目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第10話 初の魔物戦

 私は草原を駆けていました。今日は天気もよくピクニック日和です。お弁当でも作って、のんびりしたいなぁと思いました。


「ひゃあああ!」


 ただし、後ろから大きなイノシシ型の魔物ギラーボアがついてきていなければ、ですが。


「エイリスさん、マルファさん! 助けてください!」

「アメリア、助けたい気持ちでいっぱいだが、ボクは心を鬼にさせてもらうよ。カサブレードでギラーボアを倒すんだ!」

「頑張れアメリア~。わたしはあんたを応援しているぞ~」


 駄目です。二人は一切助けてくれる気はないようです。ですが、いつまでも二人からの支援を期待するわけにはいきません。

 エイリスさんが言ったように、これはカサブレードに慣れるための依頼なのですから。


 ギラーボアは庶民の食料にもなっているメジャーな魔物です。戦闘能力もそこまで高くなく、駆け出しの冒険者が腕試しをするために戦いを挑むことも多々あるようです。

 そこで今回は、私だけでギラーボアを倒してみることになりました。確かにカサブレードは一刻も早く放棄したいです。ですが、その前に殺されてしまっては元も子もありません。なので、最低限カサブレードを振り回せるくらいまでは戦闘経験を積んだほうが良い。

 そう三人で決めたのです。


 とはいえ怖いものは怖い! 少し前までただのメイドだったのですよ!? すぐに戦えるようになるわけないじゃないですか!

 いつまでも逃げていられないので、私は立ち止まり、ギラーボアの方へ向き直りました。


 ギラーボアの咆哮。腰が抜けそうになりました。


「アメリア! 敵をよく見て、そしてカサブレードを振るんだ!」


 エイリスさんのアドバイス通りに動いてみます。

 まずは向かってくるギラーボアを見据え、そして何となくカサブレードを上段に構えます。スイカ割りをするような格好です。大きく深呼吸をして、精神を集中させます。


「えい!」


 土煙をあげて走ってくるギラーボア。私はカサブレードを一気に振り下ろしました。



 次の瞬間、私は宙を舞っていました。



 振り下ろしと同時に、跳ね飛ばされてしまったのです。あぁ、空が青いです。風が心地良いです。落下感が気持ち悪いです。そして、背中から地面にぶつかりました。


「おいおいアメリア、大丈夫か~?」


 マルファさんが駆け寄ってくれました。カサブレードを握っていると、なんだか身体に力が湧いてくるので、痛みはそれほど感じませんでしたが、それでも怖かったです。

 マルファさんは私の顔を見――てはくれずに、カサブレードを観察していました。


「流石カサブレードだな。握っただけで身体強化の魔法や自己治癒能力向上の魔法が自動で発動するなんて、やっぱとんでもないわ」

「そうだろうそうだろう? 流石はボクのカサブレード!」

「わたしの、だけどな?」

「一応まだ私のです。というかあの、心配してほしいのですが……」


 エイリスさんとマルファさんに察しろ、ということは難しそうなので、直接言葉にしてみました。

 戦闘の素人があそこまで綺麗に跳ね飛ばされたことについて、何か心配の言葉があってもいいのではないでしょうか。危うく死ぬところだったのですが?


「心配すんなってアメリア。この程度じゃ死なない。さぁもっかいゴー!」

「アメリア、ボクの心はいつも君を思いやっているよ」

「少しでも期待した私がお馬鹿さんでした! うわーん!」


 私は半泣きで再度、ギラーボアへ向かっていきました。そして、また私はお空の散歩を楽しんだのです。


「ぐぇっ!」


 心なしか、ギラーボアが笑っているように見えました。

 『どうした、この程度か? このポンコツメイドが』と言いたげです。

 完全に被害妄想ですが、追い詰められていた私には、そう思えたのです。


 それで逆に闘志が湧いた私は、カサブレードをしっかりと両手で握りしめ、再び向かっていきます。

 あれだけ跳ね飛ばされたので、少しはこの魔物のことが分かってきました。


 まずは相手の突進をしっかり見る。右か、左か、どちらの方がスムーズに避けられるかを判断します。よし、右に避けましょう。

 そしてギラーボアの突進にタイミングを合わせ、右へ飛び込みます。同時に、カサブレードでギラーボアの横っ腹を叩きます。すると、ギラーボアの動きが鈍くなりました。


「アメリア、イケるよ! 追撃!」

「はい、エイリスさん!」


 追いかけ、カサブレードでひたすらギラーボアを叩きます。すると、ようやくギラーボアが倒れてくれました。しばらく様子を見て、ツンツンとつついても、ギラーボアは起き上がりません。

 勝利です! 私はこの凶悪な魔物との死闘を乗り越えたのです!


「勝ったぁ! エイリスさん、マルファさん、私勝ちましたよぉ!」


 嬉しいです。ポンコツメイドであるこの私が、あろうことに魔物を打ち倒すことができました。人間、死ぬ気でやれば何でも出来るという言葉があります。

 まさにその通りでした。私は今、一皮むけたのです。


「おーおめでとうアメリア。正直、もうちょっと掛かると思ったぞ」

「えっへん。マルファさん、私を存分に褒めてください」


 すると、マルファさんは目を逸らしました。その表情は悲しそうというか、何か負い目を感じているような、そんな表情でした。


「そうだな。あと三頭・・・・倒せば、な」

「エッ、アトサントウイルノデスカ?」


 私は目の前が真っ暗になりそうでした。あれだけ苦労していたギラーボアをあと三頭? そんなわけが無いと、私は辺りを見回します。いました。三頭仲良く集まっていました。家族でしょうかね?


「…………」

「アメリア? ここからはボクたちも加勢するから、大丈夫――」

「メイド魂ぃー!」


 私はほぼヤケクソでギラーボアの家族へ突貫します。エイリスさんが何か言ってくれたようですが、今の私はメイド魂が燃え上がっているので、何も聞こえていません。

 その後、当然のように宙を舞うことになりました。それも三連続で。宙を舞いすぎて、吐きそうです。


「うおおいアメリア! 行くぞエイリス! アメリアが本格的にヤバそうだ!」


 流石のエイリスさんとマルファさんも途中から援護に入ってくれました。

 おかげさまで、スムーズにギラーボア一家をやっつけることが出来たのです。


「私、まだ死んでいませんよね?」


 戦いが終わったあとの草原には、ボロボロになった私が倒れていました。二人は大丈夫そうです。良かったは良かったのですが、今は自分の身体の痛みが気になります。

 ……死ぬのなら戦いじゃなくて、メイド業務で死にたいなぁ。エイリスさんとマルファさんに引きずられながら、私はそう思いました。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?