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1-24.ライナーの勝利

 両者の脚力の差はわからないけど、足の長いライナーの方が早かった。本気で駆け出した瞬間は、彼女の姿が見えなかった。

 ほとんど瞬間移動のような速さでフィアイーターの前に回り込んだライナーは、そのまま奴を蹴り上げる。


 俺たちの方に飛んでくるように。


「ねぇ! こいつどう倒せばいいんだっけ!?」

「コアを露出させて、そいつを蹴って壊すんだよ!」


 フィアイーターの方を見れば、片手がひしゃげたように壊れていた。


 マネキンだから、柔軟性のない硬い素材。強い力が加われば割れる。

 その硬さが腕の振りの威力を高めていたのだろうけど、ライナーの強烈な蹴りと壁や天井への激突を繰り返していれば、どこかで破損するのは当然か。


 素早さと蹴りの強さ。これがライナーの武器だ。

 壊れたのは片腕だけではないらしい。服で覆われた胴の部分から、微かに黒い闇が見えた。コアが見えるかもしれない。

 放っておけば傷が塞がる。早めになんとかしないと。


「ライナー! もう一回蹴れ! 今度は敵の胸を狙え!」

「わかった!」


 再び、強烈な加速でフィアイーターまで肉薄し、勢いのままに蹴り上げる。

 胸を狙ったのは間違いない。けど、外した。フィアイーターが慌てて起き上がって体をかばったから。

 そのせいで、壁に激突したフィアイーターはもう一本の腕と片足まで折れていたのだけど。


「あいつも、片足で走ったりするかな!? いや、やるつもりだと思う! わたしみたいに!」

「怪物に変な共感するの、どうかと思うぞ」

「悠馬、やっぱり僕たちが奴を押さえつけるしかない」

「わかった。やるぞ」


 新しい木片を拾ってきた俺を乗せて、ラフィオは駆ける。


 片足で逃げようとするフィアイーターだけど、その逃げ足はさっきまでと比べてかなり落ちている。

 ラフィオは楽々と追いついてその体を押さえつけた。そして敵の両足に体重をかけて、回復しかけていた方の足もろとも折る。


 なおも体をバタつかせて逃げようとする敵を、必死に押さえつけている。


「悠馬! こいつの服を脱がせ! というか持ってるそれで破いてしまえ!」

「お、おう!」

「ライナーはコアが見えたらすかさず蹴るんだ! そのために光を集め直せ!」

「え? うん!」


 ライナーは何度かの蹴りと遠慮のない走りによって、足の輝きが多少減ってるように見えた。

 片足を掲げて天井の光に当てる。少しめくれたスカートから目を逸し、自分の仕事に集中する。

 ラフィオから飛び降り、フィアイーターの服に木片の鋭い先端を指して穴を開けて、その穴から服を引き裂いていく。


 女児向け商品のマネキンが着ていた、なんかのブランドの女の子向けの服が無残にも破れていった。


「なんか、ちょっとあれだね。悠馬が女の子を襲ってるみたいに見えるね」

「うるさい! 光は集まったか!?」

「もちろん! いつでもいけるよ!」


 ちらりとライナーの方を見る。トントンと爪先で床を叩き、走る準備をしながら俺に親指を立てた。


 俺も急ごう。

 マネキンの胸部が露出した。果たしてコアはちゃんとそこにあり、最初に戦った傘のフィアイーターと同じく体の中は漆黒だった。

 この前のペットボトルは特殊なケースだったかな。


「今だ!」


 俺は叫びながらフィアイーターの体を掴んだ。ラフィオか退いて、フィアイーターの体を持ち上げられるようになる。

 ライナーに向けて、怪物の体を掲げた。瞬間、ライナーが駆け寄って渾身のハイキックを放つ。


 光る爪先がコアに直撃。砕いた。フィアイーターの体は黒い粒子に包まれて消えて、俺の手からバラバラになったマネキンと服の残骸が落ちていく。


「勝ったの?」

「そうだ。俺たちの勝ちだ」

「やったー!」

「うおっ!?」


 ライナーが抱きついてきた。力加減してくれたのだと思うけど、自慢の脚力で飛びついてきたから支えるのに苦労する。

 あと、胸が当たってる。なんだろう、セイバーにも同じように抱きつかれたけど、気恥ずかしさは感じなかった。姉だからか? それか胸の大きさか?


「やったよ悠馬。勝てた。悠馬のおかげでもあるよね。だから確信したの。わたしたちなら、勝てるって」

「ああ……がんばろうな」


 耳元で囁くように言うライナーに、俺は少しだけドキドキしながら返事をする。


「そう。ふたり一緒に、ね。悠馬が敵を抑えてわたしが蹴る。さっきみたいに。……あっ」


 なにかに気づいたというように、ライナーは慌てて俺から離れた。


「わたしが蹴るとき。その……ぱ、パンツ見えた?」

「は?」

「真正面から蹴ったじゃん。だからスカートの中、見えたかなって」

「見えてない。早くて」


 本当だ。仮に見えていても、そうだとは言わないけど。


「本当かなー? てかこの格好、パンツどうなってるんだろう。うわー。パンツまで変わってるんだ」

「言うなよ。そんなこと」


 ライナーは後ろを向いて、自分のスカートめくって確認してるらしい。もちろん俺からは見えてないぞ。見えるとしても、目を逸したからな。


「えー? 悠馬ってば気になるの? えっち! 変態!」

「うるさい」

「あはは。ごめんごめん。ちょっと変わった格好にテンション上がっちゃって。こうして見ると、かわいいけどすごい格好だね。かわいいけど。ほらほら、こことか大胆」

「ごめん! 遅れました! 定時になったらすぐ上がろうかと思ったら、あのクソ上司が引き止めやがったの!」


 俺に胸元を見せてくるライナーの困った行為に、セイバーの声が割って入った。


 助かった。本当に。

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