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1-52.助け合えばいい

 あそこから出る砲弾が直撃したら、俺は死ぬだろうな。人を殺して恐怖を与えるのがフィアイーターなのだから。

 その砲身に、俺はまっすぐ突っ込んだ。大丈夫、あれが火を吹いた瞬間に避ければいい。なんとかなる。


「悠馬!」


 なのに姉が、回避する前にまた俺を救おうとした。


 後ろから追いかけてきたのだろう。すくい上げるように俺を抱えて横にずれる。

 直後、フィアイーターがわずかに狙いを変えて砲撃。俺たちに直撃はしなかったものの、近くの床に着弾。

 ふたりして爆風で吹っ飛び、床に投げ出されるように落ちた。


「悠馬! 怪我はない!?」

「あ、ああ。それより、なんで助けようとした? ひとりで避けられたのに」


 それで、俺を狙っている最中にセイバーが他の魔法少女と連携して攻撃。そうするべきだった。


「当たり前でしょ! お姉ちゃんなんだから! 弟が危ない目に遭ってたら止めるものなの!」

「……そうだよな。ごめん」


 言い返せなかった。姉ちゃんは頼りないけど、常に俺の姉ちゃんなのだから。

 避けられるとは思っていた。けど、一歩間違えれば死んでいたのも確か。


「軽率だった。もっと別の手を考えるべきだった。それか、話し合うべきだな。……ライナーたちと」

「わたしは?」

「姉ちゃんも、まあ少しは意見聞く」

「なんで!?」


 そこは俺も譲れない。姉ちゃんの意見はだいたいの場合、あまり参考にならない。

 いいんだよ、それで。俺は姉ちゃんほど戦えない。姉ちゃんも俺ほど冷静に戦い方を組み立てられない。


 お互い足りてないんだから、助け合えばいいだけだ。


「とにかく、仕切り直しだ。奴をなんとか止めるぞ」

「ええ。やるわ」


 敵はまだ健在なのだから。

 なぜか砲弾が飛んでこないどころから、仲間から危ないって警告も来ないことを考えれば、ライナーたちがなんとかフィアイーターを食い止めてるのだろう。


 そう予想したのだけど、実際は違っていた。


「あはは! 楽しい!」


 ハンターが笑いながらフィアイーターの背中に弓を放っていた。しかも後ろとかからじゃない。上からだ。


 ラフィオの背に乗ってフィアイーターに接近してから、ハンターが跳躍。空中で宙返りをしながら砲身の付け根を狙っていた。

 上下に動かす駆動部分も、要は関節だ。そこを狙えば砲身の操作に支障をきたす。現にフィアイーターの砲身は、下がって背中に沿った形のまま動かなくなっていた。

 この状態で砲撃はできないのだろうか。左右には動かせるだろうけど、狙いはつけづらいのかな。


 そう思ってると、ハンターは再度跳躍してフィアイーターの背中に飛び乗り、砲の付け根を思いっきり蹴った。すぐにフィアイーターがもがいて振り落とされたけど、どうやらキャノン砲自体が使えなくなっているらしい。


「あはは! ラフィオ! 次はどこ狙えばいい?」

「足の関節だ! ライナーは至近距離まで迫って撹乱してくれ!」

「わーい! 恐竜さん覚悟!」


 割と高く舞っていたハンターは、弓を持ったまま見事に着地。変身する前から高かった身体能力をフルに使いながら、左右に動き回りながらフィアイーターに接近。

 ライナーもフィアイーターの近くにいた。尻尾を振り回して牽制しながら隙あらば噛みつこうとする敵に対して、素早く足で動き回って回避を続ける。

 フィアイーターがライナーに気を取られている隙に、ハンターがスライディングでフィアイーターの股下に潜り込む。そして至近距離から足の関節を射抜いた。


 咆哮。巨大な硬質の体が揺らぐ。


 ハンターは勢いのままフィアイーターの下から脱しつつ、少し踏ん張って勢いを利用して無理矢理立ち上がり、跳ぶ。

 空中で宙返りして、逆さまの体勢で向きを反転させながら新しい矢をつがえ、もう片方の足も射抜いた。


「あのむちゃくちゃな動きで、普段からモフモフを狩ってるんだよな」

「変身して、動きにさらに自由さが出来てるわね」

「おい。悠馬、セイバー。君たちも戦え」

「あ、ああ。ごめん。ここまで全然役に立ってないもんな」


 ラフィオがこっちに駆け寄ってきた。


 文句を言いに来たかと思ったけど、俺の自嘲に優しい笑顔を見せた。


「悠馬が突っ込んでいる隙に、ハンターが砲の駆動部を狙ったんだ。君のおかげだよ。そこを狙えと言ったのは僕だけどね」


 足を小刻みに動かして狙えないなら、直接の脅威である砲を狙えばいいか。

 駆動部の方が少し大きく、狙いやすかったのだろう。


「そ、そうか」

「やるじゃん、悠馬。勝手に動いたことは別として、偉い」

「わかったから。いくぞ。ラフィオ、ライナーたちと協力して敵を横転させる」


 あの体の構造、たぶん倒れたら起き上がれないか、起き上がるまで時間がかかる。

 フィアイーターは今、両足を負傷して膝を屈している状態。満足に尻尾も振れない状況。あれは、足の力で方向を変えながら振るから威力が出るんだよな。


 尻尾の反対側、ティラノサウルスの頭の方にライナーはいて、敵の横面を何度も蹴っていた。フィアイーターの方も蹴られるままではなく、噛みつこうと躍起になってきたから、一方的な戦いとはいえない。

 ハンターはフィアイーターの側面に回って、回復しつつある足やキャノン砲への攻撃を繰り返していた。フィアイーターの尻尾は、今はそんなハンターへの防御のために振るわれている。

 だから、ライナーの力だけでフィアイーターを横転させることは難しい。膝を屈して姿勢が低くなっているし。


「背中側より腹の方が捌きやすい。キャノン砲をどけるのも大変だし。それに動きも封じられる」

「わかった。悠馬も手伝ってくれ」

「いいぜ。姉ちゃんも一緒に来てくれ」

「そうそう。それが欲しかったのよ。ひとりで勝手に動くんじゃなくてね」

「わかってるよ」

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