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1-37.魔法少女シャイニーハンター

 上空を睨みながら、フィアイーターを追いかけていく。


「ねえライナー! なんかいい方法ある!?」

「思いつきません! わたしの足でも、届かないものってあるんだねー」

「まあ、足は足だもんねー。翼には勝てないわよね」

「ムカつきますね。勝ってやりますよ」

「頑張れー」

「セイバーも頑張るんです!」


 そんな言い合いが聞こえた。余裕そうだな。仲も良さそうだし。


「ラフィオー! モフモフしていい? いいよねありがとう!」

「駄目だ! おい! 危ないから家に帰れ!」

「えー? でも家にいるより、ラフィオの近くの方が安全だよね! あの鳥さん、どこに襲いかかるかわからないし!」

「……おい悠馬。なんなんだこいつ。話しを聞いてないと思ったら、冷静に状況を見てるぞ」


 つむぎに抱きつかれて体をワシャワシャと撫でられながら、ラフィオは困惑した声を出した。


「そういう子なんだよ。マンションから飛び降りるのも、ちゃんと怪我しない方法でやったのはラフィオも見ただろ。モフモフに命懸けてるけど、まわりは見てるんだよ」


 絶対に大怪我するような無茶はしないはず。それがつむぎの生き方だ。


「いやいや! 実は冷静でしたとか言われても納得しないからな!」

「ねえラフィオ! あの鳥さんが怪物なの!?」

「そうだよ! 危ないから下がってろ!」

「飛んでて攻撃が当てられないみたいだね。愛奈さんも遥さんも手が出せない。よし! わたしの出番だね」

「なにがだ」

「もー。ラフィオも遠慮しなくていいのに。わたしが魔法少女になれば、たぶん解決するよ!」

「遠慮してお前を避けてるわけじゃないんだよ」

「三人いれば、投げてもらったりして届くかもしれないしね! だからラフィオ、わたしを魔法少女にして!」

「嫌だ! 断る! 絶対に嫌だ!」


 つむぎと関わるは避けたい。ラフィオのそんな心からの叫びが響く。けどな。


「諦めろ。ラフィオがどれだけ避けようが、魔法少女に別の女を選ぼうが、つむぎはお前を狙い続けるぞ」

「絶対に嫌だー!」

「それに、今すぐに新しい魔法少女が必要なのは確かだろ。知り合いがなるって言ってるんだ」


 俺だって、小学生が戦うことに思うことはある。けど遥が見せた覚悟を思い起こせば、大切なのは本人の意志なのだとも理解できる。


 つむぎに、どれだけの覚悟があるかは押し測りにくいけど。


「ううっ。モフモフ魔……世界の平和……モフモフ……平和……モフモフ……平和……平和! ああああああ! おいお前! 魔法少女になったからには真面目に戦えよ!」

「わかってるよ! ラフィオのためだもん! わたしはいつも真面目です!」

「駄目だ信頼できない!」


 俺は落ち込むラフィオの鞄から、青い宝石を取り出し手渡した。


「握って、思い浮かんだ言葉を叫べ。それで変身できる」

「はーい!」


 つむぎは躊躇なく受け取り、言われたとおりにした。時間はかからなかった。


「デストロイ! シャイニーハンター!」

「デストロイ!? こいつ今、破壊するって言ったか!?」

「言ったな」


 戦慄するラフィオと冷静な俺の前で、つむぎの体が光に包まれる。


 青い魔法少女はすぐに現れた。これまでの魔法少女と同じく短いスカート。お腹は出してない、少し露出の抑えられたデザイン。胸元も開いてない。ノースリーブではある。

 頭には、鍔の広めの小さな帽子を斜めに被っていた。

 そして、大きな弓を背負っていた。それは太陽の光を集めて徐々に輝きを増していく。


「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」


 僥倖だ。新しい魔法少女は、遠距離攻撃の術を持っていた。


「おー。これが魔法少女」


 変身完了したハンターは、自分の格好を見る。そしてスカートに目をやって恥ずかしそうに足をもじもじとくねらせた。

 そういえばつむぎは、普段はショートパンツばかり履いている。スカートは苦手なのかな。


「この格好ラフィオが作ったの? わたしにスカート履かせたかったんだ。……えっち」

「お前に着せる想定は一切なかったからな!」


 自分がこの格好を設定したことは否定しなかったな。


「それより! 背中の弓で早く戦え! 矢を放てるんだろ!」

「うん! やってみる! モフモフさん! 悪いことするのは許さないからね! モフモフなのは好きだけど!」


 ハンターは背中の弓を手に取ると、こちらから離れていくフィアイーターに向けた。

 矢をつがえてもいないのに、弓を引く。すると光り輝く矢が作られていった。そして放つ。


 かなり距離があったはずなのに、矢は正確にカラスの片翼の根本を射抜いた。


「すごいな。つむぎに弓道の経験はなかったはずだけど」

「魔法少女になったからね。センスが身についたんだ。素人でも弓を扱えるようになった」


 説明をするラフィオは、ジリジリとハンターから距離を取っていた。微かに声が震えている。


「なんてやつだ。こいつは狩人だ。モフモフを狩る、悪魔の狩人だ……」


 狩られる側の恐怖を感じているらしい。俺にはその恐怖がいかなるものか、まったくわからなかった。


 フィアイーターはといえば、無事な片翼でなんとか飛び続けようと試みた。けどハンターが二本目の矢を放って今度こそ墜落させた。

 狙い通りに矢を放つことはできるけど、コアを砕いていないからまだ殺してはいない。攻撃を確実に当てられるとしても、体の中のコアの位置がわからないなら簡単には殺せないってことか。


「ラフィオ、行くぞ。ハンターお前も乗れ」

「おい。悠馬本気か? こいつを僕に乗せる? お断りだ魔法少女なら自分で走れ!」

「ラフィオよろしくね! しゅっぱーつ!」

「人の話を聞け!」

「ラフィオ。早く行くぞ」

「ああもう! しっかり掴まってろよ!」

「あはは! 早い早い!」


 ハンターは嬉しそうに、俺の前に乗った。

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