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1-29.やっぱり、にぎやかな家

 それから、他にも魔法少女はいるのかもしれない、みたいな意見も。何人いるのか気になる者。


 中には、自分も魔法少女になりたいと力強く言う女までいた。


「ラフィオ。魔法少女になりたい奴がいるって」

「適正があればね。直接見ないとわからない」


 テレビ画面越しには判別できないものらしい。ラフィオはけだるげにテレビへ視線を向けて。


「無理だ」


 短く言った。すでに直接見たことがある人物らしい。俺もようやく気づいた。


 初めて戦った日に、俺が助けた女の子だ。ずいぶんと魔法少女に執心するようになったらしい。

 気持ちはわかる。素性を知ってる者以外だと世界で唯一、しかもかなり強く魔法少女と関わってる人間だしな。


 街頭インタビューを受ける人物は、すぐに切り替わった。

 どっちかと言うと新しい黄色い魔法少女の方が可愛いかも、みたいな意見を言う奴が出てきて。


「地獄に落ちろ!」


 愛奈がテレビを消した。

 いい気はしないよな。比べられたことというよりは、何も知らない人間に好き勝手に色々言われることが。


「ううっ。やっぱりみんな、胸が大きいほうがいいんだ。どうせわたしには価値なんかないのよ……」


 あ、比べられたことが問題だったらしい。愛奈は泣き言を言ってから、ビールを勢いよく飲んで机に突っ伏した。


「まったく。もう飲むな。部屋まで運ぶぞ」

「悠馬ー」

「はいはい」


 俺より小さく軽い体に肩を貸してやって立たせる。


「悠馬。わたしだけの悠馬でいて。悠馬の一番は変わらずお姉ちゃんだよね?」

「ああ、そうだな」

「えへへー」


 俺の気のない返事にも愛奈は表情を緩めて、俺に抱きついてきた。


「ゆうまー。すきー」

「酔いが覚めたら、ちゃんと風呂入れよ」

「もー。つれないんだからー」

「うるさい。脇腹を突くな」

「後で部屋にビール持ってきて」

「こいつ正気か!?」



 翌日。


「ぎゃー! やめて! フライパンやめて! 頭に響く! 起きるから! ちゃんと起きて着替えるから! 脱ぐからやめてください!」


 風呂には入ったらしいけど、泥酔したまま夜を明かした姉を、いつものように叩き起こす。

 フライパンから逃れるように、急いでパジャマを脱いでいく愛奈をさすがに見るわけにはいかず、俺は部屋を出てすぐ外でフライパンを鳴らし続けた。


「ねえ悠馬! 色仕掛けが効かない弟を優しくするには、どうすればいいのかしら!?」

「弟に色仕掛けをするな。本人に訊くな。朝まともに起きれば許してやる」

「それ以外でお願いします!」

「明日からラフィオも呼んで、ふたりでフライパン叩こうか?」

「いやー! それは嫌やめてください! お願いしますなんでもするから!」

「だったら早めに起きろ」

「もー。お姉ちゃんが何でもするって言ってるのよ? ここは男気を見せて手を出してみるべきじゃない?」

「フライパン」

「やめて!?」


 なにが、五人の時はにぎやかだった、だ。今でも十分うるさいぞ。


 ラフィオが用意した朝食を口に押し込んで、最後まで仕事をしたくないと叫びながら愛奈は玄関から飛び出した。

 この元気を、どうして仕事に回せないのかな。


「悠馬。僕たちもいくよ」

「はいはい」

「ちよっとタイミングをずらして出てもいいかな?」

「つむぎに会わないためか? ……無駄だと思うけどな」


 いつもより数分早く扉を開けて外に出てみると。


「おはようございます、悠馬さん! ラフィオ!」


 つむぎは、いつものようにそこにいた。


「な、なんでだ!?」

「ラフィオ! モフモフさせて!」

「嫌だ! 触るな!」

「わーい! ありがとう!」

「人の話が聞けないのかなこいつは!? あああああああ!」


 俺の鞄に手を突っ込んでラフィオを捕獲し、抱きしめながらエレベーターの方に歩いていくつむぎ。

 彼女はモフモフの気配を感じることができるらしい。だからラフィオが早めに家を出るよう努力しても、つむぎはそれを察して待ち構えることができる。


 むしろつむぎなら、早起きして俺が出てくるまで家の前で待ち続けるとか、俺の家に上がりこんでラフィオを捕まえるとか普通にしそうだし。


 ラフィオは自分の存在を知られた時点で負けだし、つむぎのモフモフセンサーがある時点で隠れることはできなかったわけだし。無駄な努力をするのはやめような。


「離せ! 僕はお前と関わりたくないんだ!」

「えへへ。ラフィオと友達になれて、わたし嬉しい!」

「こいつ! 言葉が通じてない!」

「ラフィオ、今日もご飯一緒に食べよ? そうだ、お土産にプリン買ってきてあげるね!」

「プリン!? それは……いや、でも。モフモフ……プリン……」

「そこ、悩むのか」

「いや! 僕は嫌だからな! お前なんかと関わらないからな! おい悠馬! 放課後にスーパー行くぞ! プリンくらい自分で買ってやる!」


 力強く言うけど、たぶんつむぎから逃げることはできない。


「じゃあ悠馬さん、ラフィオ、行ってきます!」

「いってらっしゃい」


 小学校に向かって走っていくつむぎを見送る。

 ラフィオは解放されたけど、鞄の上でぐったりしていた。


「悠馬、週末は出かけるぞ。明日は土曜日だろう?」

「そうだけど。やりたいことがあるのか?」

「休日に家にいれば、あいつが来る。絶対に嫌だ……」


 無駄な努力だと思う。一回くらいなら試してみてもいいけど。


「どうにか、なんとかしてモフモフ狂いを倒す方法を考えないと……」


 こいつも大変だな。

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