「お願いアメリア! ぜひともウチの城に来てくれ!」
ある日、エイリスさんが深刻そうな顔で両手を合わせてきました。
いきなりの出来事に何なのか理解が追いつきません。
エイリスさんの城ということは、サンドゥリス王城。そこに呼ばれるとは一体どんな非常事態なのか。
まずはエイリスさんを落ち着かせて、話を聞いてみることにしました。
「実はメイド達の間で風邪が流行ってしまってね……。バタバタ倒れてしまい、業務に支障をきたしているんだ」
まさかの事態でした。確かに最近外でも具合悪そうにしている人たちを見ましたが、王城の中にもいるとは……。
風邪の拡大を防ぐため、具合の悪いメイド達は清潔で風通しの良い大部屋に移されているようです。
今はその中の生き残りが穴を埋めているとのこと。うむむ……体がうずいてきましたね。
「それだけなら、まだどうにかなったんだけど、倒れたメイド達はベテランが多く、経験の浅いメイド達が働き回っている状態なんだ」
「なるほど、じゃあ私がお手伝いに行けば良いんですね! 了解です!」
「話が早くて助かるよ。メイド長も頭を抱えている状況でね。それでボクのところにも相談が来たんだ」
そういうことなら喜んでお手伝いに行きましょう! 久々の緊張感ある現場ですね、腕が鳴ります。
エイリスさんは胸をなでおろしていました。
「良かった。メイド長から誰でも良いから連れてきてほしいと懇願されてね……。アメリアは強力な助っ人になると思う。ぜひ頼んだよ」
「私のようなポンコツメイドで良ければぜひ! ちなみに総メイド長はなんというお名前なんですか?」
「ルミラという。男勝りでキツイところがあるが、仕事は完璧なメイドだ」
「……え?」
私はその名前をつい聞き返してしまいました。
◆ ◆ ◆
あれよあれよという間に、私はメイド達の詰所の前に連れてこられました。
いつものメイド服ではなく、仕事用のメイド服を身につけています。同じデザインのように見えますが、伸縮性や生地の乾きやすさなどが違っているのです。
「ここよアメリア」
私の隣にいたエイリスさん――正確にはイーリス王女の姿に戻っているエイリスさんが扉に手をかけます。
「まずはわたくしがメイド長とメイド達に話をしてくるわ。アメリアはその後に入ってきてちょうだい」
「はい! ……あのエイリスさん?」
「? どうしたのかしら?」
「あの……やっぱり慣れませんね。普段のエイリスさんを知っているだけに、違和感がすごいです」
「も、もう! ここではその名前はだめよ。こほん。それじゃあわたくしが先に入るわね」
そう言って、エイリスさんが詰所の中に入っていきました。
「イーリス王女! あの後、皆と話したんスけど、あたしらまだまだやれますよ! なぁ皆! 限界の向こう側まで行きてぇよなァ!?」
「行けます!」「私、箒と運命を共にします!」「雑巾の上がウチの死に場所です!」「もう私、バケツが恋人です!」などなど。
非常に士気の高いやり取りが中で繰り広げられていました。
そして、やはり聞き覚えのある声が中からしました。
「待ちなさいルミラ。わたくしは貴方達が潰れるまで働くのを望んでいないわ」
「ありがてぇ言葉っス! おいお前ら! 今の言葉で疲れ飛んだよなァ!?」
すぐに部下であろうメイド達が「ぶっ飛びました!」「今日からウチ、寝ません!」「イーリス王女万歳!」「食事の代わりにイーリス王女を摂取しましたぁ!」などなど、非常に士気の高いやり取りが中で繰り広げられていました。
そして、やはり中から聞き覚えのある声がしました。これはもはや、間違いないでしょう。
「ということなのでイーリス王女。申し訳ないんスけど、連れてきてくれたメイドには帰ってもらって大丈夫っス。そうだよなぁ皆ァ!」
皆が声を上げます。ここまで士気が高まっていると本当に私はいらないのではないかと思ってしまいます。
ですが、エイリスさんが説得を始めます。
「ですが、それでは来てくれた応援に申し訳がたちません。ぜひともよろしくお願いいたします」
「!? い、イーリス王女、頭を下げないでください! 分かりましたよ! そんじゃあ入ってきてもらってください! ですが、使えなかったら即刻帰ってもらいますからね」
「そうだそうだー!」「ここは戦場だー!」「帰れ帰れー!」と、非常に入りづらいコールが続いています。
私は意を決し、扉を開きました。もはやなんとでもなれという感じです。それに、エイリスさんと
「ど、どうも初めまして。アメリア・クライハーツと申します」
黒髪の女性と目が合います。やはり変わっていないようで安心しましたよ、ルミラさん。
「アメリアさぁぁぁぁん!!!」
ルミラの叫びと同時に、部下のメイド達が発言していました。
「なんですかこの貧相なメイドはー!?」
「仕事出来なさそうな顔していますよ!」
「お帰り願いましょう!」
「馬鹿野郎、お前ら!!! 誰に向かってナマこいてんだ!!?」
ルミラさんがズンズンと足音高く私に近づいてきます。
「アメリアさん、お久しぶりっス……!」
「ルミラさん、元気そうで何よりです!」
「もう……言っているじゃないっスか。さん付けなんていらないっスよ」
「あはは……ごめんなさい」
完全に私とルミラさんの世界になっていました。エイリスさんですらポカーンとしています。そう言えば、エイリスさんには事前に言っていなかったですね……。
エイリスさんからは当然の質問が飛んできます。
「アメリアは総メイド長とお知り合い、なのですか?」
「はい。前の職場で一緒に働いていたんですよ」
私の錯覚でしょうか。
「総メイド長と働いていた前の職場って、ま、ままままさか……!」
するとルミラさんが部下のメイド達に告げました。
「改めて紹介する! この方はアメリア・クライハーツさん! タオコール家に勤めていた時、あたしに仕事を教えてくれた大先輩だ!」
タオコール家の名前を聞いた部下のメイド達が皆、恐れおののきます。