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第58話 脳筋的解決法

「カサプロテクトはカサブレードの形態変化の中でも比較的発現しやすい部類のようだ。防御能力も高いので、まずはこの形態を発現させ、お前の戦いの幅を広げたい。そして二つ目についてだが、俺としてはこちらのほうが重要と考えている」

「私が未熟だから、ですか?」

「そうだ。現実問題として、戦闘を生業なりわいとしている者とメイドでは戦力に絶望的な差がある。それを埋めるためにはカサブレードから更に力を引き出す必要があると考えている」

「つまり、アメリアの技術の未熟さは、強化された身体能力でカバーするってわけか」


 マルファさんの要約でイメージが掴めた私は今までの戦いを思い出します。

 はっきり言って、私は未熟です。命がけの戦いを生き残れたのも、カサブレードの力あってのものです。何もない私だったら、今頃何百回も死んでいたことでしょう。


「フレデリックさん、私やります! なんとかして、カサブレードの力を引き出してみせます」

「いい心がけだ。……カサブレードは使い手との同調率が上がれば上がるほど、それに応えるようだ。参考になるかは分からんが、覚えておくと良い」

「はい! ありがとうございます!」


 そうして私の宿題が始まりました。



「む~~~~!?」



 二日が経ちました。何にも出来ていません!

 カサブレードの形態変化も、カサブレードから更に力を引き出すのも、どちらもです!

 私は宿のベッドに寝転がり、この二日間を振り返ってみます。

 最初はカサブレードを振り回したり、マルファさんやエイリスさんの見様見真似で魔力を送ろうとしてみたり、色々と試してみました。ですが、カサブレードはうんともすんとも言いません。見れば見るほど、傘です。ただの傘なのです。


「どうしよう私、何にも成長していない……」


 エイリスさんとマルファさんにもそれぞれ課題が与えられています。

 エイリスさんはより戦況を見ることの出来る訓練。マルファさんはディートファーレさんとマンツーマンで魔法の練習。みんな、着実に成長しています。

 私も負けていられないというのに。


 私は宿を飛び出し、ランニングを始めます。とりあえず汗を流して、疲れましょう。そうすればきっといい考えが浮かんでくるはずです。

 ひたすら無心で足を動かします。しかし、頭はカサブレードのことでいっぱいです。


「カサブレードの力を引き出すためにはどうしたら……」


 元々の力もあるのでしょうが、フレデリックさんは偽物とはいえ、カサブレードを自由自在に操っていたように見えます。

 その違いはなんでしょうか。いや、フレデリックさんはもう答えをくれています。


「同調率、か」


 私は手にカサブレードを出現させ、ランニングを継続します。カサブレードによって身体能力が強化されたので、だんだんと息切れが収まってきました。

 ならば行けるところまで行ってみましょう。それから色々と考えましょう。



「ふぅ……」



 二十分ほど全力疾走した辺りで、私はようやく立ち止まりました。カサブレードがなければ、今頃虫の息だったでしょう。

 私は改めてカサブレードの力を思い知ります。同時に、これは人が持っていて良いものなのか、考えてしまいます。

 自分のことを良い人間だと言い張るつもりはありませんが、私よりももっと悪い人がこれを持っていたら……?


「やっぱり、カサブレードはどこかに放棄しなくてはなりませんね」


 随分遠くまで来たので、私は改めて覚悟を決め、走り出しました。


「――あ、そっか」


 限界まで体力を消費した私は、カサブレードとの同調率を上げる方法を思いつきました。

 それが正しいのか、それとも疲労困憊ひろうこんぱいから来る世迷言なのか。それは後で確かめてみましょう。



 ◆ ◆ ◆



「ふぁ……」


 翌日、いつも通りに目覚めます。私はすぐに右手を確認します。


「ない、か」


 昨日寝る前にカサブレードを出しっぱなしにしていたのですが、消えてしまいました。どうやらカサブレードもずっと出せるわけではないようです。

 改めてカサブレードを出現させ、私は身支度を整え、またランニングに繰り出します。


 カサブレードと一日を過ごす。


 これが私の考えた、カサブレードとの同調率アップの作戦です。

 よくよく考えれば、私はあまりカサブレードを出しっぱなしにしません。非常時ではないので、当たり前かもしれません。ですが、そのせいでカサブレードとの同調率が低いのだとしたら?

 考えても仕方がないので、まずは実践です。

 これで駄目なら、次の手を考えるだけです。


 昨日と同じように全力疾走をします。そして限界を迎えそうになったら立ち止まります。昨日と比べて、ほんの少しですが走れたような気がします。


「もしもはっきり分かるくらい距離が伸びたら……」


 私はこの方法に手応えを感じていました。同調率に関して、目に見える数値はありません。だったら全く同じ位置から全力疾走を始め、限界を迎えそうになったら立ち止まるということを徹底すれば、ある種の物差しになるのではないでしょうか。

 もちろん誤差はあるのでしょうが、今の私にとって、その物差しはモチベーションに繋がります。


 私の方針は決まりました。

 カサブレードを四六時中出しっぱなしにし、毎日全力疾走をする。

 理論も何もありませんが、今の私にはこれしかありません。


「よーし、やりましょう! 走りまくってエイリスさんとマルファさんをびっくりさせてみせます!」


 絶対に皆をびっくりさせる。

 私は力強く帰路につきました。

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