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第15話 遠慮はしない

 こんにちはアメリアです。最近の私は冒険者のお仕事で大忙しです。

 なんせ冒険者ギルドには数え切れないほどの依頼が張り出されているのです。その中でも私が楽しくやらせてもらっているお仕事がいくつかあります。

 私はとある民家へ足を運んでいました。


「こんにちは。冒険者ギルドの依頼を見て来ましたアメリアと申します」

「おぉおぉ、こんにちは。こんな依頼でも来てくれるなんて、本当に嬉しいねぇ。」


 おばあさんがペコリと一礼してくれました。この方が今日の依頼主です。


「おや、その背負っている荷物はなんだい?」

「これですか? 今日使う道具なので、お気になさらず!」


 早速現場の方を見せてもらいましょう。


「ここだよ。汚くてごめんねぇ」

「わっ、すごい立派な蔵ですね」

「ふふ、ありがとうねぇ。最近歳のせいか、身体が自由に動かなくてね。掃除しなきゃしなきゃとは思っていたんだけど……」


 今日の依頼は至ってシンプルです。依頼主に変わって、私がこの蔵の掃除をするだけです。

 もともと立派な蔵だったので、ボロボロという印象はあまりありませんでした。ですが、やはりお手入れが出来ていないので、汚れや埃が目立ちます。

 これはもうお掃除が楽しみで仕方がありません。


「大事なものはしまってないから、雑に動かしちゃってもいいからね。お願いできるかしら?」

「任せてください! このアメリア、全力でお掃除をさせていただきます!」

「頼もしいわねぇ。それじゃよろしくね」


 依頼主さんが去った後、私は抑えていたニヤニヤ顔を解放しました。


「えへっえへっ。こんなにお掃除のやり甲斐がある場所、久しぶりです」


 いそいそと私は背負っている荷物をおろし、お掃除道具を並べていきます。


「えへへへ。どうやってお掃除しようかなぁ。じっくり丁寧に? それとも綺麗にするまでのタイムでも計ろうかな……? もぉ~楽しすぎますよぉ~!」


 しばらくメイドらしいことが出来ていなかったので、こういう依頼は本当に癒やされます。

 剣と同じく、お掃除もしていないと腕が鈍ってしまいます。だからこうして、私はこうしてメイドスキルが活かせそうな依頼を選んでは、引き受けているのです。

 マルファさんからは「金にならねーけど、良いの?」って言われてしまいましたが……。私はそれでも良いと思いました。メイドの仕事が出来るのなら、お金は二の次なのです。


「よっし。今回はタイムアタックにしましょう」


 私は気持ちを整え、いつもお屋敷でやっていた朝礼を口にします。


「いつも丁寧、素早く、確実に! 今日も一日よろしくお願いします!」


 それに応えてくれる同僚は誰もいません。ですが、こうすることで、私なりのスイッチが入るのです。

 私は掃除道具を手に、蔵へ入りました。



 ◆ ◆ ◆



「まぁ……! すごく綺麗になっているわ」


 あれから二時間。私はひたすら掃除をしました。時には埃を落とし、時には重い物を移動し、時には大胆にホウキを操りました。集中して取り組めたおかげで、思っていたよりも早く片付けることが出来ました。

 依頼主さんも喜んでくれています。その顔を見られただけで、私は達成感で満ち溢れます。


「ありがとう……本当にありがとう。こんなに丁寧にお掃除をしてくれるなんて」

「いえいえ! こちらこそお掃除させてくれてありがとうございました!」


 早速次の依頼でも探しに行こうとした私を、依頼主さんが止めました。


「ちょっと休んでいきませんか? 貴方に食べてもらおうと思って、近くのケーキ屋さんで美味しいケーキを買ったのよ」

「え、良いんですか!? 嬉しいです!」


 甘いものは大好きです! 好きな掃除をさせてもらっただけなのに、こんなに嬉しいことが起きるなんて、思ってもみませんでした。

 早速依頼主さんについていこうとしたら、前からマルファさんが歩いてきました。


「アメリアか? こんなところで何を……って、あぁ、言っていた依頼ってこの辺だったのか」

「そうです。マルファさんはどうしてここに?」

「わたしは魔法関係の本を買いに来たんだよ。この辺の本屋は中々面白い本があるからさ」


 依頼主さんは私とマルファさんを交互に見やり、笑顔を浮かべました。


「おやおや、お友達かい? これからケーキを食べようと思っていたの。貴方もどうかしら?」

「食べます! ご馳走になります!」


 マルファさんは即答でした。強い心を持っているなと思いました。いい意味で遠慮がないというか、私ならきっと遠慮に遠慮を重ねていたことでしょう。

 依頼主さんは気を悪くした様子もなく、笑顔で私達を連れて、家へと向かいます。


 家の中は掃除が行き届いていて、元から綺麗好きな方なのだなと感じました。

 テーブルに座った私達は先にコーヒーを頂きました。ちょっとお高めのコーヒー豆だなと、匂いで察しました。


「これはちょっとずつ楽しみたいですね」

「ぷはー! おばあちゃん、これおいしーね!」


 マルファさんは一口で半分ほど飲みました。ニコニコで待っています。


「いやぁちょうどいい所で出くわしたなぁ。ラッキーラッキー」

「マルファさん……もう少しこう、ためらいというか、遠慮というものは……?」

生憎あいにく、わたしの辞書にそういう文字はないね。いちいち遠慮してたら、大事なところで損しちゃうからな」

「なるほど……?」

「アメリアも遠慮はほどほどにしとけよ。善意はたっぷりの笑顔で受け取るってのがわたし流だ」

「べっ勉強になります」


 持ってきてくれた苺ケーキはとっても美味しかったです。甘酸っぱい苺と舌触りの良いクリームのハーモニーがなんとも言えません。この適度な甘さはフォークが進み、何個でも食べられそうです。

 美味しいケーキとコーヒーは、依頼主さんとの会話を弾ませます。


「そうかいマルファちゃんは魔法が好きなんだね」

「そうなんですよー。誰よりも上手く魔法を使えるように勉強してます」

「立派だねぇ。じゃあきっとあの魔具のことも知っているのかしら?」

「ん? あの魔具って何のことですか?」

「自然の迷宮とされる場所にある、伝説の古魔具のことさ」


 私とマルファさんは顔を見合わせます。同時に、エイリスさんの顔が浮かびました。

 これは絶対に好きそうな話です。エイリスさんのリアクションを想像しながら、私達は話を聞くことにしました。

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