「太陽の化身! また現れたんですね!」
「今回のカサブレードの使い手は脆弱そうだな。何故フランマもヒーヘイズも倒されたのか、甚だ不思議だな」
「太陽の化身、あれが……?」
ディートファーレさんは太陽の化身を見るのが初めてです。すぐには動かず、様子見に徹しているようでした。
フレデリックさんが一歩前へ踏み出します。
「太陽の化身、太陽の魔神は元気か?」
「黙れよただの人間が。太陽の魔神から力をもらっておいて敗北するとはな。この恥晒しめ。カサブレードを破壊した後はお前も殺してやる」
「確かに俺は敗北した。しかし、だからと言って、ただの力の欠片に俺が負ける道理はないだろう」
「カチーン。死んだぞお前」
バーニガがフレデリックさんの胸目掛けて腕を伸ばします。その速度は矢と見間違えるほどです。
しかし、フレデリックさんはもうそこにはいません。
次の瞬間、バーニガの腕に無数の斬撃痕が生まれました。
「なぁー!?」
「勘違いしているかもしれないが、あの時の俺は太陽の魔神の力に抵抗しながら戦っていた。しかし今は何もない、すっきりした状態だ。つまり、抵抗していた分のリソースは全てお前を倒すためだけに注げるということだ」
バーニガが次のもう片方の腕を振り上げます。対するフレデリックさんは既にその腕を斬り落としていました。
「なんだこいつ……! 本当にあの操り人形か!?」
バーニガの両腕がみるみるうちに回復します。自己治癒能力が高いのだと見て取れました。カサブレードの攻撃ならば少しは回復を遅らせることができるのでしょうか。
それはそれとして、私達はフレデリックさんの戦いを見て、開いた口が塞がりませんでした。
「おいおい……わたし達があんだけ倒すのに苦労した太陽の化身を子供扱いしてるぜ」
「流石はフレデリック軍団長。汗一つかいていないとは驚きだ」
「あれでカサブレードでも持ったら鬼に金棒ですね」
太陽の化身は決して楽な相手ではありませんでした。色々と考えて、死に物狂いになって、初めて勝利を掴める相手です。
それがあの圧倒ぶり。まだまだ余裕すら感じ取れます。
バーニガの攻撃は全く当たらず、フレデリックさんだけが攻撃をする構図はしばらく続きました。
「なるほど」
突然フレデリックさんが立ち止まり、腕をだらりと下げました。
そして、フレデリックさんは私の方を見ました。
「あとはアメリア。お前がやれ」
「ええっ!?」
「言い忘れたが一人で倒せ。この際カサブレードの形態変化はこだわらない。あれを倒せたら合格とする」
マルファさんが会話に割って入ります。
「な、何言ってんだよ!? アメリア一人でやらせるなんて、殺す気か!?」
「俺はアメリアに言っている。やるのか、やらないのか、いま答えを出せ」
「やります」
私は自分が思ったより早く答えていました。
マルファさんがまだ私のことを気にしてくれます。とてもありがたいことです。こんなポンコツメイドのことを気にかけてくれるなんて、感謝しかありません。
ですが、私は別に気が狂ったわけでも、フレデリックさんの無茶振りに絶望したわけでもありません。
「ここしばらく、フレデリックさんに教えてもらって、皆と訓練して、カサブレードのことを深く知ろうとして、色々なことに挑戦してきました」
私は、私自身を信じたいのです。
「だから私、やります。フレデリックさんがくれた時間、皆と分かち合った時間に意味があったことを証明したいんです!」
「アメリア、その心を忘れるな」
そう言って、フレデリックさんは私の後ろまで歩いてきました。
これで私とバーニガが向き合う形となります。
「か~っ! この俺がコケにされたどころか、こんな未熟そうなカサブレード使いが一人で立ち向かってくる!? 侮辱罪が適用されるだろうよこんなもん!」
「私、負けません」
カサブレードを握る手に力を込めます。
すると、カサブレードから力が流れてくるのが感じます。そして、その力を一箇所に止めないよう、全身にまんべんなく行き渡らせるイメージを持ちます。これは私がいつも全力疾走をする時に行っていることです。
ずっとカサブレードを握っていて発見したことですが、カサブレードから流れてくる力はある程度操作可能です。
うん、いつもの感じだ。これなら、リラックスして戦えます。
「しゃらくせーガキが! 死ね!」
バーニガの片腕が高速で伸びてきます。鋭い爪もあって、ある種の槍を連想させます。
私はカサブレードを盾のように構え、バーニガの貫手を遮ります。そのまま腕を掴み、カサブレードを突き立てます。
「が!? こいつ! 俺の腕を!?」
人間が相手ならば、攻撃に必要な四肢を狙う。これは、フレデリックさんから教わった対人戦の技術です。幸運なことに、太陽の化身は人型。フレデリックさんの教えが活かせる相手です。
たまらずバーニガがもう片方の腕を振り回します。しかし、これは
上段。下段。斜め上。斜め下。色々な角度からムチのようにバーニガの腕が襲いかかってきます。
対する私は攻撃と逆の角度からカサブレードを振ります。下段。上段。斜め下。斜め上。フレデリックさんの素早い剣で鍛えられていた私にとって、これは十分対応可能な攻撃です。
次の瞬間、私はバランスを崩します。
バーニガが足を伸ばし、私の足元を
チャンスとばかりに、バーニガが接近してきました。これはいけません。フレデリックさんが相手なら、怒られていました。
「――!」
すぐに立ち上がり、私はカサブレードを持つ腕を限界まで後ろに引きました。まるで弓を撃つかのような格好です。
バーニガが両腕を伸ばしてきます。その瞬間、私は地面を蹴り飛ばし、バーニガの懐目掛けて跳びました。
私自身が矢のようになり、バーニガ目掛けて、カサブレードを突き出します。