マルファさんはまず両手を開きました。右手の方に石ころがあります。マルファさんはそれを私に見えないようにシャッフルし、閉じた両手を見せます。
「さ、どっちでしょ」
どっちでしょ、と言われても。考えても仕方がないので、私は右手を指差しました。マルファさんが両手を開きます。
「おー当たりですね! すごいすごい」
正解でした。そしてマルファさんは約束通り、お金をくれました。お小遣いくらいの額だったので、そこまで心が傷まなかったのが、救いです。
「じゃ、もっかいやりましょ」
「ん?」
日頃から相手がしてほしいことを理解するため、表情を観察していた私は引っかかりを覚えました。今、マルファさん、悪い笑顔をしたような気がします。
「やりますよ!」
「ひゃい!」
とは言え、私はそこで口を出す勇気がなかったので、有無を言わさず第ニラウンドが始まりました。先ほどと同じ動作をして、私に両手を見せます。
今度は左を選びました。
「ハズレですね! じゃ、さっきのお金は返してもらいましょっか」
私は何も言わず返しました。これでプラスマイナスゼロ。もともと連続で当てられると思っていなかったので、特に悔しくありませんでした。
終わるにはちょうどいいと思い、後にしようとしたらマルファさんは再びゲームを始めようとします。
「さ、次次」
「あ、あのマルファさん。私そろそろ」
「えーあと一回くらい良いじゃないですかー! あと一回やれば白黒ついていい塩梅じゃないですか」
「えぇ……じゃ、じゃああと一回だけ」
この時点で、私は逃げるべきでした。まさかここから、何度も何度もゲームが続くとは思わなかったのです。
「またまたハズレですね。じゃ、お金もらいますね」
十五回連続ハズレ。ここで私はおかしいと思いました。いくら運が悪いとはいえ、これほど単純なゲームでここまでハズレを引くものなのでしょうか。
マルファさんの話術でずるずるとゲームをしていましたが、もう限界です。
「マルファさん、私本当にこれ以上は……。手持ちも無くなりますし」
「えーまだまだですよ! もっとやりましょうよ~! はい、石ころはどっち!」
「ひぃ!」
すると、エイリスさんが間に割って入ってきました。
「はい、そこまで。両手を開いてもらおうか」
その言葉にマルファさんの額に汗が滲むのが見えました。
「じゃ、じゃあ今開くんで手を離してもらえないでしょうか」
「今、この場で、だよ。どうしたの? 開けないの?」
「そっそーいうわけじゃあ……」
「あぁ、そういうことか。アメリア、警備兵を呼んできてもらえないかな? 彼らが一緒じゃなきゃ、開く気が起きないようだ」
「ごめんなさいー! 開きます! 開きますからぁ! 警備兵だけは勘弁してくださぁい!」
半泣きのマルファが両手を開くと、なんと何もありませんでした。最初に見た石ころはいったいどこにいったのでしょうか。
私の頭の中を覗いたように、エイリスさんが答えを言ってくれます。
「アメリア、君は騙されていたんだよ」
「騙されて……私がですか!?」
「そういうこと。マルファ、と言ったかな? 君がゲームに使っていた石ころは、石生成魔法で作り上げたもの。そうだろう?」
「……ハイ、ソノトーリデス」
タネはこうです。
最初のゲームは指定された手の方に、石ころを作り、必ず正解
あ、あまりにも単純すぎて気づきませんでした。エイリスさんがいなかったことを考えたら、ゾッとします。
「じゃあマルファ、お金は返してもらおうか」
「それは出来ませんねぇ。なんせ同意したゲームでもらったものなんですから」
「警備兵」
「しっかりお返しします」
マルファさんは土下座とともにお金を返してくれました。こうやって返してもらったお金を見ると、相当な金額を取られていたのだなとゾッとしました。
「ありがとうございますエイリスさん」
「お礼なんて良いよ。けど、こういう不審者に対してはきっぱり断って、相手にしないほうが良いよ」
すると、マルファさんは唐突に立ち上がり、不満を顔に出しました。
「ちょっとちょっと! それは聞き捨てなりませんね。確かにこのトロ……ぼんやりした子からお小遣い稼ぎをしようとしましたよ」
「今、私のことをトロいと言いかけませんでしたか?」
「メイドさん待ってください! わたしの話を最後まで聞いて!」
「わ、怒られました。お金取られてトロいと言われたのに怒られてしまいました」
理不尽にも程があると思います。ここまでの態度を取られると、怒りを通り越して、むしろ清々しい感情になりました。
隣のエイリスさんはマルファさんの出方を伺うために、無言になっています。
「見たところ、帽子のあなたは冒険者で、そこのメイドさんはこれから冒険者になろうとしている。違いますか?」
「……まぁ、そうだね。それがどうしたのかな? あぁ、それとあんまり見苦しい姿を見せるようなら、警備兵を呼ぶからね」
「さっきのお詫びではありませんが、私もお手伝いしてさしあげましょう!」
「そうか、ありがとう! お断りするよ! さぁアメリア、警備兵を呼びに行こうか」
「待って待って待って! 早まらないでぇ!」
笑顔で去ろうとするエイリスさん。エイリスさんの服の裾を掴み、半泣きになって制止するマルファさん。見る人が見れば、痴情のもつれかな? と思われるかもしれません。実際は警備兵に突き出されるかどうかの瀬戸際ですが。
マルファさんは私の方を見ました。その表情は必死でした。
「メイドさん、お名前は!?」
「アメリアです」
「アメリアー! ごめんなさいー! 助けてー! 少しでもわたしのことをかわいそうと思うなら、助けてくださいー!」
マルファさんは腹の底から叫んでいました。