ。


 放送の方針はアナウンサー個人で決められるものじゃない。一緒にいたクルーの決断か、それともさらに上の意思が働いているのだと思う。

 それでもネットで調べる限り、この放送局が製作している番組では、魔法少女のことを悪く扱ってはいないらしい。


 全国ネットで放送しているテレビ局の系列局であり、テレビもふもふ独自の番組はそう多いわけではない。

 けど平日のお昼過ぎから夜七時のゴールデンタイム入りまでの夕方の時間帯までは、ローカル向けの情報番組をやってるらしい。俺は学校にいる時間帯だし、滅多に見ないけど。


 地元のグルメや催しの紹介とかが主な内容だ。あとはちょっとしたニュース。

 けど先週の半ばから、地元の大ニュースである魔法少女事件の話題も扱っているらしい。

 そんなテレビ局の女子アナのひとりが、澁谷梓さんだ。


「この人もSNSやってるよ。ダイレクトメッセージも送れるね」

「よし。やってみよう。俺たちが魔法少女の関係者である証拠と一緒にメッセージを送るんだ。動画としてな。そして、魔法少女が戦う目的と、要求を伝える」


 その動画が無編集でテレビで流れるなら良し。字幕とか、スタジオのアナウンサーの顔をワイプで付け足すくらいなら別にいい。

 映像を切り貼りして、本来の意図と全く違う内容にして放送しにかかる可能性も、一応考えないと。テレビってのは時々油断ならない。


 テレビもふもふの今の姿勢を見れば、ある程度は信用すべきにも思えるけれど。


「わかった。じゃあ早速、動画を撮ろう」

「撮影係は遥、頼む。動画には俺とラフィオが出る」

「え? いいの? 魔法少女が出演する動画の方が良くない?」

「確かにな。けど、今はこれでいい」


 でかいラフィオが動いて喋れば、それだけで証拠としては十分。魔法少女自身は、もっと後に出せばいい。


「じゃ、始めるぞ」


 撮影場所は、この家の中。ただし電波に乗ることを考えれば、個人が特定されるようなものが映るのは避けたい。

 ベッドからシーツを持ってきて、天井から吊るして幕のようにする。

 この白一色の背景に、俺と巨大化したラフィオで立つ。場所は、玄関から少し入った位置の廊下。シーツ一枚で全部覆える幅だし、家具の類も置いてない。床はありふれたフローリング。つまり場所が特定できるヒントがまったくない場所だ。


 俺はもちろん、制服を着て顔にタオルを巻いている。


「これ映ってる?」

「撮ってるよー。じゃあ始めて。よーいアクション!」


 遥が片手でスマホを構えながら、片手で親指を立てた。いや両手でしっかり持っとけ。カメラがブレる。


「よ、よし。カメラの前の皆さんはじめまして。魔法少女の仲間の妖精と覆面男です。今日は皆さんにメッセージを届けたいです。ええっと……」


 ラフィオが妙に緊張した口調で話し始めた。

 別に生放送ってわけじゃないけど、自分の気持ちを伝えるって難しいよな。


「ぼ、僕は違う世界からきました。エデルードという世界です。あー。エデルードは平和な世界で、それで……神様が作りました。住民は僕とキエラのふたり。そうなんですけど、なんか世界を作ってほしいって言われて?」

「落ち着け。説明が下手だぞ」

「そうは言ってもね。ええっと、それで僕は恋愛映画が好きになって」

「ただいまー。ラフィオ、今日のご飯はなにかなー?」


 突然ドアが開いて、愛奈が入ってきた。


「あ、あとそこでつむぎちゃんと会っちゃって。今日もご両親帰らないらしいから、一緒にご飯を」

「お邪魔しまーす! あ! ラフィオが大きくなってる! モフモフー!」

「あああああ! おい! やめろー! 離れろ!」

「ん? なんで悠馬タオル巻いてるの? あ、遥ちゃんも来てたんだ。でもなにしてるの?」

「あ、お姉さんお邪魔してます。ちょっと撮影というか。犯行声明というか」

「お姉さん言うな」

「犯行声明の方は突っ込まないんですね」


 愛奈の帰宅とつむぎの来訪によって、撮影は強制的に一時中断となった。

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