「って! ええっ!? なんか勝手に口が動いて。あ、でもこの格好かわいい! それに」
自分の左足を動かす。恐る恐るあげて、床をトントンと叩く。
「すごい。本当に足が生えてきた……」
「フィアアアアアアア」
「っ! 邪魔をしないで!」
フィアイーターもライナーの存在を認識。自分を殺しうる敵だと理解しているらしい。
子供のような素早い動きでライナーに駆け寄ったが。
「えい!」
右足を軸に、新しい左足で敵の体を思いっきり蹴る。
このフィアイーターは素早い一方で、体が小さいために体重は軽いらしい。魔法少女の蹴りによって奴の体は宙を舞い、天井の照明に激突。
「ライナー! あまり明かりを壊すな! あいつを倒すには光を足に集めないといけないんだ!」
「わかった! ……足に?」
ラフィオの説明がライナーには理解しきれなかったか、地面に降り立ったフィアイーターを睨みながら訊き返した。
「その宝石がはまってる箇所に光を集めるんだ。セイバーの……ピンク色の魔法少女の場合は持っている剣に宝石がはまっている。君の場合は足だ!」
足そのものが、ライナーの武器。
遥にぴったりだ。
「なるほどわかった! 足に光を貯めながら戦えばいいんだね!」
「それか、他の魔法少女か僕らが隙を作るから、その間に貯めて攻撃だ。行くぞ、悠馬」
「おう」
タオルで顔を巻いて覆面にした俺は、ラフィオの上にまたがる。一応、身分を隠すためにブレザーも脱いでおいた。
片足の少女が勇気を見せたんだ。俺がビビってどうする。
俺は魔法少女じゃない。ただの人間だ。けど魔法少女と一緒なら負けない。
「君たちは、お互いに支え合える関係のようだね。君と愛奈の関係もそうだけど。君は、そういう所があるよね」
「うるせえ。さっさと行け」
ラフィオの軽口にも悪い気はしなかった。
そしてラフィオはフィアイーターに向けて突進。もちろん考えなしの突撃ではないだろう。
敵の方もラフィオに向けて駆け出した。子供サイズの両手を大きく広げて接近してくる。
体は小さくても、腕力は人並み以上にある可能性が高い。これまでのフィアイーターもそうだったし、あいつは事実子供以上の脚力は既に見せている。
「いけるのか?」
「あいつの動きは何回か見た。パターンがある」
俺が遥に怒られてる間も、ラフィオはあいつと戦ってたわけで。
フィアイーターがラフィオの前足に向けて両腕を挟み込むように振る。ラフィオはそれを、軽く跳躍して避けた。フィアイーターの頭上を越えて、奴の後ろに着地。
攻撃を外したフィアイーターは、すぐさま方向転換。その場で止まって瞬時に逆方向に走れる動きが、なんで可能なのかはわからない。ブレーキの利きが良すぎる。
「慣性を無視してるのではなくて、脚力で無理やり動いているんだね。フィアイーターといえども物理法則には逆らえない」
「魔法で作られた怪物でも物理が効くのは嬉しい知らせだな。でも殴っても殺せないだろ」
「そうだね。なにか武器になりそうなものはないかい? 僕たちでコアを露出させて、ライナーに破壊してもらおう。奴の体を切り裂ける道具がほしい」
「そう言われても」
前回のショッピングセンターより武器になりそうなものがない。百貨店の衣類売り場なんて。
「文房具売場とか、台所用品とか売ってる場所なら望みはあるんだけどな」
百貨店の服売り場がやたらと広いから、こんなことになってるわけだ。怪物が都合よく他の売り場に出てくるより、服屋に出てくる可能性の方が高い。
「だったら、場所を移動しようか。他の売り場か、バックヤードなら何か見つかるかも」
「次からはナイフとかも持ち歩いた方がいいかな」
「やめとこう。不用意に人に見つかると面倒だ」
「ラフィオこっち。使えるかも」
服を置いていた木製の棚が、フィアイーターの攻撃で壊れて破片になっていた。
先端の尖った木の棒みたいになったものがあった。元はおしゃれな陳列棚だったのだろうけど、今は武器だ。
「おっと」
フィアイーターがまた突進をかけてきた。ラフィオはまた跳躍してこれを回避。したのだけど。
「フィアアァァ!」
「おお!?」
向こうも跳んだ。あれだけの速度を出せる脚力なのだから、ラフィオのジャンプにも軽々追いついて、子供サイズの腕を振る。
空中にいるラフィオは回避ができない。防御する術もない。
俺は咄嗟にラフィオの上から身を乗り出して、手に入れたばかりの武器をフィアイーターの腕を阻害するように差し込んだ。
ラフィオの横腹を叩くはずの腕が、代わりに木片を砕いた。せっかく手に入れた武器が失われたのは残念だけど、威力は大幅に減衰してラフィオは無事に着地。
「助かったよ」
「礼を言われるのは早いな。すぐに次が来るぞ。今度は跳んで避けるなよ」
「わかってるとも。けど、それはそれで大変だ」
「フィアアァァ!」
フィアイーターが同じように両手を振り回しながら肉薄。ラフィオは敵の動きを見極めてから避けようと睨みつけて。
「わたしのこと、忘れてないかな!?」
ライナーの横槍が入って、その必要がなくなった。
名前の通りの素早さで、フィアイーターに側面から蹴りを入れる。ハイソックスで覆われた片足は十分な光を放っている。充電は完了か。
横から思いっきり蹴られたフィアイーターは、壁に激突。すぐに床に降り立ってライナーを睨んでから、距離を取るべく彼女と離れる方向に走ったけど。
「あはは! 早い早い!」
敵の動きではなく、自分の足を評した言葉。
久々に二本の足で走る喜びを噛み締めながら、逃げるフィアイーターへ駆ける。