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1-47.遥とのデート

「ラフィオ。遥と出かけてくる。もし敵が出たら、俺に連絡してくれ」

「おい悠馬! 手が空いたら助けてくれ! このモフモフ悪魔をなんとかしてくれ!」

「行ってらっしゃい、悠馬さん遥さん! お留守番は任せてください!」

「おう」

「つむぎちゃんは偉いねー」

「待ってくれ! 今の言葉は僕が言うべきことだぞ!」

「ちなみに、帰りは何時くらいですか?」

「夕飯までには帰る」

「よかったら、夕飯もわたし作るよ? 材料一緒に買おっか?」

「いいのか?」

「うん。いいよー。みんなで食べよう」

「やったー。ラフィオ、みんなでご飯だってー」

「おい! だから! なんでモフモフ悪魔が家族の一員みたいな顔して会話に混ざってるんだ!?」

「あ、姉ちゃんにも俺たちが出てるって伝えておいてくれ」

「はーい」

「ああああああ!」


 つむぎは愛奈の部屋の方に歩いていく。

 手にはラフィオ。さっきからずっと、両手で掴んで握ったり撫でたり押し潰したりしてる。

 苛烈なモフモフ行為に、ラフィオはいつまで耐えられるのだろうか。


 その気になれば、人間の姿になって脱出できるし。付き合ってやってる状態なんだと思う。

 それか常時くすぐられてて、ラフィオが人間になるのを封じられている状態なのかも。つむぎのことだから、モフモフを維持するくらいは簡単にやってのけるだろう。


「俺も着替えてくる」


 さすがに、部屋着代わりのシャツのまま外出するわけにはいかない。


 身だしなみに気を使うというわけではないけど、外に出られる格好に着替える。

 ジーンズに灰色のジャケット。


「おお……なんというか……彩りに乏しい。普通に外に出られるけど、なんか地味というか……彼氏には、もっとお洒落になってほしいというか」

「彼氏じゃないからな」

「そうだけど。周り的にはそうじゃん?」


 クラスにはそう誤解させたもんな。お前が。

 外でクラスメイトに会う可能性を考えてるのだろうか。


「ちなみにその服、誰のチョイス?」

「安い服屋でマネキンが着ていた」

「そっかー。服を選ぶのも時間を掛けないタイプかー。料理もそうだし、微妙に片付いてない家もそうだし、悠馬って面倒くさがり?」

「いや。最低限できてればいいかなって考えてるだけだ」


 あと、少しずつ片付け始めてるからな。


「よし! そんな悠馬に、人生の彩りを教えてあげます! そんな格好ではいけません! もっと華やかさを! 楽しさを! 行くよ!」

「お、おう……」


 遥が玄関に停めてある車椅子に座り、俺はそれを押す。毎朝向かっているバス停の方向へ行く。


「とりあえず駅の方に行くんだよな? 街まで出るか?」

「近場でもいいよー。あのショッピングセンターでもいろいろ揃うし。食料品売場も営業再開したらしいし」

「そうなのか。すごいな」


 怪物と魔法少女の戦いで一角がめちゃくちゃになった店内だけど、それ以外の場所は無事。

 棚が三列ほどと、鮮魚売り場の一部が被害を受けただけに過ぎず、そこだけ規制線を張って立ち入れなくして片付けはしているものの、営業はしているとのこと。


「さすがに、死体が突っ込んだ鮮魚コーナーの冷蔵庫は交換するから再開に時間がかかるらしいけどね」

「なるほどな。交換するのか」


 死体の片付けがどうとかと言うより、心理的なものだ。それは仕方ない。


 けど、怪物は連続して出てくるもの。ただ怯えて出現しないのを祈り、被害が出てしまったら何もかも終わり、みたいなことにはしない。

 出てくるものは仕方ない。避難誘導マニュアルを即座に作った百貨店もそうだし、対策と後始末をちゃんとやるところも出てきた。

 被害を受けた人たちにも、戦いの後の生活があるのだから。


「人間ってすごいよねー。というわけで、あそこで買い物しない? 復興支援の意味も込めて!」

「そうだな」


 街に行ったほうが店も多い。けど、あそこにもそれなりの専門店街があるし。


「悠馬みたいなお洒落初心者は、選択肢多いと逆に混乱するだろうしね!」

「余計なお世話だ。ていうか、本当に俺の服も買うのか」

「買うんだよー」


 バスでいつもとは逆の方向に行って、駅構内を通り抜けて裏側にあるショッピングセンターへ向かう。



――――



「愛奈さん愛奈さん」

「んー。もうちょっと寝かせて……わたしは寝なきゃいけないの」

「悠馬さんと遥さんが、デートに行きました」

「はっ!?」


 つむぎが軽い感じで言ったことに、愛奈は一瞬で飛び起きた。


「ぎゃーっ!?」


 そして飛び起きた勢いでベッドから出てしまい、頭から床に突っ込んでしまった。


「普段から、これくらい俊敏に起きてくれればいいんだけどね」

「もー。ラフィオってば毎朝こんなんだと愛奈さんの体が持たないよ?」

「僕の体の心配もしてくれると嬉しいな」


 ラフィオはいまだに、つむぎの手の中にいた。

 首筋をくすぐられ続けていると、なぜか人の姿に変われない。自分でも知らない体質を、なんでこのモフモフ魔は把握してるんだ。モフリスト恐るべし。


「いたた……」

「愛奈さん大丈夫ですか? 怪我は」

「してない。大丈夫。それより悠馬が遥ちゃんとデートって!?」

「今、出ていったところです」

「追いかけるわよ」

「え?」

「追いかけるわよ! あの泥棒猫に悠馬は渡さないんだから!」

「愛奈。君は何を心配してるんだい?」

「悠馬とあの女が一線越えることよ! すぐに着替えるから、ふたりは出てて!」

「一線って。それくらい好きにさせてやればいいのに」


 そんなラフィオのつぶやきは、愛奈には聞こえなかった。

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