徐々に冒険者ギルド内にいる方々からの視線が鋭くなってきました。その視線に気づいた私は、二人を連れ、一度冒険者ギルドを後にしました。 あれ以上、いたら何を言われるか分かったものではありません。最悪、出禁を言い渡されていた可能性も……。冒険者になったばかりなのに、仕事が出来ないなんて笑い話にもなりません。
「アメリア、そろそろ離してくれないかな?」
「おーいアメリアー腕痛いぞー」
「あ、すいません。ついつい夢中になってしまって……。ずっと引きずっていたのですね」
気づけば路地裏にいました。ここならば多少騒がしくしてもいいし、人の目も気にすることはないですね。
マルファさんは自分の腕を擦りながら、こう言いました。
「というかアメリア、見た目ひ弱そうなのに力すごいんだな」
「あはは……メイドは体力勝負ですからね。自然と腕力もついたのでしょう」
「へぇ、メイドをやっているとそんな副次効果があるんだね」
「効果とか、そんな大層なものじゃありませんよ。重い物を持ったり、運んだりしていただけですので」
マルファさんとエイリスさんに褒められてしまいました。とっても嬉しくて、体が熱くなります。顔全体が紅くなっていると思うのですが、バレていませんでしょうか!?
メイドは体力勝負。これは本当です。掃除をしているとき、気になる場所があるとどんな物だろうが、必ずどかして掃除をするのです。この腕力はきっと、そういうことをしていたから身についたのでしょう。誰でもこうなるはずです。
へぇと頷いて話を聞いていたマルファさんはこんなことを聞きます。
「そういや今更だけど、なんでアメリアは冒険者になったんだ? メイドさんならメイドさんの仕事をやってれば良いんじゃねーの?」
とうとうこの話が来ましたか。私とエイリスさんは顔を見合わせました。そして、同時に頷きます。
私はそもそも冒険者になった話をするために必要なカサブレードを出現させました。少し慣れてきたようで、スムーズに出すことが出来ました。
「原因はコレです」
「何だこれ? 傘? え? 傘だとォ!? おいおいおいこれってもしかして……!?」
流石マルファさんです。まだ何も言っていないのに、カサブレードまで辿り着いたようです。
私はエイリスさんにした話をマルファさんにもしました。マルファさんは信じられないといった表情でしたが、それでも一応は話を飲み込んでくれたようです。
「ありえねー……いや、でもこうやってカサブレードがあるんなら本当、なんだよな」
「私の人生はカサブレードのせいでめちゃくちゃです。だからカサブレードの情報を集めるために、エイリスさんと一緒の冒険者になったんです」
相変わらず自分で言っていて、馬鹿げた話だと思っています。ですが、これが現実なのです。
「どうだいマルファ、この旅には危険が伴う。もし恐れたのなら、パーティーから抜けても――」
「こんな面白そーな話、抜けるわけないじゃん!」
まるでショーケースに飾られた高級品を見るように、マルファさんは私のカサブレードを見つめます。
「これがカサブレード……まさか生きている内にホンモノを見られるなんて。すっげーなぁ」
するとマルファさんは目を輝かせます。
「な、アメリア! カサブレードの所有権を放棄したら、わたしがカサブレードをもらってやるよ!」
「諦めてくれマルファ。既にボクが先約済みなのさ」
「あーそうやって独り占めしようとするなんて、イケないんだぁ」
「独り占めじゃない。誰にも悪用されないよう、厳重に管理するのが目的だからね」
「それを独り占めって言うんじゃないんですかぁ~?」
「ちーがーうーね。ボクには大義があるんだよ。少なくとも、君のように下心むんむんではない」
「あのーエイリスさん、マルファさん、落ち着いてください」
私を間に挟み、エイリスさんとマルファさんがまた喧嘩を始めてしまいました。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるようですが、その言葉を引用するなら、すっかり仲良しさんだよなぁと思います。二人から怒られてしまいそうなので、それを口にすることはありませんが。
言い争って数分。ようやく疲れてくれたのか、エイリスさんとマルファさんはほぼ同時に口を閉ざしました。
「ふ、ふん。今回は見逃してやるよエイリス」
「こっちの台詞だよマルファ。ボクはまだまだやれたけどね」
「あん?」
「何だい?」
「はいストップ! ストップですよ二人ともー! ぴぴーっ!」
私は両手をブンブンと振り、強引に話を中断させました。これ以上は泥沼の戦いになるのが見え見えでした。
「はぁー。なんだかもう良くなってきた。なぁアメリア、さっそく初依頼こなそうぜ」
マルファさんは懐から一枚の紙を取り出しました。冒険者ギルドの掲示板に張り出されている依頼の一つでした。
「『ギラーボア討伐依頼』……って、魔物と戦うんですか!?」
「イケるだろ。ギラーボアなんてそのへんにいる魔物なんだし。しかも今回の依頼主、王都に麦を出している村からだから、たぶん割の良いお小遣い稼ぎになるぜ。うひひ」
「戦闘経験のないアメリアにいきなり魔物討伐は無茶な気がするよ」
「そこをカバーすんのがわたしとエイリスなんじゃねーの? 戦闘経験は待ってても増えるもんじゃない、自分から増やしにいくもんだと思うし」
私はマルファさんの言葉に同意しました。メイドの仕事もそうです。待ってても経験値は増えません。やってみて、失敗して、振り返って、そこから何かを掴み取るものだと思っています。
「やります」
「良いのかい、アメリア?」
「はい、何事も経験なので。それに、またカサブレードを狙う人と戦うかもしれないので、少しでも戦いの雰囲気を感じ取っておきたいんです」
「意志は固そうだね。分かった、ボクとマルファが全力でサポートしよう。ただし、無茶はしないこと。これだけは守ってくれるかな?」
「はい、わかりました!」
こうしてこのパーティーの初依頼が始まろうとしています。
ですが、その時の私は知りませんでした。またカサブレードを狙う存在がやってくるなんて……。