私は少し緊張していました。フレデリックさんは歴戦の軍人さんです。一体どんな厳しい評価が飛んでくるのか……!
「練度はさておいて、陣形は良かった」
「へ?」
「アメリアが先頭で相手を釘付けにし、二人が後方から魔法で援護。……立派な戦術だ」
意外なことに、フレデリックさんは褒めてくれました。
「話し合って今の状態になったのかはわからんが、この戦術は単純ながら効果的だ。しかし、この戦術を成立させるにはアメリア、お前が要となる」
「私ですか?」
「そうだ。お前がやられたら、この作戦は崩壊し、残りの二人はそれぞれ個別に戦う有象無象へと成り果てる」
私達が何となくやっていた戦いの大枠は、私と二人による二面攻撃。特に前線が強力であればあるほど、後方の援護がより強大になるそうです。
そのためには先頭の私が瞬殺されるのは論外、少なくとも必ず一回は二人に援護をさせて、『
何となくこうだろうと思ってやっていたことが正解に近かったことを知り、安堵します。そして、より強くなることへのモチベーションが上がりました。
絶対に強くなってみせます。
「次にエイリスだ。お前は第二のアメリアであり、マルファだ。王国仕込みの剣術と元々の才能である雷魔法でそれぞれのフォローに回ることが出来るだろう」
「中間の役割は心得ているつもりだよ。だからより――」
「そう、周りを見る必要がある。お前は戦闘において、適切に指示を出し、必要なポジションにすぐ入る司令塔的役割が求められている」
基本はマルファさんと一緒に後方で援護し、私だけじゃ手に負えないなら、フォローに入る。言うだけなら簡単ですが、それは命がかかった戦闘でこなすことが出来るのか……。
いや、エイリスさんはやってくれていました。いつもいつも、私達の事を考えて、動いてくれていましたね。
「最後にマルファ。お前は……」
「わたしは?」
「魔法の腕をより高めろ」
マルファさんへの言葉は、めちゃくちゃシンプルでした。
何を言われるのだろうとワクワクしていたマルファさんはすぐ抗議します。
「はぁ!? 何かふんわりしてねーですか!?」
「ふんわりなどしていない。事実だ、魔法の腕を高め、より強力な魔法を撃てるようになれ」
「わたしへの言葉、思いつかなかったんですか?」
「むしろお前へ掛ける言葉は一番に考えていた」
「納得いかねー!」
ディートファーレさんが隅っこで笑い声をあげていました。その後、紅茶をグッと飲み干し、カップを床に置きます。
「フレデリック、その言い方じゃあマルファが納得いかないわよ」
「とはいえ、これ以外に言葉が思いつかん」
「全く剣バカめ。私から補足するわよ。文句ないわよね」
フレデリックさんからディートファーレさんにバトンタッチされました。
「とはいえ、フレデリックの言葉に訂正はないわ。言い方を変えてあげるわね」
「? わたしはどうしたら良いんですか?」
「マルファに求められている役割は後衛に
「普通では?」
「そうよ。貴方はそこに
どうしましょう。フレデリックさんとディートファーレさんの内容が同じように聞こえてしまいます。直接言われているわけではないのですが、聞いていても理解ができません。
そう思っていると、ディートファーレさんは更に言葉を続けます。
「強力な魔法を使える者はそれだけで脅威よ。だから貴方は強力な魔法を撃って、存在感を出す必要があるの。そして敵にこう思わせなさい? 『後ろに強力な魔法を撃ってくる奴がいる。あいつを放っておけば、全滅だ。だから多少無理をしてでもあいつを狙わねば』ってね」
「それが
マルファさんは自分の役割を飲み込み、具体的に想像しているようです。ただでさえマルファさんはすごい魔法を使えます。それがもっと強力になったら……考えただけで身震いしてきます。
「そういうこと。だからフレデリックはマルファにより強力な魔法を扱えるようになって、脅威度を上げておけって言ったのよ」
「……最初からそう言ってくれりゃよかったのに」
「言っていたぞ」
「貴方は昔から言葉が足りないのよ。もっと言葉を継ぎ足しなさい」
「継ぎ足せば足すほど脆くなる。だから俺はシンプルに発言しただけだ」
「この屁理屈ボーイめ。とまあ、そういうことよ。とりあえず今のマルファに合わせた魔法を教えてあげるから、それを練習しなさい」
「えっ!? 良いんですか!?」
マルファさんの目が輝き出します。ただでさえ魔法の話に加え、先生がディートファーレさんだったら無理はないでしょう。
ディートファーレさんは親指を立て、快諾の意志を示します。
「良いわよ。どうせ見てるだけなのも暇だし」
「いぃぃぃやったぁぁぁ! な、何を? 何を教えてくれるんですか!?」
「ずばり今のマルファには難しいけど、頑張ればなんとか使える魔法よ」
「燃えてきたぁ! 早速お願いしますディートファーレ軍団長!」
「ふっ違うわねマルファ。私のことは『先生』と呼びなさい!」
「はい! 先生!」
マルファさんは気合の入った返事をし、ディートファーレさんと一緒に端の方へ行きました。
残されたのは私とエイリスさんとフレデリックさんだけです。私達は一体、どんな訓練をするのでしょうか……。
「お前たち二人はひたすら基礎訓練だ」
「ボク達にも何か必殺技とか教えてくれる流れだと思っていたよ」
「ここは童話の世界じゃない。……それに、俺が何か技の名前を叫ぶような奴に見えるか?」
何かかっこいい技の名前を叫ぶフレデリックさんの姿を思い浮かべてみます。即、吹き出してしまいました。
笑ってはいけないのですが、どうしても堪えることができませんでした。
「前から思っていたけど、アメリアって肝が据わっているよね。今の光景、フレデリック軍団長の部下が見たら、顔が真っ青になっているところだよ」
「すいません! すいません! 空気も読めないポンコツメイドですいません!」
土下座でもする勢いで、私はフレデリックさんに謝り倒していました。