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第5話 旅立ち

「落ち着いたかい?」

「はい、だいぶ落ち着きました」


 私は気分転換も兼ねて、ガレキの山から旦那様や同僚の皆さんを掘り起こしていました。エイリスさんが魔法を使ってくれたので、作業はかなり楽でした。

 奇跡の祈りは届かず、皆さん亡くなっていました。かなり傷が酷いお身体もありましたが、なんとか全員、土の中で休んでもらうことが出来ました。


「ありがとうございます、エイリスさん。皆さんもお礼を言っているはずです」

「そうか、それは何よりだ。眠れる死者に安らぎがありますように」


 私とエイリスさんは黙祷を捧げました。まだ引きずることがあるかもしれませんが、それでも一旦は区切りをつけることが出来ました。皆さん、お休みなさい。


「さて、アメリア。これからのことを話したいのだけど、良いかな?」

「これからのことですか?」

「うん。さっきも言ったとおり、カサブレードを所持するには資格が必要だ。だけど君は持っていない。このままでは少し面倒なことになるかもしれないんだ。具体的には逮捕とか」

「逮捕!? そんな! 私はたまたまカサブレードに選ばれただけで、何も手に入れようだなんて!」


 私は混乱しました。メイドは冷静沈着な心が求められるというのに、取り乱してしまうなんていけません。やはり私はポンコツメイドなのです。

 だけどエイリスさんはそんな私に優しく言葉をかけてくれます。


「落ち着いてアメリア。このままボクと君が別れたら、の話だ。提案したいことがある」

「提案?」

「そう、ボクと一緒に来ないかい? 古魔具取扱規則の中の一文にはこうある。許可を受けていない者が古魔具を所持する際、古魔具取扱許可を受けた者から扱いに関する指導を受けなくてはならない、とね」


 かすかですが、私もその一文には覚えがあります。ですが、それはあって無いようなものという印象がありました。

 嫌な言い方をすれば、古魔具というのは金のなる木です。そんなものをただの素人が所持するには、勿体ない・・・・のです。


「ボクが君の側について指導しているという形を取る。そのうえでカサブレードを手放す、あるいは封印する手段を探さないかい?」


 願ってもない提案でした。私はただのポンコツメイドです。世界を救った聖剣なんて、持つにふさわしくありません。

 決めました。私はエイリスさんについていきます。

 ついていって、カサブレードを放棄する手段を見つけてみせます。


「エイリスさん、私は私の平和を守りたいです。だから、こちらこそお願いします。私と一緒に、カサブレードを放棄する手段を探してもらえないでしょうか!」


 精一杯の声をあげ、頭を下げました。するとエイリスさんは私の背中を優しく叩いてくれました。


「改めてよろしくアメリア。一緒にカサブレードをどうにかしよう」

「はい! よろしくお願いしますエイリスさん!」


 どちらから求めることもなく、私達は握手を交わしていました。

 今日はいろんなことがありすぎて、正直寝られるか分かりません。でも良いんです。これからのことを前向きに考えて、私は旅をするのですから。


「あ、でもカサブレードを掴めるようになったときは頂いても良いかな? えへへ」


 どうにもしまらないエイリスさんの発言に、私はじとーっとした目になっていました。もちろんそうなったらカサブレードは差し上げるつもりですけどね。


「エイリスさんって筋金入りの古魔具オタクさんなんですね」

「急に褒めてくれるなんてどうしたの?」


 駄目でした。しまらないことに対し、遠回しにちくりと刺してみましたが、何にも効果がなかったです。むしろ褒めた感じになってしまいました。



 ◆ ◆ ◆



 私とエイリスさんは元屋敷を離れ、王都へ向かっていました。目的はそこにある冒険者ギルドで冒険者登録をすることです。

 冒険者になると、冒険者ギルドから様々なサポートを受けることが出来ます。依頼をこなしてお金を稼ぎつつ、カサブレードの放棄に繋がる情報を得るのが最大の目標となります。


 今、私とエイリスさんは馬車に揺られていました。自力で行くには少々遠いところなのです。

 エイリスさんは楽しそうに外を眺めていました。


「うーん。やはり世界を見るのは面白い」

「確かエイリスさんも冒険者なんですよね。冒険者魂が騒ぐ~って感じですか?」

「ううん。ちょっと違うかな。ほら見てご覧。古魔具の気配がたくさんするじゃないか。ボクはこの世界に星の輝を見ているんだ。ただし、古魔具のだけどね」


 視点が違いすぎて、一瞬反応に困ってしまいました。とはいえ、私は私で見え方が違っていました。

 綺麗だな、とそう感じました。今まで屋敷の中にしかいなくて、じっくり外を見る余裕はありませんでした。風の匂い、土の色、森の多さ、そんな何気ない風景に、私は感動を覚えてしまいました。


「君は君で、何か感じるものがあるようだね」

「そうですね。正直、カサブレードのことはまだまだ不安だらけです。すぐにでも手放したいです。ですけど……」

「ですけど、何だい?」

「ちょっぴりワクワクしています。ポンコツメイドの私が、こうやってこんな旅に出られるなんて思ってもいませんでしたから」


 私の言葉を聞いたエイリスさんはただ微笑んでくれました。


「そうかい。なら喜ぶと良い。君の前に広がる世界は無限だよ。様々な古魔具に出会えるのはもちろんのこと、色んなことを経験出来るだろう。これからもっと忙しくなる。覚悟しておくんだね」

「はい!」


 そうしている内に、大きな城壁が見えてきました。あそここそ、このサンドゥリス王国の王都です。

 ここから始まるんです。新たな冒険が!


「あ、王都に入ったら、裏の魔具商店に行っても良いかな? ちょっと掘り出し物の魔具が入ったという噂を聞いてね……」

「えぇ、堂々と裏って……」


 しまりません。お願いですからエイリスさん、少しでも勇ましい気分にさせてください。

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