「なんか、個性的なお姉さんだね」
「そうだな。俺も毎日苦労してる」
「あはは」
「ちよっと! そこ! 距離が近い! 不純異性交遊は駄目だからね!」
「なっ!? なにが不純ですか!?」
「ラフィオー。今日のご飯なにー?」
「こっちに来るな! くすぐろうとするな! 包丁使ってるんだ! 悠馬こいつを見張ってろ!」
「わたしね、卵料理が好き! 卵っていいよね! 特にモフモフの鳥さんが産むやつが好き!」
「人の話しを聞けー! あと、大概の卵料理は鳥が産んだやつだからな!」
キッチンでもにぎやかなことになっていた。
ちょっとだけ、楽しいと思った。
ラフィオが作ったチキンライスは、つむぎの要望でオムライスに変更されたけど、ラフィオはまだ卵でうまく包む技術を持ってなかった。
チキンライスの上にスクランブルエッグを乗せた料理は、なかなかいけた。
それから少し後。なんとかラフィオを連れて行こうとするつむぎを隣の家まで帰し、遥も家まで送ることになった。
遥の家も近所だ。歩いて十分ほどの所にある一軒家。遥が車椅子になってから、バリアフリーのリフォームをしたらしい。
「なかなか個性的なお姉さんだね、愛奈さん」
「ああ。毎朝うるさい。でも、俺の唯一の家族だ」
「そっか。唯一の。ねえ悠馬。家のことで困ったことがあれば、なんでも言ってね! 手伝えることは手伝うから!」
「お、おう」
困ったことならいくらでも思いつく。姉のことや戦いのこと。
後者は、確かに遥の力が必要だ。
「頼りにしててね! しっかり戦うから。それにさ、昼間はわたしと悠馬の方が一緒にいるわけじゃん? お姉さんより、わたしの方が一緒に戦う機会多いかもね!」
「それはあるかもな」
昼間というか、授業中に敵が出ればどうすればいいかは、考えなきゃいけないかもな。
遥の家まで到着し、上がっていかないかと提案されたのは残念ながら断って、また明日と手を振り別れた。そして再びマンションに戻る。
愛奈は机にビールとスルメを広げていた。
「悠馬おかえりー」
「ただいま。結局飲むのか」
さっきは遥とつむぎの手前、食卓には酒が出なかった。けど帰った途端にこれだ。
「飲まなきゃやってられないわよ」
「好きにすればいいけどな。ラフィオは?」
「あれ」
小さい妖精の姿になったラフィオは、蓋を開けてないプリンのカップにもたれかかっていた。
用意はしたけど食べる気力もないって感じた。そんなに、つむぎの相手が疲れたか。
「僕はもう駄目だ。あの悪魔を、なんとかしなきゃいけない。駆除とか……」
「そこまでか」
「プリン食べさせてくれ」
「それは自分で食え」
「うへー」
そのまま、机に突っ伏して動かなくなった。
それから、愛奈が俺を見ているのに気づいた。
しかも、なんか笑顔を向けてるし。
「なんだよ」
「ううん。なんでもない」
「気になるんだけど」
「なんか、さっきまでにぎやかだったのに、急に静かになったなって。つむぎちゃんが帰って、悠馬まで遥ちゃんを送りに行って、ラフィオも倒れてるから」
「五人いた時はにぎやかだったもんな」
遥たちがいたさっきの時間という意味で、俺は言った。
けど愛奈は、五人家族だった頃のことを思い出したのかもしれない。
「にぎやかな方がいいなって。だから悠馬が帰ってきて、すごく安心した」
「ちょっと外に出ただけだろ。大げさな」
「かもね」
照れ隠しのように、愛奈はビール缶を傾けて飲んだ。俺にコップに注がせなくても、それで飲めばいいじゃないか。
「そういえば、さっきニュースちょっと見たんだけど、さっそくライナーのことが出てたわ」
「早いな」
「ここ何日も、ニュースは魔法少女と怪物のことばっかりね。わたしたちが正体って誰も知らないけど、わたしたちをみんな知っている」
「変な話だよな」
「そうよねー。けど、気持ちいいかな」
「気持ちいい?」
「秘密の共有って、なんか楽しいじゃない。ちよっとしたスリルとか、軽い罪悪感とか」
秘密結社を組織する楽しさみたいなものか。
「悠馬と、ふたりきりの秘密じゃなくなったのは寂しいけどね」
「最初からラフィオも一緒だろ」
「ラフィオはまあ、ノーカウントよ」
どういう理屈だ。
「とにかく、わたしと悠馬は大きな秘密を共有しているのよ。仲間は増えたけど、始まりはわたしたち。ふふっ。それからもうひとつ。悠馬と普段から一緒にいる時間が長いのも、わたしだよね」
「え?」
「だって姉弟だし。仕事行ってる間は違うけど、それ以外は一緒に暮らしてるわけだし。もし敵が現れても、こういう時なら一緒に戦いに行けるし! あと、日中でもわたし駆けつけるから! だから頼りにしてて」
「あー」
張り合ってる。示し合わせたように同じ話題で自分の優位性を示そうとしている。
「俺もニュース見よっと」
リモコンに手を伸ばしてテレビをつける。
「ねえ! 無視しないでよ!」
「はいはい。姉ちゃんは頼りになる」
「言い方が雑! もっとお姉ちゃん尊敬してほしいわ!」
ニュースでは、ふたり目の魔法少女についてコメンテーターがなにか話していた。
老年に差し掛かった男で、専門家みたいな顔をして話している。魔法少女の専門家ってなんなんだ。
映像が切り替わり、街の人の声を拾うパートに入った。街のご意見番たちが、自由に言いたいことを言ってる。
わたしたちを守ってほしいとか、正体が知りたいとか、実は怪物と裏で繋がってるのではとか、どうせなら怪物が出る前から倒せとか。
無茶を言うな。あと言いがかりはよせ。
魔法少女ちゃん可愛いファンになります! みたいな声もいくつかあるらしい。男女それぞれに支持をされているようだった。
複数人の魔法少女が出たために、推しの概念も生まれたらしい。桃色派と黄色派の好み違いが出てきた。
アイドル扱いか。