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2-4.市長と市議会議員

「なるほどなるほど。警察からだけじゃなくて、政治家からも注目されているようだね」


 小さな手でスプーンを使ってプリンを掬いながら、ラフィオは少し愉快そうに言った。


「市長ってどんな人なんだい?」

「えっとだな……」


 画面の中で長々と話す市長の下に、彼の肩書と名前がテロップとして表示されていた。模布市市長 大貫正造。


 正直、どんな人なのか俺もよく知らない。遥も同じらしい。


 事件の渦中の街の首長で政令指定都市の市長だから、こうやってマスコミにも注目されてるけど、一介の市長なんて普段は意識しないものだ。まして俺も遥も高校生だし。

 俺たちが投票で選んだ奴じゃないから。愛奈は、こいつの関わる選挙に行ってるはずだけど。

 行ってるよな。日曜日に出かけるとか無理とか言って、選挙権放棄とかしてないよな。


「大貫正造。五十九歳。市長になってから六年くらいで、今は二期目だって」


 遥が早速スマホで調べて、わかったことを読み上げる。

 最初の任期で大失敗をして選挙で落とされるような無能ではないらしい。


「前の市長のお弟子さんで、その人が亡くなった後に地盤を継いだって書いてあるよ」

「強固な支持層がいるってことか。どんな層なんだろう」

「前の市長さんは、工業地帯の工場とか町工場が作った集まりが出身らしいよ。模布市工業会だって」


 支持母体ってやつだ。


「なんというか、可もなく不可もなくって感じだね。適度に街の経済を維持していて、住民からも不満が出てないから市長を続けられてる」

「街の長なんてそんなもんだよ。今回の件も、無難な対応だよな」


 魔法少女の正体を調べるのは、街で起こった事件の対処としては当たり前のことだ。


 実際に調べるのは警察なんだろう。市長は指示をするだけ。そして市長が警察にどれだけ命令権があるかわからないけど、直属の上司ではない。

 もし警察の捜査がうまくいかなくても、市長に責が及ぶことはない。


 楽な仕事だ。


「ところで、市長は議員のほとんどが賛同していたって言ってたね。例外というか、反対者もいるのかな?」


 魔法少女の正体を一番隠したがっているラフィオが、そこが気になるという様子で尋ねた。

 権力者がこっちの正体を探るのはいい状況とは言えない。けど権力の中にも味方がいるのかもと期待しているのだろう。


「調べてみよう。後でな」


 もうすぐ昼休みが終わる。


「やれやれ。学生って大変だね。キラキラかわいい魔法少女の活動だけやってればいい、とはならないか」

「そうだな。大変だろ?」

「でも、楽しくもあると思うよ。君たちもそう感じていないかい?」

「まあねー。ラフィオのおかげで、わたしは悠馬と前より仲良くなれたしね! こうやって一緒にお弁当食べられるくらいになったし!」


 当の魔法少女である遥がラフィオを抱きしめながら答えた。

 楽しそうだ。


「お前は抱きつく時、あいつと違って暴力的じゃないからいい」


 ラフィオは、別のところで嬉しそうだった。



 俺が学生らしく真面目に授業を受けている間も、ラフィオは鞄の中でスマホを駆使して情報収集に勤しんでいた。

 午後の授業中ずっとだ。バッテリーの減りが心配だ。大きめのモバイルバッテリー買おうかな。


「雑賀優子。三十一歳。無所属の議員だ」

「……なにが?」


 放課後、バス停まで歩く俺と遥に、ラフィオが話しかけた。


「市議会議員の中の反対者だよ。市長が言うほとんどに、含まれない議員」

「調べたのか」

「議員の名前一覧を調べて、彼らのSNSを徹底的に見た。議員それぞれが自分のホームページを持ってたりするけど、魔法少女の話題は新しすぎてそっちには反映されていない。やっぱり速報性ならSNSだね」

「で、見つけたわけか」

「そうとも。これを見てくれ」


 ラフィオがSNSのアカウントを見せてくれた。


 アイコンは当然のように本人の顔写真。今言われた通りの年齢らしい女が、笑顔を向けている。

 写真を加工している可能性はあるけど、なかなか美人だ。白いスーツを着ているのがわかる。これもイメージ戦略なのだろう。


 ヘッダーに、なんとも抽象的なスローガンが掲示されていた。「子供たちの未来に誇れる市政を」とかそんなのだ。


 政治家のアカウントなんて、みんなこんなものだろう。市長のアカウントを見ても、違いはスーツの色くらいだと思う。


 比較的新しい投稿を見れば、魔法少女の正体を探るのには反対だという内容の書き込みが数件なされていた。

 幼い少女を含む女性たちの事情をいたずらに探ることは、人道に反するのではないか。権力がそれを率先して行うのは間違っている、と。


 その書き込みについてるリプライは、賛否両論という感じ。戦ってさえいてくれれば正体は気にしないって声も、市民には知る権利があるって声も。

 あと、魔法少女自体の賛否もあるな。戦ってくれて感謝してるとか応援してるとかの声もある一方、魔法少女こそが悪の根源だとか、怪物を作って自分で斃している自作自演だとかの声も見受けられた。


「みんな好き勝手に言ってくれるね。名も無き市民についての対処も考えないといけないかな。彼らも、なんとか僕らの正体を探りたがるだろうから。けど、とりあえずは市長への牽制が先だ」

「どうするの、ラフィオ? この議員さんに連絡する? わたしたちの戦い、手伝ってくださいって」

「彼女が市長や議会の主流派に対抗してくれるありがたい人物なのは確かだね。けど、接触をするのは少し待とう。やり方も考えないと」


 ラフィオが慎重なのは、やはり権力を信じ切っていないからだろう。

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