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1-28.今は静かな家

「なんか、個性的なお姉さんだね」

「そうだな。俺も毎日苦労してる」

「あはは」

「ちよっと! そこ! 距離が近い! 不純異性交遊は駄目だからね!」

「なっ!? なにが不純ですか!?」

「ラフィオー。今日のご飯なにー?」

「こっちに来るな! くすぐろうとするな! 包丁使ってるんだ! 悠馬こいつを見張ってろ!」

「わたしね、卵料理が好き! 卵っていいよね! 特にモフモフの鳥さんが産むやつが好き!」

「人の話しを聞けー! あと、大概の卵料理は鳥が産んだやつだからな!」


 キッチンでもにぎやかなことになっていた。

 ちょっとだけ、楽しいと思った。


 ラフィオが作ったチキンライスは、つむぎの要望でオムライスに変更されたけど、ラフィオはまだ卵でうまく包む技術を持ってなかった。

 チキンライスの上にスクランブルエッグを乗せた料理は、なかなかいけた。



 それから少し後。なんとかラフィオを連れて行こうとするつむぎを隣の家まで帰し、遥も家まで送ることになった。

 遥の家も近所だ。歩いて十分ほどの所にある一軒家。遥が車椅子になってから、バリアフリーのリフォームをしたらしい。


「なかなか個性的なお姉さんだね、愛奈さん」

「ああ。毎朝うるさい。でも、俺の唯一の家族だ」

「そっか。唯一の。ねえ悠馬。家のことで困ったことがあれば、なんでも言ってね! 手伝えることは手伝うから!」

「お、おう」


 困ったことならいくらでも思いつく。姉のことや戦いのこと。

 後者は、確かに遥の力が必要だ。


「頼りにしててね! しっかり戦うから。それにさ、昼間はわたしと悠馬の方が一緒にいるわけじゃん? お姉さんより、わたしの方が一緒に戦う機会多いかもね!」

「それはあるかもな」


 昼間というか、授業中に敵が出ればどうすればいいかは、考えなきゃいけないかもな。



 遥の家まで到着し、上がっていかないかと提案されたのは残念ながら断って、また明日と手を振り別れた。そして再びマンションに戻る。

 愛奈は机にビールとスルメを広げていた。


「悠馬おかえりー」

「ただいま。結局飲むのか」


 さっきは遥とつむぎの手前、食卓には酒が出なかった。けど帰った途端にこれだ。


「飲まなきゃやってられないわよ」

「好きにすればいいけどな。ラフィオは?」

「あれ」


 小さい妖精の姿になったラフィオは、蓋を開けてないプリンのカップにもたれかかっていた。

 用意はしたけど食べる気力もないって感じた。そんなに、つむぎの相手が疲れたか。


「僕はもう駄目だ。あの悪魔を、なんとかしなきゃいけない。駆除とか……」

「そこまでか」

「プリン食べさせてくれ」

「それは自分で食え」

「うへー」


 そのまま、机に突っ伏して動かなくなった。


 それから、愛奈が俺を見ているのに気づいた。

 しかも、なんか笑顔を向けてるし。


「なんだよ」

「ううん。なんでもない」

「気になるんだけど」

「なんか、さっきまでにぎやかだったのに、急に静かになったなって。つむぎちゃんが帰って、悠馬まで遥ちゃんを送りに行って、ラフィオも倒れてるから」

「五人いた時はにぎやかだったもんな」


 遥たちがいたさっきの時間という意味で、俺は言った。

 けど愛奈は、五人家族だった頃のことを思い出したのかもしれない。


「にぎやかな方がいいなって。だから悠馬が帰ってきて、すごく安心した」

「ちょっと外に出ただけだろ。大げさな」

「かもね」


 照れ隠しのように、愛奈はビール缶を傾けて飲んだ。俺にコップに注がせなくても、それで飲めばいいじゃないか。


「そういえば、さっきニュースちょっと見たんだけど、さっそくライナーのことが出てたわ」

「早いな」

「ここ何日も、ニュースは魔法少女と怪物のことばっかりね。わたしたちが正体って誰も知らないけど、わたしたちをみんな知っている」

「変な話だよな」

「そうよねー。けど、気持ちいいかな」

「気持ちいい?」

「秘密の共有って、なんか楽しいじゃない。ちよっとしたスリルとか、軽い罪悪感とか」


 秘密結社を組織する楽しさみたいなものか。


「悠馬と、ふたりきりの秘密じゃなくなったのは寂しいけどね」

「最初からラフィオも一緒だろ」

「ラフィオはまあ、ノーカウントよ」


 どういう理屈だ。


「とにかく、わたしと悠馬は大きな秘密を共有しているのよ。仲間は増えたけど、始まりはわたしたち。ふふっ。それからもうひとつ。悠馬と普段から一緒にいる時間が長いのも、わたしだよね」

「え?」

「だって姉弟だし。仕事行ってる間は違うけど、それ以外は一緒に暮らしてるわけだし。もし敵が現れても、こういう時なら一緒に戦いに行けるし! あと、日中でもわたし駆けつけるから! だから頼りにしてて」

「あー」


 張り合ってる。示し合わせたように同じ話題で自分の優位性を示そうとしている。


「俺もニュース見よっと」


 リモコンに手を伸ばしてテレビをつける。


「ねえ! 無視しないでよ!」

「はいはい。姉ちゃんは頼りになる」

「言い方が雑! もっとお姉ちゃん尊敬してほしいわ!」


 ニュースでは、ふたり目の魔法少女についてコメンテーターがなにか話していた。

 老年に差し掛かった男で、専門家みたいな顔をして話している。魔法少女の専門家ってなんなんだ。


 映像が切り替わり、街の人の声を拾うパートに入った。街のご意見番たちが、自由に言いたいことを言ってる。

 わたしたちを守ってほしいとか、正体が知りたいとか、実は怪物と裏で繋がってるのではとか、どうせなら怪物が出る前から倒せとか。

 無茶を言うな。あと言いがかりはよせ。


 魔法少女ちゃん可愛いファンになります! みたいな声もいくつかあるらしい。男女それぞれに支持をされているようだった。

 複数人の魔法少女が出たために、推しの概念も生まれたらしい。桃色派と黄色派の好み違いが出てきた。


 アイドル扱いか。

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