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第7話 マルファの命乞い

 マルファさんはまず両手を開きました。右手の方に石ころがあります。マルファさんはそれを私に見えないようにシャッフルし、閉じた両手を見せます。


「さ、どっちでしょ」


 どっちでしょ、と言われても。考えても仕方がないので、私は右手を指差しました。マルファさんが両手を開きます。


「おー当たりですね! すごいすごい」


 正解でした。そしてマルファさんは約束通り、お金をくれました。お小遣いくらいの額だったので、そこまで心が傷まなかったのが、救いです。


「じゃ、もっかいやりましょ」

「ん?」


 日頃から相手がしてほしいことを理解するため、表情を観察していた私は引っかかりを覚えました。今、マルファさん、悪い笑顔をしたような気がします。


「やりますよ!」

「ひゃい!」


 とは言え、私はそこで口を出す勇気がなかったので、有無を言わさず第ニラウンドが始まりました。先ほどと同じ動作をして、私に両手を見せます。

 今度は左を選びました。


「ハズレですね! じゃ、さっきのお金は返してもらいましょっか」


 私は何も言わず返しました。これでプラスマイナスゼロ。もともと連続で当てられると思っていなかったので、特に悔しくありませんでした。

 終わるにはちょうどいいと思い、後にしようとしたらマルファさんは再びゲームを始めようとします。


「さ、次次」

「あ、あのマルファさん。私そろそろ」

「えーあと一回くらい良いじゃないですかー! あと一回やれば白黒ついていい塩梅じゃないですか」

「えぇ……じゃ、じゃああと一回だけ」


 この時点で、私は逃げるべきでした。まさかここから、何度も何度もゲームが続くとは思わなかったのです。


「またまたハズレですね。じゃ、お金もらいますね」


 十五回連続ハズレ。ここで私はおかしいと思いました。いくら運が悪いとはいえ、これほど単純なゲームでここまでハズレを引くものなのでしょうか。

 マルファさんの話術でずるずるとゲームをしていましたが、もう限界です。


「マルファさん、私本当にこれ以上は……。手持ちも無くなりますし」

「えーまだまだですよ! もっとやりましょうよ~! はい、石ころはどっち!」

「ひぃ!」


 すると、エイリスさんが間に割って入ってきました。


「はい、そこまで。両手を開いてもらおうか」


 その言葉にマルファさんの額に汗が滲むのが見えました。


「じゃ、じゃあ今開くんで手を離してもらえないでしょうか」

「今、この場で、だよ。どうしたの? 開けないの?」

「そっそーいうわけじゃあ……」

「あぁ、そういうことか。アメリア、警備兵を呼んできてもらえないかな? 彼らが一緒じゃなきゃ、開く気が起きないようだ」

「ごめんなさいー! 開きます! 開きますからぁ! 警備兵だけは勘弁してくださぁい!」


 半泣きのマルファが両手を開くと、なんと何もありませんでした。最初に見た石ころはいったいどこにいったのでしょうか。

 私の頭の中を覗いたように、エイリスさんが答えを言ってくれます。


「アメリア、君は騙されていたんだよ」

「騙されて……私がですか!?」

「そういうこと。マルファ、と言ったかな? 君がゲームに使っていた石ころは、石生成魔法で作り上げたもの。そうだろう?」

「……ハイ、ソノトーリデス」


 タネはこうです。

 最初のゲームは指定された手の方に、石ころを作り、必ず正解させる・・・。そこで気を良くした相手に第ニラウンドを持ちかけ、そこからは何もない両手・・・・・・を選ばせ続けて、罰金を荒稼ぎするというのがタネのようです。

 あ、あまりにも単純すぎて気づきませんでした。エイリスさんがいなかったことを考えたら、ゾッとします。


「じゃあマルファ、お金は返してもらおうか」

「それは出来ませんねぇ。なんせ同意したゲームでもらったものなんですから」

「警備兵」

「しっかりお返しします」


 マルファさんは土下座とともにお金を返してくれました。こうやって返してもらったお金を見ると、相当な金額を取られていたのだなとゾッとしました。


「ありがとうございますエイリスさん」

「お礼なんて良いよ。けど、こういう不審者に対してはきっぱり断って、相手にしないほうが良いよ」


 すると、マルファさんは唐突に立ち上がり、不満を顔に出しました。


「ちょっとちょっと! それは聞き捨てなりませんね。確かにこのトロ……ぼんやりした子からお小遣い稼ぎをしようとしましたよ」

「今、私のことをトロいと言いかけませんでしたか?」

「メイドさん待ってください! わたしの話を最後まで聞いて!」

「わ、怒られました。お金取られてトロいと言われたのに怒られてしまいました」


 理不尽にも程があると思います。ここまでの態度を取られると、怒りを通り越して、むしろ清々しい感情になりました。

 隣のエイリスさんはマルファさんの出方を伺うために、無言になっています。


「見たところ、帽子のあなたは冒険者で、そこのメイドさんはこれから冒険者になろうとしている。違いますか?」

「……まぁ、そうだね。それがどうしたのかな? あぁ、それとあんまり見苦しい姿を見せるようなら、警備兵を呼ぶからね」

「さっきのお詫びではありませんが、私もお手伝いしてさしあげましょう!」

「そうか、ありがとう! お断りするよ! さぁアメリア、警備兵を呼びに行こうか」

「待って待って待って! 早まらないでぇ!」


 笑顔で去ろうとするエイリスさん。エイリスさんの服の裾を掴み、半泣きになって制止するマルファさん。見る人が見れば、痴情のもつれかな? と思われるかもしれません。実際は警備兵に突き出されるかどうかの瀬戸際ですが。

 マルファさんは私の方を見ました。その表情は必死でした。


「メイドさん、お名前は!?」

「アメリアです」

「アメリアー! ごめんなさいー! 助けてー! 少しでもわたしのことをかわいそうと思うなら、助けてくださいー!」


 マルファさんは腹の底から叫んでいました。

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