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第12話 第二の太陽の化身、現る

 ギラーボア討伐の依頼二日目です。

 私はまた宙を舞っていました。初日で感覚を掴めたと思っていましたが、あれは幻想だったようです。僅かな滞空時間の後、地面に衝突しました。相変わらず痛いです。


「アメリアー昨日の動きはどうしたんだ~? ほら、立て立て~!」

「アメリア、落ち着いて良く見るんだ。そうすれば跳ね飛ばされることはないよ」

「わかりました……」


 ギラーボアの攻撃は突進のみです。十分に引き付けて、避けて、叩く。これだけのことなのですが、やはり怖くて難しいです。

 このままじゃこれから先、エイリスさんとマルファさんの足を引っ張ることになるかもしれません。それだけは避けたいです。

 ふと私はギラーボアの足元に意識が向きました。


「足……」


 私は一つ思いつきました。カサブレードを構え、再びギラーボアへ向かいます。そして視線は少し下。具体的には足の動きに集中します。

 地面を蹴った。突撃してきました。足の動きに合わせて、私は立ち位置をずらしました。横切るギラーボア。私はその横っ腹へカサブレードを叩きつけました。

 力を込めて振ったおかげか、ギラーボアが吹っ飛びました。今までのお返しが出来て嬉しくなります。そのまま私は倒れているギラーボアへトドメを刺します。


「や、やった……! やった! 今のどうですか!?」

「完璧だよアメリア! このままもう一体イケるかい?」

「やってみます!」


 私の胸は達成感でいっぱいになっていました。大好きな仕事をしているときとはまた違う、刺激的な達成感です。

 その後、私は無傷でギラーボアを倒すことが出来ました。完璧に感覚を掴めた気がします。

 戦いにルールや手順はありません。だから同じやり方でやる必要はないんです。駄目だったら、次のやり方を試せば良いだけなのです。こんな簡単なことにどうして気づかなかったのでしょう。やはり私はポンコツメイドです……。


「ひゅーやるじゃん。このわたしがよしよししてやろう。ほ~れよしよし~」

「マルファさん、すっごい嬉しいのですが、髪が乱れてしまいます……」


 マルファさんのよしよしは非常に気持ちが良かったです。出来ればずっと撫でてもらいたいような、ある種のリラクゼーション効果を発揮していました。


「おめでとうアメリア。どうやら完全に掴んだようだね」

「はい。動き方が分かったような気がしますっ」

「素晴らしいよ。じゃあ今度は違う魔物と戦う依頼を受けてみようか。ちょっとずつレベルを上げていけば、アメリアはどんどん強くなれるはずだ。頑張っていこう」

「なんだかやる気が湧いてきました! 戦いの経験もきっとメイド業務の役に立つことがあるはず。全力でこなしてみせます!」


 今回のギラーボア討伐依頼は私にとって、大きな糧になりました。ちょっぴりですが、カサブレードを使った戦いにも慣れることが出来ました。せめて一人で悪者を追い払えるくらいには強くなれるよう、これからも修行あるのみです。

 私達は笑顔で村へ帰ります――そのはずでした。



 直後、私達の前に魔力で出来た壁が現れました。



 マルファさんがすぐにこの魔法に関する知識を引っ張り出してくれました。


「これってまさか結界魔法……? エイリス、アメリア、気をつけろ! なんだかヤバそうだ!」


 私達の前方の空間が歪みました。もやもやとした感じは、まるで陽炎かげろうを連想させます。

 その空間から異形の存在が現れました。気のせいかもしれませんが、カサブレードが震えているような気がします。

 この感覚は前にも味わいました。太陽の化身、フランマと全く同じ感覚です。



「日輪に照らされ、降臨せし。拙者の名はヒーヘイズ。カサブレードの破壊を命じられた太陽の化身なり」



 アジサイの花に似せたような頭部、逆三角形の肉体、背後にはお日様のような紋章が浮かんでいます。


「アメリア、あれが君の言っていた太陽の化身かい?」


 エイリスさんには事情を説明していたので、すぐに察してくれたようです。

 ですが、何も知らないマルファさんは驚きを隠せていません。


「な、なんだよアレ。アメリア、エイリス、アレのこと知ってんの!?」

「はい、カサブレードを狙ってくる方たちです」

「なるほど、見た目も言動もヤバいだけあるな」

「……すいません、もっと早くに言っておくべきでした」

「や、大丈夫っしょ。わたしだって冒険者だ。最初はビビったけど、もう平気になってきた」


 冒険者ってすごい! 私もマルファさんみたいにすぐに気持ちを切り替えられる人になりたいです。


「カサブレードの使い手よ。大人しくカサブレードを渡すが良い。拙者は無駄な時間を過ごしたくない。速やかに渡すのであれば、見逃してやらないでもない」


 次の瞬間、ヒーヘイズの頭部に氷の塊がぶつかっていました。攻撃の主はなんとマルファさんです。



「ヒーヘイズって言ったか? アメリアからのメッセージを伝えてやるよ。『グダグダ言っている暇あんなら、掛かってこい』だとさ。なぁアメリア、そうだろう!?」



「私ぃ! 一言もぉ! そんなことをぉ! 言ってませぇーん!!」


 思わずマルファさんの後頭部をカサブレードで殴りそうになりました。なんで初見のマルファさんがそんなに好戦的なのですか!? 普通、恐怖のあまり動けなくなるんじゃないんですか!?

 エイリスさんならきっと止めてくれるはず。期待を込めて、エイリスさんの方を向きました。



「ヒーヘイズ! カサブレードは人類にもたらされた至高の古魔具だ! それを貴様のような奴に渡すわけにはいかない! カサブレードを破壊したければ、まずはボクたちを倒すことだな! そうだよね、アメリア!?」



「エイリスさんの馬鹿ぁ!」


 この古魔具オタクさん! なんで貴方もマルファさん側なんですか!? なんで三人中二人が既に覚悟決まっているんですか!?

 冒険者ってみんなこうなのでしょうか。私もいつか、こんな感じになるのでしょうか。


「なるほど拙者の理解が不足していたようだ」


 ヒーヘイズは両手を広げました。

 それに対して、構えるエイリスさんとマルファさん。遅れて私もカサブレードを構えます。


「お前たちを滅殺し、カサブレードを破壊するとしよう」

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