「悠馬! 今日は悠馬が教室まで、わたしを押してよ」
「なんでだ」
「悠馬に押してほしいから!」
バス停では遥にそんなお願いをされた。
朝から女と次々に関わる生活になったな。関わってるのは前からだけど、魔法少女の件に巻き込まれてからは関わり方が濃くなった。
「それに、これからは学校でも悠馬と一緒にいるべきだと思ったの」
「なんでだ」
「怪物が出た時、すぐに一緒に動けるようにだよ」
「出たってわかったら、すぐに連絡するぞ」
フィアイーターの感知はラフィオにしかできない。怪物が暴れてるってネットで騒がれたら別だけど、速報性は期待できないからな。
だから、ラフィオが気づいたら俺が愛奈と遥に連絡をする。そしてそれぞれ向かう。その方針でいいと思ったのだけど。
「甘いなー悠馬は」
得意げな顔で、人差し指を左右に振る。なんだその仕草は。
「どうせ向かうなら一緒の方がいいと思うんだよね。それに、スマホで連絡取るより直接話した方が早い!」
そして親指を立てる。得意げな顔をする。
言いたいことはわかるけどな。
「とりあえず、お昼ごはんは一緒に食べよっか!」
「俺はいつも学食だけど、遥もなのか?」
「わたしはお弁当です。どうしよっかー」
考えてなかったのかよ。
「放課後はどうする? 一緒に出かける? 昨日は結局、服買えなかったし」
「今日はラフィオがスーパー行きたいらしい」
「プリンを買うんだ。邪魔はさせないぞ」
「だったら遠出して街まで行こうよ。専門店とかあるし、美味しいプリン買えるよ」
「よし! 賛成だ悠馬! これからは可能な限り遥と一緒に行動しろ!」
「わかった。わかったから落ち着け」
「ぐえー」
無関係な人の前で騒ぐな。ぬいぐるみが喋ったって騒ぎになる。
「……ねえ。なんか学校の前、騒がしくない?」
「なんでだろうな」
バスから降りて学校に向かうと、校門前に人が集まっているのが見えた。
大げさなカメラを持った者や、マイクを握った者。あとはスマホを構えている者も。
校内に入ろうとする者もいて、教員が必死に止めていた。
あれは、たぶん。
「魔法少女に協力する謎の覆面男の学校が特定されたんだよ」
ラフィオが鞄の中から、スマホの画面を見せた。
動画のサムネが表示されていた。俺の写真の切り抜きと「特定! 覆面男の通う高校! その正体は?」なんて文字が踊る。
「あれだけ写真がニュースやネットに出回ったんだ。特定は時間の問題だった」
「そうだな。お前は隠れてろ」
ラフィオは素直に、鞄の中に潜り込んだ。
俺のせいだな。やってしまった。報道陣と、再生数狙いの動画配信者が一斉に押しかけたらしい。
「なんかドキドキするね。注目されてるというか」
「遥は呑気だな」
「あはは。正体がバレないように気をつけないとねー」
「あのー。ちょっとお話いいですか!?」
大げさなカメラを抱えた男が近づいてくる。
話しかけられたのは俺ではなく遥。車椅子は目立つから。他にも、スマホを持ってる配信者や他のカメラマンもこっちにカメラを向けた。
「いいですよ! 実は、わたしが魔法少女なんです! いえい! それで、こっちが覆面かぶった男の子なんですよ! わたしたち、付き合ってます!」
「おい、こら」
急に何を言い出す。
あっさり本当のことを言うんじゃない。いや、とんでもない嘘も混ざってたけど。
ところが、遥の言うことは誰も信じなかった。集まった人たちから苦笑があがる。
片足が無い奴が魔法少女だなんて、彼らにとってはありえないことらしい。
「この学校の生徒の半分くらいは、魔法少女なんですよ! 本当ですから」
「ほら、行くぞ」
「あうっ!?」
遥の頭頂部に軽くチョップをしてから、急いで校門をくぐる。
学内でも話題は外の騒ぎに関するものばかりだったけど、とりあえず報道陣や配信者からは逃げられた。
校内では、魔法少女のファンクラブに入会をお願いしますという呼びかけが聞こえた。本当に設立されたのか。
「すっかり有名人だね、わたしたち」
「そうだな。それより、さっきのこと」
「どう? 堂々と変なことを言っても誰も信じないってテクニック」
教室まで車椅子を押していると、遥は親指を立てながら得意げな顔をする。その顔はやめろ。
「なんの意味もない。というか何も言わなかった方が良かった」
「え? なんで?」
「注目を集めるから。どれだけ完璧に隠していても、見る目が増えれば正体がバレる危険が高まる」
無関係を装うなら、目立たないのが鉄則だ。
というか、なんでいきなり、そんなこと言ったんだ。
「あー。そうかな? そうかも。そっかー」
「車椅子の女子高生が魔法少女について話す映像とか、みんな食いつくぞ。ほぼ確実にテレビで流れる」
マスコミの場合は、顔は映さないみたいな配慮はするかもしれない。けど、昨夜も見た街頭インタビューみたいなノリで、しっかり遥の顔を映すかも。
動画配信者に至っては、そんな配慮をするとは思わない。特に、これを有名になるチャンスだと捉えてる奴ほど。
「そっかー。わたしのこと、テレビで流れるかー。わたしの言ったこともかー」
「呑気だな……」
さっきも同じことを言ってため息をついた気がする。
テレビに出られることがそんなに名誉なのだろうか。