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1-7.恐怖を食らう怪物

「それより話の続きをしろ」

「そ、そうだったな。……プリン」


 もう一口プリンを食べてから、ラフィオは続きを話した。


「平和な世界だけど、ある住民が……僕の友人なんだけど、地球を壊すと決意した」

「なんでまた。しかも壊すって。侵略とかじゃなくて?」


 攻め込んで植民地化するとか、領土拡大とか、労働力や資源を搾取するのは理解できる。実際の戦争がそうだし、映画の中で宇宙人が攻め込んでくる理由はそれだ。

 けど破壊とは。


「僕にもよくわからない。ただ、気に入らなかったんだと思う」

「気に入らない?」

「自分の世界より進歩した、便利で豊かな世界の存在が」


 そんな子供の嫉妬みたいな理由で、他所の世界から攻め込んで来られるとは。


 そういえばラフィオも、人間の姿の時は子供だった。


「奴も、見た目は僕と変わらないくらいの年齢だ。そして優れた魔法使いだ。僕は奴の侵略を、向こうの世界で止めることができなかった。だから、侵略される側の世界の人間に頼るしかなかった」

「だからこっちに来たわけか。魔法少女って戦う手段を作って」


 ラフィオの頷き。


「魔法少女のシステムは僕が作った。僕も魔法使いの端くれだからね。数はあまり用意できなかったし、変身できる者にも制約がある」


 さっきは女しか変身できないと言ってた。だから魔法少女。


「魔法少女の前に、まずはフィアイーターから話した方がいいだろうね。あれは侵略の尖兵だ。名前の通り、恐怖を食らう。恐怖を作るため、人を襲う」


 さっきもそう。傘の怪人が人を殴り、周りを恐怖で怯え惑わせた。


「侵略者のあいつがコアをこの世界に落として、それが魔力とこの世界の物質と融合して生まれた擬似的な生命だ。奴の開発したコアには、その力がある」


 だから、コアを壊さないと殺せない。


「コアを分離することはできない。取り付かれた物は、コアの破壊と共に壊れてしまう」

「さっき残ってた傘が壊れていたように?」


 俺の問いに、ラフィオは頷いた。


「フィアイーターの重要な性質がもうひとつ。あれは、エネルギー源として恐怖を食らうために人を襲う。だけど恐怖で奴の腹が満たされることは、ない」

「つまり?」

「生み出された恐怖は、エデルード世界にあるメインコアと呼ばれる巨大なコアに送られる。フィアイーターの腹じゃない」

「怪物は、絶対に満たされない欲望を満たすために、延々と暴れ続けるのか?」

「そうとも。恐怖がメインコアに送られる一瞬だけ体を通るから、ちょっとくらいは楽しめるかもしれないけどね」


 皮肉混じりの言い方だった。


「もしフィアイーターのことを哀れに思ったなら、できるだけ早く殺してやれ」


 俺にではなく、愛奈に向けた言葉。


「あー。うん。そうだねー」


 俺たちの会話を黙って聞いていた愛奈は、目を泳がせながら空返事した。

 戦うこと自体に気乗りしてない様子。そうだよな。俺も同じ意見だ。


「ちなみに、そのメインコア? ってやつが恐怖でいっぱいになったら、どうなるの?」

「巨大で圧倒的な力を持ったフィアイーターが、この世界を破壊し尽くそうとするだろう」

「あー! 絶対に嫌だ! やりたくない!」


 駄々っ子みたいな態度は別として、確かに気の進む話じゃない。


 とんでもない怪物と、いずれは戦うことが決まってるなんて。


「奴も、コアを大量に作ることはできない。だから魔法少女がフィアイーターが出る端から倒していって、奴の計画を遅延させる。それまでに僕が、最強の敵への対抗方法をできるだけ充実させる。それが方針だ。まずは、他の魔法少女を集めるところからだね」


 ラフィオは首から提げている鞄から、宝石をふたつ取り出した。黄色と青色。


「今持っているのは、あとふたつ。追加で作ることもできるけど、数は期待できない」

「その魔法少女ってやつについて詳しく教えろ」

「魔法少女は、人々に救いをもたらす希望の光だ」

「希望の光」

「あー。仕事だけでもしたくないのに、魔法少女とかやってられないわよー」

「そう。希望の光だ。これが」

「これが」

「そうだ。あのクソ上司の頭をカチ割るくらいはやってもいいよね! 魔法少女だし!」

「やめろ」


 なにが希望の光だ。


 情けない姿の愛奈にラフィオも唖然としつつ、咳払いして気を取り直した。


「魔法少女の原理は、基本的にはフィアイーターを作るコアと同じだ。ただし安全に人の姿を変えることができるし、可逆的だ。変身した人間の意思を奪うこともない」

「安全てことか」

「そういうことだ。思いっきり安心しろ」

「そう単純でもないからな。戦うこと自体が危険だから」


 得意げな顔のラフィオに、少しむかつく。

 けどそれより気になるのは。


「フィアイーターが魔力とコアで変化するなら、魔法少女も同じだろ? 魔力はどこから出てきた?」


 ラフィオの説明だと、コア自体には魔力は含まれていない。


「魔力ならこの土地にたくさんあるよ」


 ラフィオはトントンと机を叩く。実際に示しているのは、このマンションが建っている土地。というか、この街一帯。


「この世界の中でこの街だけ、魔力の霊脈がある。そこから魔法少女とフィアイーターは作られる」


 土地のせいか。だからラフィオの友人は恐怖を集める場所にここを選んだ。ここでしかフィアイーターは作れない。フィアイーターの傷が時間と共に回復していくのも、土地の魔力を吸収してるから。

 魔法少女も、ここでなら変身できる。


「ここで魔力を消費し続けていれば、いずれは尽きるかも。そうなれば奴の計画も頓挫するね」

「尽きるのか?」

「たぶん。いつになるかはわからない。一年後か。十年後か。百年持つかも」


 気の長すぎる話だ。時間はこちらの味方とは言えるかもしれないけど、勝つ手段としては期待し辛いな。

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