ギラーボアとの死闘を終えた私達は、村に一つしかない宿に来ていました。
村からの依頼ではあと二頭倒せば良さそうなので、明日に回し、体力の回復に努めます。
「おー意外と綺麗だなぁ」
マルファさんが感動している横で、私は
お部屋、そしてメイドである私。そうなれば、やることは一つです。
「アメリア、何をするつもりだい?」
「掃除です!」
もう身体がうずいて仕方がありません。部屋を見ると、掃除欲が湧き上がり、戦闘の疲れなんて吹き飛んでしまいました。
屋敷がなくなってからずっと掃除をしていなかった私は、掃除に飢えていました。しっかりお手入れされているとはいえ、屋敷基準なら……。そう思っていたら、いつの間にか私の両手には掃除用具がありました。
「るんるん~」
わがままを言えば、もっと広いお部屋を掃除したかったのですが、今はこれで十分です。神様、私にお掃除をさせてくれてありがとうございます。
「アメリアももの好きだよなー。なんでわざわざ掃除するのかわかんねー」
「ふむ……」
「ん、どうしたエイリス?」
「いや、ちょっとね。驚いていたんだ」
何やら話し声がしていましたが、お掃除に夢中だった私は、一切聞こえていませんでした。
「驚いていたって、アメリアにか?」
「そうだ。彼女の手際が凄まじく良くてね」
「へぇアメリアってすげーんだな」
「すごいというものではないよ。アメリアの技術は王城勤めのメイドに匹敵……いや、もしかしたらその上をいっているのかもしれない」
褒め言葉のような何かが聞こえてきたような。いや、気のせいですね。
ベッドメイキングに入っていた私は完全に自分の世界に入っていたので、エイリスさんとマルファさんが何か話しているな~程度の認識でした。
まさか本当に褒められているとは、夢にも思っていませんでした。
「つか、なんでエイリスがそんなこと分かるんだ? 昔メイドでもやってたのか?」
「……そういうわけではないが、目にする機会はあったからね。それで覚えていたというわけさ」
さぁ部屋の点検を行いましょう。掃除のし忘れがないか指差し確認をします。よし、よし、よし。オーケー、気になるところは全部掃除できた。お掃除終了です。
「ふぅ……今日一日の疲れが取れました」
掃除前と後では部屋の輝きがまるで違います。やはり美しい部屋は心を穏やかにします。そういう仕事が出来たとき、私は報われた気持ちになるんです。
「や、ほんと綺麗だな。埃ひとつねーや」
「お見事だよアメリア。そしてご苦労さま。待ってて、ボクがコーヒーを淹れてあげるよ」
「あっ、私も飲みたいー」
「マルファ、君は自分でやるんだ」
「不平等だー」
そうは言いつつも、エイリスさんはちゃんと全員分のコーヒーを用意してくれたのでした。
小さなテーブルを囲み、私達は座りました。
「美味しい……」
「うめー! これ、どうやって淹れたんだ!?」
「ふふ、コーヒーには少しうるさくてね。こだわりの淹れ方で淹れたのさ」
エイリスさんのコーヒーはすごく美味しかったです。使ったのは備え付けのコーヒーセットのみで、高級な豆なんてありません。
真に強い騎士は使う武器を選ばないと言われていますが、それはコーヒーにも言えることなのですね。
「さて、と。アメリア、今日一日ギラーボアと戦ってもらったけど、どうだった?」
「なんで死んでいないのか分かりませんでした」
「アメリアめちゃくちゃぶっとばされてたもんな! あれはクヒヒ……面白かったなアハハ!」
「マルファさんひどいですよ~!」
マルファさん、少し笑いすぎじゃないでしょうか!? 私だってどうせ戦うなら、華麗に勝ちたかったですよ!
やれたのはカサブレードでひたすら叩くことだけでした。
「けどまぁ途中から動き良くなってきたよな。なんというか、落ち着けるようになってきたっていうかさ」
人の動きを笑いながらも、ちゃんと褒めてくれるから、私はマルファさんが好きです。
エイリスさんもマルファさんの話に頷いていました。
「マルファの言うとおりだね。回避と同時に攻撃が出来るようになったのはすごいことだよ。カサブレードの力もあるんだろうけど、それをやったのは間違いなくアメリアだ。自信を持って良いと思う」
「エイリスさん、マルファさん、ありがとうございます!」
「じゃ、明日もギラーボア討伐頼むな~」
「任せてください! 今日でなんとなくコツを掴むことができました。明日も一人で倒してみせましょう!」
ギラーボアとの戦い方が分かってきたので、明日はもっと楽に倒せるはずです。カサブレードの力頼みではありますが、なんとかこなしてみせます。
私達はその後、雑談に花を咲かせた後、眠りにつきました。
「う~ん……」
夢を見ていました。
私は白い空間にぽつんと立っています。エイリスさんやマルファさんの名前を呼びましたが、誰からも返事がありません。歩こうとしても身体は動きません。どうしたものかと困っていると、目の前に光の球が現れました。
光球が僅かに揺れます。すると、なんとなく私の脳裏に声が響いてくるのです。
『カサブレード、我に傷をつけた憎き聖剣よ。今度こそ完全に消滅させてやる。覚悟せよ』
「貴方は誰ですか?」と私は問いかけました。光球はまた僅かに揺れ、言葉を発します。
『我は太陽。偉大なる生命の象徴。絶対的存在。そう、我こそは全世界を照らす太陽の魔神なり』
光球がまばゆい光を放ちました。私は抵抗する間もなく、その光に飲み込まれてしまいました。意識を手放す寸前、太陽の魔神と名乗る光球は言いました。
『カサブレードの使い手よ。我は常に貴様を見ているぞ。カサブレードもろとも消滅するその日までな』
そこで私はパッチリと目を開きました。
「はぁ……! はぁ……!」
時計を見ると、まだ深夜でした。気づけば服が汗でびしょびしょになっていました。まるでずっと炎天下の中で立っていたような汗の量でした。
今の夢を思い出そうとしてみますが、モヤがかかったようになっていて、思い出せません。唯一思い出せる単語は太陽。
太陽の化身、フランマと何か関係があるのでしょうか。記憶が曖昧な今の私では、正解にたどり着くことが出来ません。
「……喉が乾いてしまいました。お水でも飲みましょうかね」
あのままあの夢を見ていたら、どうなっていたのか。汗で身体が冷えたのか、私は身震いを一つしました。