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1-39.にぎやかな帰宅

 考える意味はあまりない。魔法少女はもう三人揃って宝石の残りはない。そもそも彼女に適正がない。あれば、あの日の時点でラフィオが誘っていただろう。


「ごめん。それは無理だ。この人たちのために、救急車を呼んでくれ。みんな行くぞ」

「わたしは先に帰ってるね。車椅子に乗り換えて、悠馬の家に行くね!」


 ライナーが、自分の正体に繋がりそうなことだからと耳打ちで伝えてから、一足先に家に向かう。俺たちも帰ろう。


 日野ティアラさんを置いて、ラフィオとセイバーは走る。俺とハンターはラフィオの上だ。


「ね、ねえ。ラフィオって実は、上に三人乗せられたりしない?」


 走りながら、期待に満ちた口調でセイバーが訊く。


「かなり厳しい。悠馬は僕が運ぶから、魔法少女のどっちかは走って帰ってくれ」

「わたしもラフィオと一緒がいい!」

「ぐえっ!」


 ハンターはラフィオの首にしがみついた。絶対に離さないという、強い意志を感じた。

 ラフィオの方は、かなり疲れた感じだった。諦めの気持ちも入っていた。


「見の通りだセイバー。走ってくれ」

「なんでわたしだけ……」

「走ってるのはライナーも同じだけどな」

「あの子は走りたいから走ってるの! なんでこうなるのよー!」


 勝ったのに、全然格好がつかないんだよな。まあ、俺の姉ちゃんだから仕方ない。



 十数分後、車椅子に乗った遥が俺の家に来た。


「本当に、つむぎちゃんが魔法少女に変身したんだねー」

「はい! 改めまして、わたしが魔法少女シャイニーハンターです! 弓とか使って敵を攻撃します! 特にモフモフは逃しません!」

「そっか! 頼りになるね!」

「はい! 任せてください!」

「悪夢だ。こんなのは悪夢だ……」

「ところで、つむぎちゃんはいつまでカラスを持ってるの?」

「なんか、かわいそうだったので」


 フィアイーターだったカラスの死体を、つむぎはまだ握っていた。ここまで持って帰ったのか。


 生き物がフィアイーターになるって事実は、俺には驚きだ。ラフィオ自身もそうだし、魔法少女たちも同じなのだろう。


「モフモフをこんなにしちゃうなんて、許せない……」


 特殊な理由で最も敵を憎んでいるらしいつむぎは、その割にはモフモフであるカラスを雑な握り方してるけど。


「フィアイーターにされた物は、無事なまま戻すことはできない。僕にはその方法がわからない。かわいそうに思ったら、さっさと殺してやるのが優しさだよ。……その死骸は埋めよう」

「お墓を作るの?」

「君が作りたければ、やればいい」

「うん! 生まれ変わってもモフモフになって、わたしにモフモフされるように祈るね!」

「それはそれで、かわいそうだと思うんだけどな」

「それよりラフィオ、生き物をフィアイーターにする件だけど」


 つむぎとの会話は疲れた様子でやってたラフィオだけど、その話題が深刻なのはよくわかっている様子。


「僕の知る限りでは、意識がある存在をフィアイーターにはできない。……奴が何らかの形で、克服する術を発見ああああああ!?」

「ラフィオ! 早く行こ! そうだ、スコップ持ってこないとね! うちにあるかな!?」

「やめろ! おいこら! 大事な話の途中だってわからないのか!」


 つむぎに体を鷲掴みにされたラフィオは、彼女の手をバシバシ叩いて逃れようとする。

 苦労が多い奴だ。


「なあ姉ちゃん、遥。これから先、人間のフィアイーターと戦うことになったとして、殺せるか?」


 一応、尋ねておかないと。俺は戦いのサポートだけで、実際に剣で斬ったり蹴ったりするのは魔法少女たちなのだから。


「いいわよ。やるわ」

「んー。わたしもお姉さんに賛成かなー」


 思っていたよりあっさりとした答えが返ってきた。


「お姉さんじゃないけどね。とにかく魔法少女になって悠馬のいる世界を守ろうって決めたんだから。どんな奴が敵でもやってやるわよ」

「まあまあ。お姉さんでいいじゃないですか。わたしも同感だよ、悠馬。わたしは自分の足で走るために魔法少女になったの。そのためなら、なんでもするって決めたから」

「あなたにお姉さんって呼ばれる筋合いはないの」

「悠馬のお姉さんだから、お姉さんなんですよ」

「あんたと悠馬の関係はなんなのよ」

「ただのクラスメイトですよー。あ、でも学校では、わたしたち付き合ってるって誤解されてるかも?」

「ちょっと!? 悠馬それ本当!?」

「あー。本当だよ。誤解なんだけどな。遥がわざと仕向けた誤解だ」


 おい遥。親指立てるな。ドヤ顔するな。


「わかった悠馬。魔法少女のサポート役として、学校ではそういう役割を演じるのが必要ってことなのね? あくまで役割だけど」

「お、おう。そうみたいだな……」


 愛奈が予想よりあっさり引き下がった。もっと怒るか嘆くかすると思ったのに。あくまで役割って言ってるあたり、納得はしてないみたいだけど。


「よし悠馬。一緒にお風呂入りましょう」

「は?」


 訂正だ。全く納得していないし、引き下がってもいない。学校での優位が確保できないと見るや、家庭内での優位を取ろうとした。


「いいでしょ。前は一緒に入ってたんだから」

「そんな記憶はない」

「そうよねー。悠馬が小さい頃の記憶だったし。わたしがお風呂入れてあげたのよ」

「いやいや。無理があるだろ。俺が赤ちゃんの時、姉ちゃん小学生くらいだろ。今でさえ危なっかしいのに、赤ちゃんを風呂入れるとか絶対溺れさせるだろ」

「し、失礼な! ちょっと手が滑ってお風呂の中に落としちゃうくらいしかやってないし!」

「危ねえな! てかその口ぶり、マジでやってたのかよ!?」

「いやいや。突っ込むべきはそこじゃないでしょ。赤ちゃんの時に入れてたのと、今一緒に入るのを一緒にしちゃ駄目でしょ!」

「確かに」


 遥の言うとおりだ。危うく愛奈のペースに巻き込まれるところだった。

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