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1-43.日曜の朝の変身ヒロインアニメ

 テレビでは、次の番組が始まっていた。生放送のニュース番組。トップニュースはやはり、魔法少女と怪物のこと。

 世間で魔法少女がどう受け止められてるとか、そんな話題を提供する。そのテレビ局なりに広めたい方向に世論を誘導したがることもあるかも。


 それを見る気にならず、俺はリモコンを持って消した。

 俺がというか、ラフィオに見せたくなかった。批判意見もあるだろう。人の醜さを見せつけることになるだろう。


 テレビの音声が急に消えたのに気づいたラフィオが、ふとこっちを見た。すぐに冷蔵庫の方に向かっていったけど。

 僅かに見えた横顔は、少し笑っているように見えた。


「なあラフィオ」

「なんだ?」

「その」


 人間のこと、どう思っている? そう訊こうとして、やめた。できなかった。


「なんで小さい体でテレビ見てたんだ? 見上げるみたいで見にくくないか? 今みたいに人間になった方がよくないか?」

「体が小さいと、なんでも迫力があって見えておもしろいんだ。テレビもすごいよ。プリンも大きく見える」

「そうか」


 呑気な理由だな。



 近所のスーパーには半額シールの貼られたかんぴょう巻きが奇跡的に売れ残っていて、風呂上がりの愛奈が機嫌を損ねることはなかった。ないならないで、諦めろと言ってたけど。

 上機嫌のまま酒でかんぴょう巻きを流し込むように飲んだものだから、愛奈はいつの間にか酔いつぶれて寝てしまった。


 明日も日曜日でお休み。だから好きなだけ寝ていいからって、飲みすぎだ。この姉を部屋まで運ぶのは俺なんだからな。


「ゆうまー。すきー。あいしてるー」

「はいはい」


 散らかった部屋のベッドに愛奈を寝かせる。

 幸せそうな寝顔だった。



 翌日。昼過ぎまで寝てる愛奈と違って、俺は常識的な時間に起きていた。ラフィオも同様だ。

 ラフィオと俺で、散らかった家の片付けを朝から行う。床に落ちているものをあるべき場所にしまい直し、床の隅に溜まったホコリを取る。キッチンや風呂場の汚れなんかも、洗剤を買って掃除しないとな。

 食事事情は改善されつつある。だったら次は住居の改善になるわけで。衣食住の、住についてやっているわけだ。


 着る服の改善をする気は起こらなかった。なにかのきっかけで起こるかもしれないけれど。


 するとスマホから通知音が鳴った。つむぎからだ。


『悠馬さん! 今から家行ってもいいですか!』

『いいぞ。ラフィオか?』

『はい!』


 直後、インターホンの音。お隣さんとはいえ早い。メッセージ送ったの、家の前だな。


「朝からお客さんかい? 誰だ?」

「つむぎだ」

「僕は留守だと言ってくれ!」

「ラフィオおはよう! 一緒にミラクルフォース見よ!」

「嫌だ! おい! 離せ! やめろー!」


 ラフィオをくすぐりモフモフにしてから、体を鷲掴みにしてテレビの前のソファに座った。

 なんて鮮やかな動きなんだろう。


 膝にラフィオを乗せてる状態だけど、その体をがっしりと掴んで逃さない。そして指先でモフモフしていた。


「えー? ラフィオも好きでしょ? ミラクルフォース。魔法少女みたいものだし!」

「好きだけど、今やってるやつは見れてない。シリーズの最初から追ってるけど、数が多すぎて。あと、お前と一緒に見るのは好きじゃない」

「もー。照れてるんだからー。あ、始まるよ!」

「僕は朝食を作らないといけないから」

「心配するな。俺が作る」

「薄情者ー!」


 ラフィオがいかに叫ぼうとも、アニメはつつがなく始まった。

 テレビの画面で、派手な髪色の女の子がこちらに笑顔を向けていた。


 ミラクルフォースシリーズは、日曜日の朝に放送されている子供向けアニメシリーズだ。

 何人かの中学生くらいの女の子が、色とりどりの派手なコスチュームに奇跡の力で変身して、悪を倒す。要は魔法少女アニメ。

 年に一回新シリーズに切り替えながら、長年放送を続けている日曜朝の定番。愛奈も小さい頃に夢中で見てたらしい。俺が物心つく頃には卒業してたみたいだけど。


 俺だって小さい頃は、これの後に放送されてる仮面シリーズに夢中になってた。もっとも、小学三年生になったあたりに卒業していた。

 つむぎは小学五年生。ミラクルフォースの対象年齢からは少し外れているような気がする。幼い頃からの流れで見てるとか、純粋に好きだからとか理由はいくらでもあるだろう。


 現行作品は「ミラクルフォース ビーストバイト!」というらしい。野獣の噛みつきか。

 青い髪の女の子が主人公のようだ。そして話の後半で怪物が出てきて、彼女たちがミラクルフォースに変身して倒す。


『七海! ミラクルシャークに変身して、あいつをぶっ殺すウサ!』

『ええ、モッフィー』


 ウサギを模したらしいキャラが、主人公の女の子に物騒な指図をしていた。そしてサメがモチーフらしい女の子が頷いている。

 ミラクルフォースに妖精キャラがいるのは定番なのは知ってるけど。このシリーズではあのウサギなんだろう。モッフィーという名前の。


「モッフィーかわいいね。すごくモフモフしてそうで好きだなー」

「ああ。そうだな。お前が好きそうなキャラだな」

「モッフィーモフモフしたいなー」

「諦めろ。アニメキャラには触れられない。ぬいぐるみで我慢しろ」

「それで、わたし思いついたの! モッフィーを見ながらラフィオをモフモフすればいいって!」

「なんでそうなる!?」

「ミラクルシャーク頑張れー!」

「やめろ! 応援する前に僕を離せ!」


 つむぎがミラクルフォースを見ている理由はよくわかった。


 妖精キャラは、シリーズ通してみんなモフモフなんだろうな。

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