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1-27.自己紹介と今夜の夕食

「あの。遥さんはどうして車椅子なんですか?」


 つむぎが遠慮がちに尋ねる。もしかしたら話したくないことなのかもと予想する気遣いのできる子だ。

 遥には余計な気遣いなんだけど。


「爆発事故があったんだよ。半年くらい前かな」

「そ、そうなんですか」


 つむぎは遥の足をチラチラと見ている。けど、我に返って目を逸した。


「ごめんなさい! 失礼ですよね」

「なんでそういう気遣いが、僕にはできないのかな」


 ラフィオが小さくなにか言っているけど、遥の声にかき消されて誰にも聞こえなかった。


「いいっていいって。気になるよね。触ってみる?」

「い、いいんですか!?」

「もちろん!」

「失礼します」


 遥の左足の先端。途中からなくなって丸くなっている部分に、つむぎは恐る恐る手を伸ばして撫でた。


「おお……」


 撫で撫で。


「おおー」


 撫で撫で。


「……なんか、普通ですね。普通に肌です」

「でしょー。先がないだけで、ほかは普通の足なんだよ! ねえ、あなたのことも教えて」


 そう。遥は普通の女の子だ。車椅子なだけの。あと、魔法少女なだけの。


 遥に促されて、つむぎも自己紹介を始めた。


「は、はい! 御共つむぎです! 小学五年生です! ここの隣に住んでます!」


 つむぎのことはよく知っている。それこそ、産まれる前から彼女の両親はお隣さんで、よく挨拶をする仲だった。

 両親とも忙しいから、つむぎは家でひとりで過ごすことも多い。寂しさから、うちに遊びに来ることも何度かある。


 で、最後にラフィオだ。


「僕はラフィオ。異世界から来た」


 別の世界のことや、魔法少女や敵のことを説明した。

 魔法少女になれる女が、あとひとりいることも。


 異世界の存在が地球を嫌って滅ぼしにかかってきたとか、それに対抗する魔法少女の力とか、冷静に聞けば荒唐無稽な話だ。

 実際に魔法少女に変身したのなら、仕方なく信じてしまうものだけど。


 つむぎは、ニュースで見る情報以外に魔法少女のことを知らない。実際に変身した愛奈たちを見たわけじゃない。

 ラフィオみたいな見慣れない生物が姿を変えることぐらいしか証拠がない。今の話をどこまで信じるかは難しいところ。


「そうだったんだね! 辛かったんだね、ラフィオ! わたしたちのために、違う世界からひとりで来てくれたんだね!」


 ラフィオの手をとって、目に微かに涙さえ浮かべて感激していた。しっかり信じている。


「もう大丈夫だよ! わたしも魔法少女になってあげる! 一緒に世界を守ろうね!」

「いや。断る。魔法少女は別の誰かから探す」

「もー。ラフィオってば素直じゃないな! わたしがやってあげるよ!」

「嫌だ。お前とは関わりたくない」

「えへへっ! これからよろしくね。ねえラフィオ、一緒に住まない? 毎日モフモフしてあげるよ!」

「お前にとっては、モフモフは善意でやることだったのか!? というか人の話を聞け!」

「ラフィオー。モフモフー!」

「うわー! 離せ!」


 今は少年の姿だけど、モフモフを見出しているらしい。勢いよく抱きついた。


「嫌だー! こいつと関わるなんて絶対に嫌だ!」

「ねえ! 魔法少女になるには、どうすればいいの?」

「適正のある人間が、これを握りしめて心に浮かんだ言葉を叫ぶんだ」

「おい悠馬! それをこいつに渡すな! 絶対に渡すなよ!」


 さっきラフィオから渡されたままになってた、青い宝石。これがつむぎの手に渡った瞬間に終わりだと、ラフィオは理解していた。

 つむぎに適正があるのは間違いないんだな。


 まあ、ラフィオも大切な仲間だ。こいつの意思も尊重したい。だから話題を変えることにした。


「つむぎ、夕飯食べていくか?」

「はい! じゃあご馳走になります!」

「おい悠馬! なんでこいつを、さっさと帰すって発想にならない」

「ラフィオ、夕飯の支度をしろ」

「え!? ラフィオがわたしにご飯作ってくれるの!? やったー!」

「作るから! お前は早く離せ!」


 ラフィオはつむぎの体から離れると、逃げるようにキッチンに入った。


「遥はどうする?」

「んー。せっかくだし、いただこうかな。というか、つむぎちゃんは悠馬の家でご飯食べること、よくあったんだ」

「うん。お父さんもお母さんも仕事が忙しくて、ひとりで食べることが多いから。悠馬さんが作ってくれるんです!」

「へえー。悠馬がねー。料理うまいんだ」

「全然!」


 愛奈が、食い気味に否定した。


「悠馬は料理が全然できないの! レトルトのカレーとか冷凍食品がでたら、それはごちそうと考えるべきくらいには!」

「れ、レトルト!?」

「酷い時には、かき氷をおかずとして出すと言い出したこともあるんだから!」

「かき氷!? それ、おかずになるんですか!?」

「ならないわよ。当たり前でしょ。ていうか、正確にはかき氷ですらなくて。冷凍庫の製氷皿の底に溜まった氷の欠片なの」

「そうだ。きれいにするついでに、食べてもらおうかと」

「あと、シロップは砂糖水」

「シロップなんか買わなくても、簡単に作れる」

「買ってください! 作る技術もないんだから、せめて買ってください! いやそもそもかき氷をおかずにするのはやめて!」

「悠馬って料理が苦手なんだ。というか、家事全部が? ご両親が亡くなったのは知ってたけど、どうやって暮らしてるかは謎だったんだよね」

「見ての通りよ!」


 少し呆れの混ざった、ちょっと散らかった家の中を呆れ気味に見渡す遥と嘆く愛奈。


「悠馬は家事ができないのよ。だからわたし、毎日苦労してるの」

「姉ちゃんの方ができないけどな」

「でもわたし、働いてるし! 毎日働いてるし!」


 隙あらば休もうとするし、仕事もできるタイプじゃないけどな。無い胸を張るな。みっともない。

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