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1-25.愛奈と遥。ラフィオとつむぎ

「セイバー、フィアイーターならもう倒したよ」

「本当に!? 誰が……誰?」


 セイバーは黄色い同業者の存在に気づき、観察するような目を向けた。


「もしかして、悠馬の同級生さん?」

「はい! 神箸遥です! よろしくお願いします!」

「あ、お世話になります。双里愛奈です。いつも弟がお世話になっておりま……」


 社会人としての反射的な返事が、セイバーの視線がある点に向かった瞬間に途切れた。

 さっきライナー本人も強調していた、開いた胸元の箇所だ。


 同じ魔法少女でも、衣装の細部は少し違う。この差がなぜできるのかは知らない。

 セイバーの衣装は、胸元はそんなに開いてはない。あと、胸の大きさに絶対的な差があったのが、セイバーにとってはショックだったらしい。


 その場で崩れ落ちるように座り込んだ。


「おい! 姉ちゃんしっかりしろ!」

「悠馬。あなたもやっぱり、おっぱいは大きいほうがいいの?」

「は?」

「本当のことを言って! 男ならやっぱり、愛する女に巨乳を選びたいものなのよね!? わたしみたいな控えめな胸の女じゃなくて!」


 座り込んだまま俺にすがりついたと思えば、いきなり何言いやがる。

 あと、愛奈のは控えめどころじゃない。こんなに取り乱してるのに自己肯定感はしっかり出すのが愛奈だ。


「悠馬! 約束して! 胸が控えめでも、僕の一番はお姉ちゃんだって!」

「うざい! 離れろ! あと泣きやめ!」

「あ、あの。愛奈さんは、悠馬のお姉さん、なんですよね?」


 さっきの挨拶からセイバーと俺の関係を察したライナーだけど、異様な雰囲気を目の当たりにして遠慮がちに話しかけてきた。

 たしかに、弟に泣きながら言うことじゃないよな。


「悠馬ー! わたしから離れないで! 一生養って!」

「おいこら。うるさいから。遥が引いてるから。クラスメイトの前でみっともない姿を晒すな!」

「だってー!」

「悠馬、本当にこの人お姉さんなの?」

「そうなんだよ。信じがたいことに」

「三人とも。ふざけるのはそこまでだよ。すぐに人が戻ってくる。逃げるよ。悠馬とセイバーは僕に乗って。ライナーは、自分で走ってもらえるかい?」


 ラフィオの背中はふたり乗り。どうしてもひとり余る。


「ええ。もちろん! 走るのって楽しい!」

「車椅子を忘れるなよ」

「あ……。わ、忘れてなんかないよ!」


 自分の足で走れる喜びのあまり、忘れてたな。

 変身を解いたら、また車椅子が必要だってことを理解してないわけじゃない、と思う。



 百貨店からなんとか脱出して、人通りのない路地裏まで一気に駆ける。道中大勢の人に姿を見られたけど、なんとか逃げ切れた。

 出入り口なんか限られてるし、元から人通りの多い場所だ。黄色い魔法少女の存在は、既に知られていることだろう。


 それが、ラフィオの目的でもある。


 世間でどんな風に受け取られるかは、もう少し後に確認することにしよう。


 周りに人がいないことを確認してから、セイバーとライナーは愛奈と遥に戻った。

 俺も覆面を脱いでブレザーを着る。

 遥はそのまま、車椅子に座り込んだ。


「やっぱり変身してないと、いつものわたしだね」

「なんの用もないのに変身しようとするなよ」

「あー。うん。しないよ? しないかな、うん」


 するつもりだったな。


 まあ世の中には、会社へ急いで行くために変身すればいいって言い出す奴もいたし、気持ちはわかるけど。


「正体をバラさないという条件を守るなら、変身しても構わないよ」


 ラフィオが小さくなりながら、俺の頭に乗って遥に話しかけた。


「そ、そうなんだ。……君、大きくなったり小さくなったりできるんだね」

「この格好が本来の姿だよ。大きくなると、ちょっと疲れる」

「へえ。ねえ、あなたのこと、もっと教えて?」

「いいとも」


 遥が前に伸ばした手に、ラフィオがぴょんと跳び乗る。


「どこから話すべきかな。じゃあ、僕が来た世界から――」


 俺たちにしたのと同じ説明をしようとした瞬間、遥の前を一迅の風が駆け抜けた。

 青い色をした風だと思った。


 それが通り抜けた後には、ラフィオの姿は消えていた。


「え?」

「わーい! モフモフ! モフモフー!」

「ぎゃああああああああ!」

「こんにちはモフモフさん! あなたのお名前はなに? モフモフしてるから、モフ太郎?」

「あああああああ! やめろ! 離せ!」

「あはははは!」


 モフモフ大好きなお隣さんの御共つむぎが、ラフィオを抱きしめ頬擦りしたり体を鷲掴みにして揉んだりしていた。

 彼女の言うところの、モフモフする。縮めてモフるという行為だ。


「ねえねえ! お名前教えてモフ太郎さん!」

「ラフィオだ! 人の名前を勝手に決めるな!」

「そっか! モフィオか!」

「ラフィオだー!」

「モフィオ、いい匂い!」

「あああああ!」


 ラフィオの腹に顔を押し付けて呼吸するつむぎ。

 ああ。猫に同じことしてる人間は、よくいると聞くな。猫を吸うってやつ。


「だああああ! 離せこのモフモフ狂い!」

「へぶっ!?」


 ラフィオがつむぎの顔を蹴って強引に脱出。なかなかの脚力だ。

 続いて、少年の姿に変わった。


「はい! モフモフはいなくなりました! どこにもいません! モフモフするの終わり! 子供は家に帰りなさい!」

「むー」


 目の前の同い年くらいの少年が、さっきのモフモフだとつむぎは気づいている。だから歩み寄って。


「こちょこちょー」

「うわっ!? あははははっ!?」


 ラフィオの首筋に手を伸ばしてくすぐる。すると、ポンと音がしてモフモフの小さいラフィオに戻った。


「ええっ!? なんでだ!?」

「モフモフー!」

「ぎゃあああああ!」


 なんでラフィオの姿を変える術を知ってるのかはわからない。たぶん、本能で察したとかだろう。


 哀れラフィオは、引き続きモフられることになってしまった。

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