とうとうたどり着きました王都! ここから私の旅が始まるのです!
……そのはずでした。私は今、エイリスさんを引きずり、道を歩いています。
「あの、アメリア? ボクはいつまで引きずられるのだろうか?」
「魔具が無いところまでです!」
「ボクは何か君を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか」
「では発表します」
私は立ち止まり、エイリスさんを離しました。驚くことに、エイリスさんは本当に訳が分からないみたいです。
懇切丁寧に説明するため、先程の魔具商店であった出来事を振り返ります。
「一歩譲って値引き交渉は良いと思います。ですが、断られたからといって、暴れるのは無しだと思います!」
それは凄まじかったです。エイリスさんの言う通り、本当に珍しい魔具が置いてありました。ですが、少々高かったのでしょうね。
エイリスさんが値引き交渉を始めました。何度かやり取りをし、結局は駄目。そこで引いておけばよかったのです。
ですが、交渉終わり際の店主様の言い方が少し鼻につきました。それを受けたエイリスさんも少々キツイ言い方で返したのです。
そこからほぼ同時に掴みかかり、あと一歩のところで本格的に殴る蹴るの戦いが始まろうとしました。
警備兵を呼ばれたら色々と面倒なことが起きると確信した私は、エイリスさんの襟を掴み、強引に店を後にしました。
「だって、あの言い方はないだろう! 『物乞いするにしても言い方を考えような』だぞ。こちらも相応に煽り返すのが礼儀というものだろう!」
「それで喧嘩になったら駄目なんですってば! エイリスさんは本当に魔具が好きなんですね。情熱を燃やすのは古魔具だけだと思っていました」
「もちろん専門は古魔具さ。でも、今の魔具だってボクは好きなんだ。ボクは過去現在問わず、職人たちの技術、美学、製作理念を感じ取るのが好きなんだ」
そうやって好きなことに対して、目をキラキラさせることが出来るのはとても良いなと思います。私だって掃除、料理、整理整頓、そういうことが好きなので、気持ちはわかります。
で、す、が、今回は少しやりすぎです。
「エイリスさん。魔具が好きな気持ちはよくわかりました。ですが、そういうエイリスさんの行動で魔具に嫌な偏見を持つ方が出てくるかもしれません」
「魔具に対して、だって?」
「そうです。魔具が好きな方は見ていて不愉快な方なんだな、と思われてはいけません。魔具が好きな方は見ていて楽しそうな方なんだな、と思われましょう」
そこで私は我に返りました。私はなんということをしてしまったのでしょう。偉そうに説教してしまいました。あぁ、エイリスさんを怒らせてしまいました。
恐る恐るエイリスさんを見ると、ぽかんとしていました。
「あ、あのエイリスさん……その、先程は」
「君は素晴らしい!」
「ひゃっ」
エイリスさんが勢いよく立ち上がりました。そして私の手を握りしめます。
「言われてみてハッとしたよ。君の言うとおりだ。ボクはなんて基本的なことを忘れていたのだろうか……。すまなかったね、アメリア。ボクは大事なものを見失っていたようだ」
何だか私の想像以上に伝わってくれたようで驚いています。エイリスさんが私に頭を下げてきました。そんなことまでさせるつもりはなかったので、私はすぐに頭を上げさせました。
「ありがとうアメリア。これからも何かあったら、意見を言ってくれないかい?」
「え、ええ。良いんですか?」
「もちろんさ。ボクがどういう状態でも、言って欲しい。良いかな?」
状態? 何だか回りくどい言い方ですが、エイリスさんにとっては、大事なことなのでしょう。私はすぐに了承しました。
「ありがとうアメリア。さ、それじゃ冒険者ギルドに入ろうか」
「へっ、冒険者ギルドって……あっ」
そこで私は気づきました。そこそこ大きな建物、軒先に吊り下げられている〈冒険者ギルド〉の文字に。
あろうことに、私は冒険者ギルドの前でエイリスさんを叱っていたのです。その事実に、私は顔を真っ赤にしました。もしかしたら誰かに見られていたかも……。
うぅ、私はやっぱりポンコツメイドです。
冒険者ギルドの扉を開くと、そこは私の知らない世界でした。掲示板の前では色んな人たちが集まっており、沢山並べられたテーブルには沢山の人たちがお酒や食事を楽しんでいます。奥の受付では武装した人たちが話をしていました。活気に満ち溢れている、という表現がここまでピッタリの場所は見たことがありません。
その光景を見て、私は屋敷のことを思い出していました。屋敷でも日々、掃除や洗濯、炊事など色んなことをしなくてはなりません。よく同僚の皆さんたちと声を掛け合っていました。
そのことを思い出し、私はまた泣きそうになりましたが、なんとかこらえます。
「大丈夫かい?」
エイリスさんもそのことを察し、声をかけてくれました。私は首を縦に振り、大丈夫と伝えます。
もう私は前を向くと決めたのです。
「よし、それならさっそく冒険者登録をしに行こう。話をしてくるから、ちょっと待っててくれるかな?」
「はい、お願いします」
少々不安でしたが、エイリスさんの指示に従い、私は待っていることにしました。
「あの、お姉さん。今お暇ですかー?」
「え?」
金髪の女の子が話しかけてきました。すごく甘くて可愛らしい声です。お歌でも歌えば、すごく人気の歌手になるんだろうなぁ。
「おーひーまーでーすーかー?」
「は、はい。お暇です!」
「そうですかー! それならわたしとゲームしませんか?」
「ゲーム? どういうゲームですか?」
どちらかの手に石ころが入っており、当てることが出来たら私の勝ち。外したら女の子の勝ちというすごく単純なゲームです。これくらいなら、と思っていましたが、ルールの追加がありました。
「外したらわたしに罰金、当たったらあなたにお金をあげましょう。どうです? 燃えません?」
「えーと、お金のやり取りをするゲームって賭博というんじゃ……」
「やるんですか!? やらないんですか!?」
ひぃー! この女の子、怖いです! 声がめちゃくちゃ可愛いだけに、めちゃくちゃ怖いです!
私はブンブンと頭を縦に振っていました。
「よーし、そんじゃやりましょ。あ、申し遅れました。わたしはマルファって言いますんで」
マルファと名乗った女の子は、ニヒッと笑います。