もちろん、冗談を言ってるのも一瞬のことだ。戦わなきゃいけないことは、みんなよくわかっている。
フィアイーターの砲弾が近くに着弾。けれど誰も逃げなかった。
ちょうど、天井の監視カメラもキャノン砲のせいで壊れてたみたいだし。変身するチャンスだ。
「ライトアップ! シャイニーセイバー!」
「ダッシュ! シャイニーライナー!」
「デストロイ! シャイニーハンター!」
三人、並んで変身。それぞれの体が光に包まれ、魔法少女へ姿を変えた。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー!」
「闇を蹴散らす疾き弾丸! 魔法少女シャイニーライナー!」
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」
それぞれ名乗りをあげる三人を見ながら、ラフィオも大型の姿になる。
フィアイーターは、俺たちの存在を知覚したらしい。咆哮をあげてドシンドシンと足音を立て近づきながら、砲身をこっちに向けた。
「撃たれるなよ。バラバラの方向に散開して避けろ」
「うん! ほらみんな! 悠馬の言うとおりにしなさい……って!? みんな動くの早い!」
「セイバーも早く逃げろ!」
「ぎゃー!」
ライナーは自慢の高機動の足で、ハンターは素早くラフィオの上に飛び乗って散会していた。ラフィオはものすごく嫌な顔をしてたけど。
警告した俺と、逃げ遅れたセイバーの方にフィアイーターは狙いを定めて、砲撃。俺は逃げ始めていたけど、セイバーはギリギリだった。
それでも避けられたし、なんなら俺の方に逃げて抱きしめて、一緒に着弾点から離れる余裕すら見せた。
いや、俺は自力で避けられたんだけど。
でも嬉しかった。
直後、さっきまでセイバーが立っていた地点に砲弾が当たる。床が砕けて破片と埃が舞い上がった。
「ぎゃー!?」
爆風に煽られ、俺とセイバーは倒れ込むように地面に投げ出された。俺が下になって、セイバーの体を受け止める形だ。
苦しい。セイバーが俺を助けるみたいな場面だったのに。
「フィアアアアア!!」
「おい姉ちゃん! 早く立て! 次が来る!」
「わかった! わかってるもん! 悠馬はお姉ちゃんが守る!」
気合いだけは十分だ。
セイバーは起き上がり、俺を抱きかかえて走った。
両手で俺の膝と背中を持ち上げる形だ。
いや、待て。これって。
「お姫様抱っこじゃねえか!」
「だって! わたしの方が背が低いし! こうするしかなかったんだもん!」
「おいこら! 背負うのだってやりようあるだろ! 降ろせ!」
「フィアァァアア!」
「ぎゃー!」
敵はセイバーに狙いを定めたらしい。次々に砲弾を発射。
広い店内を、俺を抱えたセイバーが走りまわる。多くの陳列棚や商品を破壊しながら、フィアイーターがそれを追う。
「ちょっとセイバー! 悠馬をそんな持ち方しないでください! てか! わたしがやりたい!」
ライナーの抗議の声が聞こえた。いや、そういう問題か? そうだとしても最後の一言は余計だ。
「ねえ! こいつ固いんだけど! それにモフモフじゃない!」
「モフモフの敵の方が珍しいんだよ! とにかく足の関節を狙って動きを鈍らせろ!」
「でも! 矢が刺さらないんだけど!」
「だから脆い関節を狙うんだ!」
「わかった! ラフィオモフりながら頑張るね!」
「モフモフは余計だ!」
「わはー! モフモフー!」
「やめろ! 後にしろ!」
「後でならいいの!?」
「良くないけど!」
ラフィオとハンターは、なんとかフィアイーターの背後を取りながら矢で攻撃をしていた。けど、体に矢が刺さっていない。
ラジコン自体はプラスチック製の玩具だけど、フィアイーターになるのと同時に金属並みの硬さを手に入れたらしい。
関節部なら、なんとか刺さるかも。ハンターの腕なら狙うのも容易だろう。
けど、フィアイーター小刻みには動き回っている。セイバーを追いかけて、頻繁に向きを変えている。
あの砲身、上下の角度だけではなく左右にも回転できるらしい。本体のメタルレックスの体勢が多少ブレようとも正確に狙える。
それを知ってなのか、フィアイーターは小刻みに動いていた。絶えず足を動かしているから、足の関節を狙っても逸れてしまう。
いかに優秀な狩人といえども、放った後の矢の軌道は変えられない。何度か矢を外していた。胴に放った矢は命中してるけど、刺さってはいない。
それから。
「ねえ悠馬! あいつに近づけない!」
ライナーも苦戦しているようだった。
接近して巨体を蹴ろうと試みてるけど、セイバーを狙って向きを変え続けるフィアイーターは、それに従って尻尾もブンブンと動き回っていた。体は硬そうなのに、そこだけしなやかな動きをするんだよな。
ライナーは接近を試みて、尻尾のひと薙ぎに邪魔されて離れる動きを繰り返していた。
「どうするかな。奴の動きを止めないと」
「どうするのよ」
「敵を押さえつけるか、動けなくなるような怪我を負わせるか」
ティラノサウルスの巨体を押さえつけるような巨大な物は、近くには見当たらない。だから負傷させて、体の機能を損ねて動きを鈍らせていくしかない。
期待すべきは、ハンターの矢。けどさっきから当てられてない。
一瞬だけでも、動きを止められたら。
「俺が囮になる! ラフィオはハンターを乗せたまま接近して、関節を狙い撃ちやすくしてくれ!」
「ちょっと悠馬!? いきなりなに言い出すのよ!?」
「魔法少女たちがちゃんと戦えるようにするのが俺の役目だ!」
セイバーの腕から逃れて、フィアイーターの方へ走る。途中、何かの破片を拾って投げた。
「おいメタルレックス! こっちだ! 俺が相手だ!」
「フィアアアアア!!」
俺の言葉を認識したのか、投げた破片が当たったのが気に触ったのか、女の子に抱えられてた奴が孤立したのを殺しやすいと判断したのか。
とにかく、フィアイーターの砲身は俺を狙った。
相変わらず足は小刻みに動かしながら、砲身はこっちにまっすぐ向いていた。