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1-14.駅前のショッピングセンター

 とはいえ炊事をラフィオがしてくれるのはありがたいから、お望み通りの場所に連れて行く。


 近所のスーパーでもいいけど、駅前にショッピングセンターがある。そこの一階の食料品売り場の方が、ラフィオの希望に沿うだろう。


 遥が乗ったはずのバスの次の便で、昨日フィアイーターが暴れた駅まで向かう。死者が出るような騒ぎだったけど、電車が止まるわけにはいかない。

 警察の規制線が張られて一部は立入禁止になってるけど、駅は機能を維持していた。


 ショッピングセンターがあるのは、バス停から駅に入って向こう側に抜けてから数分歩いたところ。

 食料品店以外にも、生活雑貨や衣類も売ってるし、書店も小さいけどある。生活に必要なものなら大抵揃う。

 簡易的なゲームセンターもあって、休日には家族連れで賑わう場所だ。


 全国に店舗があるこのショッピングセンターのブランドの中では、そこまで大きなわけじゃないんだけど。他県のでかい店舗だと、映画館が併設されたりするらしいし。

 この街で映画館に行きたいなら、電車で数駅の距離の市街地に複数館あるし、その他の買い物もそこでやった方が品揃えはいい。


 けど放課後とかに気軽に行ける買い物スポットといえば、ここだ。


「実のところ僕も、ネットで少し勉強しただけだ。そんなに凝った料理も作れないし、そもそも君の家にどんな食材や道具があるかも知らない」

「フライパンとお玉はあるぞ」

「それは知ってる。とにかく、簡易的な物から段階的に作っていくことにしよう」

「簡単な物なら俺も作れる」

「簡単すぎて愛奈が泣いてるんだよ」

「そうか?」


 なんか、ラフィオに上から言われるとムカつくな。


 そんな会話をしながら、ショッピングセンターに入った。ラフィオは少年の姿になっている。

 この方が買い物はしやすいよな。何を買うかを決めるのはラフィオだし。


「それで悠馬、プリンはどこに売ってるんだい?」


 本当に、こいつに任せて大丈夫だろうか。



 買い物カゴに何種類ものプリンを入れてから、ラフィオはようやく青果コーナーに足を運んだ。


「とりあえず、野菜炒めとかから作ろう。モヤシとキャベツ。玉ねぎ。あと肉。味付けは……塩コショウくらいは、家にあるかい?」

「あったかな。めんつゆはあるんだけど」

「……めんつゆも立派な調味料だね。それだけに頼るのもどうかと思うけど」

「ていうか、その程度の食材を買うなら近所のスーパーでもいいぞ。歩いて十分くらいの距離にあるし」

「いやいや。小さな店では、ここまでプリンの品揃えはないだろう?」

「おい」

「冗談だよ。今のうちから色々食材を見ておけば、今後役に立つだろうと思ってね」

「どこまで本気かわからないんだよな」

「心配することはない。やるべきことは、ちゃんと――」

「おい、どうした」


 不意にラフィオが口をつぐんだ。

 俺の問いかけに来た答えは、思ってもなかったもので。


「フィアイーターが出た」

「なに?」

「すぐ近くだ」


 ラフィオは奴の出現も察知できるらしい。


 事実、近くから悲鳴が聞こえてきた。周囲の客も何事かとざわめき始めた。

 誰かが怪物だと叫び、ざわめきはすぐにパニックに変わる。


「おいおい。二日連続で、しかも近い場所かよ」

「きっと、魔力の流れる霊脈がここは特に強いんだ。だから奴も、とりあえずはここにコアを落とした。愛奈に連絡を」

「ああ」


 ラフィオはといえば、買い物カゴを持ったまま悲鳴の方へと走っていく。俺もすぐについていった。


「フィアアァァ!」


 二リットルのミネラルウォーターの入ったペットボトルが巨大化して、フィアイーターに変化していた。巨大化したペットボトルに手足が生えているような形。手足もペットボトル製らしく、中に水が入っているのが見えた。


 胴回りも身長も、成人した男よりもでかくなっているし、手足も相当に太くて重量もパワーもありそうだ。武器は持っていないけど、水で満たされた体はそれなりに重いはず。


 ペットボトルと水だから、当然体は透けて見える。なのに、中にあるはずのコアが見えない。商品名を示すラベルに隠れているのかな。

 重量があるのを示すかのように、近くの陳列棚に体当たりすれば、容易に倒壊しないはずのそれがミシっと音を立てた。


 幸い、負傷した人は見当たらない。けど、近くにいる人間に突進をかけているらしい。

 夕食の準備をしに来たらしい中年女性が逃げているのが見える。フィアイーターはそれに狙いをつけていた。


「おい! こっちだ!」


 ラフィオはそんなフィアイーターに声をかけながら、姿を変化させる。四足歩行の大型モードに。


「愛奈が来るまで、僕たちで被害を食い止めるぞ!」

「お、おう!」


 そうだ。急いで呼ばないと。スマホで電話をかけると、愛奈はすぐに出た。


「姉ちゃん。フィアイーターが出た」

『ほんと!? またまたー。冗談きついって。そんな毎日出られたらわたしの体も持たないわよ』

「でも出たんだよ! まだ仕事中か? だったら大変かもしれないけど、なんとか来てくれ!」

『あ、それは心配ないわ。今日は会社休んだから!』

「おい、こら」


 電話の向こうで、無い胸を張ってる姉の姿が思い浮かぶ。どんなに得意げな顔してることだろう。


『遅刻をして評価を落とすくらいなら、仮病で休んだほうがいいと判断したの! ごほっ、ごほっ。持病の仮病がひどくて、今日は休みます課長……』

「仮病って自分で言うな」

『あー。やっぱり休日っていいわね! 労働しないで見るテレビの芸能ニュースって素敵! ああでも、なんか魔法少女のわたしの話題ばっかりで恥ずかしいっていうか……』

「うるさい! とにかく来い! 昨日の駅の近くのショッピングセンターだ!」

『ふぁーい。行ってあげますかー』

「ちなみに夕飯はラフィオが作ってくれるらしいぞ」

『ほんと!? やったー! 悠馬の不味いご飯ともこれでお別れね! すぐ行くから! 待ってて!』


 急に喜ぶんだよな。本当に大丈夫か?

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