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1-31.遥の策略

「おはよー。外すごかったね!」


 遥はクラスメイトにも、いつもの感じで挨拶をする。

 今日は同性の友達ではなく、俺が車椅子を押してることを訝しむ友人もいた。その疑問に遥はためらいなく答える。


「なんか、外にマスコミとかいっぱいいたし。ちょっと怖かったから、男子にボディガードしてもらおうかなって。この制服着てると、学校の外でも声掛けられることありそうだなって。悠馬って家も近所で毎朝同じバスだし、できるだけ一緒にいれば安心なのです!」


 そして親指を立てる。


 なにが安心なのです、だ。断定するな。せめて安心と思ったくらいにしておけ。俺をそんなに信頼するな。


 とはいえクラスメイトたちは、みんな納得したらしい。

 謎の覆面男がここの生徒だとわかってしまった今、確かに制服を見て話を聞こうとする奴は出てくるはず。

 車椅子の女の子がひとりとか、絶対に狙われる。男子と一緒の方がいい。


 何人かは、俺たちの仲の良さを見て顔をニヤけさせていた。バスが一緒とかボディガードを頼める間柄とか、俺のことを名前で呼んでることとか。

 やめろ。誤解だ。


 なのに遥は、また得意げな顔を俺に見せる。その顔、可愛いけどムカついて来たぞ。


「ねえねえ遥。もしかして双里くんと」

「ふふん。るっちゃんの想像通りだよ?」


 仲のいい女子に話しかけられた遥は、決め顔で中身のない返事をした。

 断定は避けて受け手に解釈を委ねる言い方。


 けど、どう聞いても肯定にしか思えないわけで。


 教室に数人分の黄色い悲鳴が上がった。るっちゃんは、興奮した様子でやるじゃんと遥の肩をバシバシと叩いている。

 こうなったら、もう止まらない。俺たちが付き合っているという事実がクラス中に広まることだろう。


「これで、わたしたちが学校でも一緒にいられる口実ができたね! わたしたち、付き合ってるって思われたよね!」

「こいつは……」


 遥を席まで押してやりながら、そっと会話する。


 こいつは馬鹿だけど前向きだ。だからこんなやり方を、思いついた瞬間に実行した。


 思いついたのは、校門でマスコミを見た瞬間だ。

 車椅子の少女が言ったことがテレビや配信で流れる。前半の魔法少女の正体についてはJKがノリで言っただけの戯言だと誰も信じないけど、後半の高校生の青春っぽい箇所は信憑性があるかもしれない。というか、元からそれくらい親しくないと言えないこと。

 学校の生徒がそれを見れば、車椅子の生徒は遥だとすぐにわかるし、彼氏がいるんだと受け止めてしまうだろう。

 彼氏が俺だという紐づけも、教室でばっちりやった。


 計算通りといった風に、遥がニコニコとこっちを見ていた。


「どうしよっか。本当に付き合っちゃう? その方が楽だよね」

「やめておこう」

「えー? わたしは悠馬のこと、彼氏でも構わないって思うけどなー」

「仮にそうだとして、こんな形で付き合うのはなんか違うだろ」

「それもそっか。もっとロマンチックな感じがいいよね。じゃあ、いつかまた、改めて告白するね」


 わかってるよ。こいつが俺のことを好きだって。

 けど、まさかこんな馬鹿みたいな形で好意を伝えられるとは思わなかったし、周りに既成事実をでっち上げるのも予想外だった。


 というか、今じゃないだろ。




「ふたりとも楽しそうでなによりだ。ところで、この学校への世間の注目は集まるばかりだぞ」


 昼休み、学食にてラフィオが呆れ気味に話しかけてきた。

 俺の内ポケットに入っての内緒話だ。


 遥も弁当だけど、学食に来て俺の正面で食べている。別に追い出されることはない。


「ほら、あらゆる人がつぶやいて、動画にして記事にしている」


 ラフィオがスマホを手渡した。

 試しに検索してみた。「噂の魔法少女の正体判明か!?」「卒業生が語る、噂の高校の実態とは!?」「在校生だけど覆面男に心当たりあるかも」


「人の醜さを凝縮した地獄だね」


 そんな人間と地球を守ろうと、わざわざやってきた妖精が疲れた顔で言う。


「魔法少女が話題になること自体は歓迎だけどね。純粋にファンとして、人類を救う希望として見てくれるだけとは限らないか」

「詮索したり、利用して自分の名前を売ろうって人は多いよねー。でも、そんな人ばかりじゃないから、ラフィオも元気出して」

「わかっている。遥や悠馬や愛奈みたいな、協力してくれる良い人もいる。あの悪魔みたいな奴もいるけど」


 つむぎのこと、ラフィオは本気で恐れているらしい。

 俺たちがいい人扱いなのは、ほんの少しだけ嬉しい。


 普段の愛奈や、俺を恋人みたいな扱いにした遥の馬鹿さについては……ラフィオには関わりない問題なのだろう。


「みんな魔法少女のこと、気にしてるんだねー。正体を探りたがってる投稿とか動画ばっかりだよ。知ってどうするんだろう?」

「お近づきになりたいんだろう。魔法少女と知り合いなんて、すごい自慢になる」


 一緒に写真を撮れば、それだけでネットでバズる。承認欲求満たされまくりだ。


「なるほどねー。あと、魔法少女になりたいから、正体を探る人もいるらしいよ」

「魔法少女になりたい、か」


 昨日のテレビでも、見知った顔がそんなこと言ってたな。

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