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第14話 ご飯を食べに行こう

 マルファさんは作戦を一つ思いついたようで、私達に指示をくれました。中々難しそうですが、それしかないなら、全力でやるだけです。


「――と、こんな感じだ。しくじる可能性は高いし、その時は全員死ぬ。良いんだな?」

「高いだけだよ。成功する可能性もちゃんとある。成功したら、皆で豪華な食事を楽しむことにしよう」

「良いね。じゃあ、わたしは骨付き肉にするかー」

「私はお給仕したいです!」

「ふふ、さぁ行くとしよう皆! 必ず成功させよう!」


 私とエイリスさんが突撃しました。ヒーヘイズはもちろんカサブレードを握った私に狙いを定めます。

 振り回される炎の槍に対し、エイリスさんは魔力剣で防御します。その隙を突いて、私が飛び出します。狙いはヒーヘイズの胴体です。


「見え見えの策を!」


 ヒーヘイズはエイリスさんを蹴り飛ばし、私に向き直ります。怖いです。けど、ここで逃げるわけにはいきません。


「敵を貫き穿て、いかづちの剣よ!」


 エイリスさんが天高く指を突き出した瞬間、ヒーヘイズの真上から雷が落ちました。流石に効いたようで、一瞬ヒーヘイズが硬直します。


「怯んだ! 捕らえろ拘束魔法!」


 マルファさんが両手をヒーヘイズを向けました。すると、四方向の宙空に魔法陣が出現。魔法陣の中心から魔力の鎖が伸び、ヒーヘイズの四肢を拘束しました。


「今だアメリア!」

「しくじんなよ!」


 二人の声を受け、私は更に前進します。ヒーヘイズはまだ動けていません。

 これが最大のチャンス。私は力いっぱいにカサブレードを振り上げます。


「愚かな人間がぁ!」

「私は皆のために、絶対に勝ちますっ」


 ヒーヘイズが拘束を破ったのと、私がカサブレードを思い切り叩きつけたのは、ほぼ同時でした。


「ぐぉおお! 拙者が、滅びる……! 身体が崩壊していく……!」


 私は地面に座り込んでしまいました。身体の力が抜けてしまい、すぐに立ち上がれません。そんな私をかばうように、エイリスさんとマルファさんが近づいてきてくれました。

 崩れていくヒーヘイズを注意深く見守る私達。頭部と胴体だけになった辺りで、私達は勝ちを確信しました。


「カサブレードの使い手、その仲間よ。名を教えろ」


 私達がそれぞれ名乗ると、ヒーヘイズは忌々しげに言葉を発しました。


「無念。拙者が負けるとは……太陽の魔神よ、申し訳ない」

「貴方達はあとどれくらいいるんですか?」


 ヒーヘイズは私の質問に高笑いで返しました。


「あとどれくらい? 妙なことを聞く奴だ。拙者ら太陽の化身は太陽の魔神から生み出されし存在。創造の意思ある限り、我ら太陽の化身は生まれ続ける」

「なんとなく予想はしていましたが、やはり……」

「カサブレードの使い手よ。拙者はもはや消える。拙者を打ち倒した者へささやかなアドバイスだ」


 もはや頭部だけになったヒーヘイズは最後に、こう言いました。


「この先も生き残りたくば、精進するが良い。不意打ちの勝利で満足しているようではこの先の戦い、死ぬしかあるまいて」


 太陽の化身ヒーヘイズは、フランマと同様にちりとなって消えていってしまいました。

 周囲を覆っていた魔力の壁も消え去り、私達は自由になりました。


「勝った……勝ち、ました」


 私は大きく息を吐きました。相変わらず立ち上がれません。腰が抜けてしまったようです。

 エイリスさん達は無事でしょうか。二人の方を見ると、ボロボロではありますが、命に別状はないことがわかります。


「二人とも、今日は予定通り豪華なご飯、だね。けど、少し……休憩したいな」

「わたしも休憩~。もう動けねー」


 バタリとエイリスさんは倒れます。エイリスさんもだいぶ消耗しているようです。

 ほぼ同時にマルファさんも倒れました。地面に大の字になっています。

 私達は空を見ながら会話を続けます。


「アメリアは前、一人で太陽の化身を倒したんだよね? 君に敬意を表するよ」

「げっ、まじ? アメリア、実は強いんだな」

「全然です……。奇跡が重なって勝てただけです。なんで死んでいなかったのか、今でも不思議ですよ」


 改めて振り返ると、フランマ戦の勝利は本当に奇跡だったなと思いました。

 こんな戦い、一体いつまで続くのでしょうか。カサブレードを放棄したら? どこにいるのかも分からない太陽の魔神を倒したら?

 疲労感によってどんどん嫌な方向へ思考が回ります。


「あの、お二人はこのまま私と一緒で良いんですか? こういう危険な戦いがこれからもあるかもしれません……だから、その」


 つい私はそんなことを聞いてしまいました。今回はたまたま勝てただけ。ですが次にもしかして……そんなことを考えていたら、無意識に問いかけていました。

 二人は即答でした。


「もちろん。ボクは危険を承知で君と一緒にいたいんだ。だから、今さら追い出さないでおくれよ」

「ありがとうございます、エイリスさん」

「わたしもだぞ。今回の戦いで魔法の腕が少し上がったように感じた。これからもこの環境を生き残り続ければ、わたしはすっげー魔法使いになれるはず。だからアメリアが嫌がっても、わたしはついていくからな」

「マルファさんもありがとうございます。私、とっても嬉しいです……!」


 これからもいろんなことが起きるでしょう。ですが、私達ならば大丈夫。そんな気がしてなりません。

 今だけはこの根拠のない自信を持ち続けます。カサブレードのことは相変わらずよく分かりません。太陽の魔神や太陽の化身のことも全然解決していません。

 だけど、きっと何とかなるはずです。


「さっ、そろそろ起きてご飯でも食べに行こうか」

「骨付き肉ー」

「分かってる分かってる。ボクの行きつけの店を紹介しよう。アメリアもそれでいいかな?」

「はいっ。ようやくお給仕が出来るんだぁ……ワクワク」


 さぁ気持ちを切り替えましょう。これからの私は冒険者でもカサブレード使いでもなく、ただのメイドです。

 もうメイドの仕事が出来るだけで顔のニヤニヤが止まりません。

 ワクワクを抑えきれずに、私は勢いよく立ち上がりました。

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