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2-2.ラフィオに向けられる愛

「大丈夫だよラフィオ! わたしはどんな事情でもラフィオの味方だから」

「そ、そうか。嬉しい、な……?」


 口ではそう言いつつ、明らかにつむぎを警戒していた。


「えへへ! それっ!」

「うわあっ!?」


 飛びついてきたつむぎに、ラフィオは飛のいて逃げながら人間の姿に変わる。


「もー。逃げないでよ」

「おい。やめろ。味方してくれるのは嬉しいが、お前だと嬉しくない」


 つむぎは両手を掲げて獲物に襲いかかるポーズをとる。あるいは掴みかかると言うべきか。狙うはラフィオの首筋。

 ラフィオもまた、つむぎの腕を掴んで阻止しようと身構える。緊張の一瞬が流れて。


「えいっ!」

「え?」


 つむぎの両手は、ラフィオの両手を包むように握った。


 ラフィオも彼女の手を狙っていたわけで、お互いの目標が近かったから、つむぎの思った通りになってしまった。


 困惑するラフィオに、同じくらいの年齢の少女が優しく語りかける。


「ラフィオの気持ちもわかるよ。お母さんで恋人が敵だなんて、言い出せないよね?」

「え? ああ、そうだ。僕個人の事情のことだし」

「でもっ! 遠慮するのは良くないよ! わたしとラフィオの仲でしょ!」

「……は?」

「でもラフィオって優しいよね。わたしのことを心配して、黙ってたんだよね」

「心配? ちょっと待て。話が見えない」

「いいよ。今度キエラって奴が来たら、堂々と言っちゃおう。ラフィオにはもう、新しい恋人がいますって!」

「待て。人の話を聞け。いやお前は、それ以上何も言うな」

「わたしとラフィオが付き合ってるって知ったら、あの女も諦めるよ!」

「いつ! 僕たちが! 付き合ってることになった!?」

「えへへ。ラフィオ好きだよ。初めて会った時からずっと!」

「やめろ! おい離せ! 僕にそんなつもりはない!」

「結婚したら、毎日モフモフしてあげるね!」

「やるなよ! なんで善意でモフモフするみたいな言い方なんだ! あと結婚なんかしないからな!」

「もう。ラフィオってば照れ屋さんなんだから」

「違う照れてなんかない! あと、お前結婚できる歳じゃないから! 僕もだけど!」

「ねえ。わたしたちのこと知ったら、キエラ怒るかな? わたしのこと狙って攻撃するかな? けど、わたしなら勝てるから心配ないよ!」

「だから! 人の話しを聞けー! おいこら! 抱きつくな! やめろー! ああああああ!」


 つむぎに抱きつかれたラフィオの、悲痛な声が響き渡る。


「おい! 誰か助けてくれ!」

「あのふたり、仲いいわよねー」

「そうですねー。ねえラフィオ。わたしも、あなたの個人的な事情に乗ってあげる。好きな人と結ばれるために戦うの、なんかロマンチックだなって」

「そうか嬉しいよ遥! ところで僕を助けてくれ!」


 ラフィオはつむぎに、床に押し倒されていた。

 モフモフじゃなくても、今はいいらしい。


「お姉さんも賛成ですよね?」

「わたし? そうね。やってやるわ。あのキエラって女が、ラフィオが身を引けばやめてくれるって確証はないし。すでにこの世界にやったことには、落とし前をつけさせたいし」

「姉ちゃん、なんか怖いこと言ってるな」

「当然よ。わたしや悠馬を危険な目に遭わせたこと、許さないから。いつかはあいつの拠点に乗り込んでボコボコにしてやるわ」

「できるのか、それ。俺もやってみたいけど。というわけでラフィオ、俺たちみんな、お前の仲間だ」

「それは嬉しいんだよ! 嬉しいんだけどな! こいつをなんとかしてくれ!」

「ラフィオ。晩ごはんはなに? わたし、玉子丼食べたい!」

「自分の家で食え! 隣だろうが!」


 つむぎに怒るラフィオの声には、少しだけ笑みが混ざっている気がした。




 週が明けて月曜日。昨日怪物が派手に暴れたとしても、世間はしっかり動いてくれる。

 愛奈の会社も休みになるわけではない。


「起きろ」

「ぎゃああああああああ!」


 フライパンの音で元気に目覚める愛奈。今日も平和だ。


「ううっ。会社にフィアイーター出てこないかな。会社がめちゃくちゃになって臨時休業にならないかな」

「さっさと起きて着替えろ」

「わかった。わかったからフライパン止めて!」

「最近気づいたんだ。このフライパンは料理専用にして、新しく叩く専用のフライパン買おうかなって」

「わたしの稼いだお金をそんなことに使わないで!」


 そんな感じで愛奈を家から追い出し、それから俺とラフィオも家を出る。


 どう頑張っても同じタイミングで隣から出てくるつむぎが、ラフィオを掴んで朝のモフモフタイムに入る。

 たぶんつむぎは、ラフィオの気配を感じて出てくる時間を合わせてるんだと思う。本能的な感覚なんだろう。


 モフモフされすぎて毛並みがボサボサになったラフィオを連れてバス停に。遥が待っていて、一緒にバスに乗る。いつもの日常が始まる。



 日常と少し違ったのは、校門前でのことだった。

 正確には日常通りの光景が広がっていたのだけど、それが逆に違和感をもたらした。


「マスコミ、いないね」


 遥が先に気づいて口にした。


 金曜日には、ここに大勢の報道陣が押し寄せていた。そして週末には二日連続での怪物騒ぎ。

 週末くらいフィアイーターがおとなしくしてくれれば、あるいは報道も沈静化するかもという期待はあった。そこはうまくいなかいな。


 だから、今日も引き続き学校に人が押し寄せて、覆面男やそこから辿って魔法少女の正体を探ろうとするものだと思ってた。


 けど今日は誰もいない。

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