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第57話 課せられた目標

 私、アメリアのテンションは最高です。最高の朝、最高の目覚め、最高の朝食、あらゆる最高を摂取し、今の私は最高を超えています。

 今ならばフレデリックさんに勝てるかもしれない。いや、もしかしたら圧勝かも!? 溢れんばかりの体力を漲らせて、私達は今日もフレデリックさんの下へと向かいます。


「……というように、無策で敵に突っ込むほど愚かなことはない。その後に何か戦略を仕込んでいるのなら、話は別だがな」


 今日も今日とて、私はフレデリックさんにボコボコにされていました。

 流石に勢いに任せて突っ込んでしまったら、それを諌めるため、それ相応にやられてしまうのは当然でした。こういう結末は、ちょっと考えれば分かったはずなのに……。

 エイリスさんとマルファさんも若干引いていたように見えます。


「アメリア、流石に今日のアメリアは何だかこう……勇敢過ぎたね」

「何言ってんだよエイリス! はっきり言え! おいアメリア、お前が謎に突っ込むから陣形が崩壊したぞ、反省しろ!」

「す、すいませんでしたぁ!!」


 私は土下座でもするかのように、それは低く低く頭を下げました。お恥ずかしい限りです。

 同時に私は睡眠の恐ろしさを思い知りました。まさか目覚めが良いと、ここまでテンションが高くなってしまうとは……。

 言い訳ではありませんが、そういう状態だったことを二人に話してみました。何事も共有が大事ですからね。

 すると、マルファさんはジトーっとした目でこう言います。


「よし分かった。今後は少しテンションが低くなるようにしてやるよ」

「マルファ、流石にそれはいけない。良質な睡眠は良質な行動、思考に繋がるからね」

「よし分かった。じゃあそういう状態だったら、首輪でもつけてやるよ」

「それならギリギリ許可出来る……かな?」

「ごめんなさい! 自分を抑えますから、そういうのは勘弁してください~!」


 フレデリックさんが私達のことをじっと見ていました。うるさかったでしょうか。


「いいや、うるさいわけではない」


 素直に聞いてみたら、フレデリックさんは首を横に振りました。


「お前たちにはいつも会話があるな、と思っただけだ」

「? 普通のこと……だと思いますが、そうではないんですか?」

「あぁ。会話は大事だ。会話がなくなれば、活気がなくなり、雰囲気や連携にも大きく影響してくる」


 そこで、監視をしていたディートファーレさんが会話に入ってきます。


「十分わかっているじゃない。なら、もう少し口数を増やしなさいな。貴方が喋らないから、怖がっている人が割といるのよ?」

「……努力はしている。ただ、何を話せば良いのか分からないだけだ」

「へぇ……わたしには分からない世界ですねー」


 するとフレデリックさんはマルファさんへ視線を向けました。


「どうすれば良い?」

「……えっ!? わたしに聞いてます!?」

「マルファに聞いている。どうすれば口数が増えるのだ?」

「えぇ~……と」


 マルファさんが私とエイリスさんの方へ顔を向けてきます。マルファさんの顔がこう言っています。

 ――助けろ。

 私とエイリスさんはすぅーっと後ろに下がりました。決してマルファさんを見捨てたわけではありません。

 私達に戦いを教えてくれている先生に対するお礼。そう、お礼なのです。


「お前ら……いつか痛い目に遭わせてやるからな……」

「まぁまぁマルファ。そう怖いことを言わないで。フレデリック軍団長に物を教えられるチャンスだよ、喜ぶべきだよ」

「喜べねーからこんな顔してんだよ!」

「……無理にとは言わない」


 心なしか、フレデリックさんの語気が少し弱くなったような感じがします。

 顔は無表情のはずなのに、どこか悲しみの色が見えます。

 その顔を見て、マルファさんがとうとう観念しました。


「や、やだなぁー! わたしで良ければ色々レクチャーするに決まっているじゃないですか! あははは!」

「そうか。よろしく頼む。では訓練に戻ろう」


 フレデリックさんが喜んでいるように見えます。

 無表情だし、口数も少ないから勘違いしていたのですが、もしかしてフレデリックさんって中々に感情豊かな方なんでしょうか。

 そんな私の疑問は、フレデリックさんの振るう木剣により、どこかへ飛んでいってしまいました。


「さて、次で最後にするぞ。アメリア、前へ」

「はい!」

「カサブレードを出せ」

「分かりました」


 カサブレードを出現させ、とりあえず構えてみますが、フレデリックさんに下げるようジェスチャーをされました。


「カサブレードの形態変化について、少しばかりレクチャーをしよう」

「! よろしくお願いします!」


 形態変化、とても興味があります。

 今のところ、私の知るカサブレードの形は、の状態、カサバスター、そしてフレデリックさんの使っていたカサプロテクトの三つ。どんな話を聞けるのでしょうか……!


「カサブレードが可能とする形態は実のところ分かっていない。書物にもそう書かれているし、紛い物とはいえ、実際にカサブレードを使った俺でも全てを理解することが出来なかった」

「ボクが読んだ本によれば、百を越えるとも、使い手が望めば望む形になるとも書かれていたね。しかし、共通している点は使い手の心や潜在能力によるところが大きいようだね」


 この手の話題はエイリスさんの独壇場です。そんなエイリスさんをもってしても、カサブレードの全てが分かっていないようです。

 本当に、不思議な剣ですね。


「アメリア、お前に目標を課せる」

「なんでしょうか?」

「一つ、カサプロテクトを使えるようにすること。二つ、カサブレードによる身体能力強化の補正量を増やすことだ」


 フレデリックさんは一気に二つの目標を設定してきます。カサブレードの新たな形態変化と、カサブレードから与えられる力を増やすことを。

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