「はぁ……はぁ……ごめんねアメリア。少々お見苦しいところをお見せしてしまったね」
「いえいえ、お気になさらず」
あれが少々なら、本格的にお見苦しい場面になったら、どんな風になるのだろうか。想像しようとしましたが、踏みとどまりました。
エイリスさんは自分の胸に手をやります。
「ちゃんと話していなかったね。ボクは古魔具が好きで、色んな古魔具を集めているんだ」
古魔具、つまり古い魔具のことですね。
魔具とは、魔力を使い、中の仕掛けを動かすことで色んなことが出来る道具です。魔具には色んな種類があり、少しの魔力で火を起こすことができたり、部屋の照明になるものもあります。古魔具とは、遥か昔に作られた魔具にあたります。
今でこそ安全基準が設けられたうえで、庶民にも普及していますが、昔はその基準がありませんでした。
古魔具は危険です。使い方によっては街一つなんて、簡単に滅ぼせるものもあると聞きます。
「古魔具を集めているんですか……。古魔具を持つには許可が必要なはずでは?」
「あー。アメリアは今、ボクのことをそのへんにいる違法コレクターだと思ってるんだね?」
「えっその、あの……すいません、思ってました。不当な手段で手に入れて、不当な額で売り
「君って可愛らしくて、自信なさげな感じなのに、結構ハッキリ言うタイプなんだね」
「すいません! ポンコツメイドで本当にすいません!」
やってしまいましたー! そんなこと言うつもり、少しもなかったのに、つい素直に言ってしまいました!
なんという失礼なことを言ってしまったのでしょう。まだ会って間もない方なのに。メイド失格です、ポンコツです。
私がひたすら反省していると、エイリスさんはくすりと笑い、懐からカードを取り出しました。
「ほら、これでどうかな?」
「これって第一級古魔具取扱許可証……!? 本物ですか!?」
「ん、そうだよ。自慢じゃないけど、古魔具への愛を示させてもらったよ」
何回も言いますが、古魔具は危険です。だからこそ、信頼できる人間が収集、管理をする必要があります。
第一級古魔具取扱許可は国が出す許可の中でもトップクラスに厳しいと聞きます。古魔具にもランクがあり、第一級は全ての古魔具に触れることを国が許可したという証明になります。
「失礼しました。私はなんということを口にしてしまったのでしょう」
「早く見せなかったボクにも非があるさ。お互い水に流そうじゃないか」
「ありがとうございます」
エイリスさんはなんと広い心の持ち主なんでしょう。つい仕えたい欲が出てきてしまいます。
エイリスさんは真剣な表情になります。
「話を戻そうか。実はボク、ここに来たのはタオコール卿の屋敷にある古魔具を回収しに来たんだ」
「えっ!? このお屋敷に古魔具なんてあるのですか?」
全然知らない話でした。このお屋敷のことは隅々まで知っていると思っていたのに、まさかそのようなものがあるなんて。
「そう、あったんだよ。今はもうガレキの下だろうけどね」
「そうですか……」
「そしてボクが君に声をかけて、今に至るってわけ。まさかカサブレードに出会えるとは夢にも思わなかったけどね」
「このカサブレードってそんなにすごいものなんですか?」
エイリスさんの目がぎらりと光りました。私は失言をしたことに気づきます。このあとの展開がなんとなく読めてしまいました。
「カサブレードってのは古魔具の中でも伝説と呼ばれる古魔具なんだ! 古魔具の世界にいるものならば確実に耳にしたことがある聖剣さ! 数百年前、勇者がカサブレードを使い、太陽の魔神と死闘を繰り広げた神話を知っているかい? カサブレードはそんな神話の古魔具なのさ!」
熱意が大波で襲いかかってきました。だけど、どれも重要な情報ばかりです。
カサブレードというのはそんなにすごいものだったのですね。私は先程の戦いを思い返していました。
「フランマは自分のことを太陽の化身と名乗っていました。もしかして太陽の魔神はまだ存在している、とか?」
「可能性はあるだろうね。だからこそ、君はそのカサブレードを手放すべきだと思う」
私もその考えに賛成でした。もしそうなら、私のようなポンコツメイドに出来ることなんてありません。エイリスさんはその他にも私がカサブレードを手放すべき事情を教えてくれました。
「ここからはボクの領分なんだけど、そのカサブレードは伝説の聖剣とされる古魔具だ。つまり、第一級古魔具取扱許可証がなければ所持することは出来ないんだ」
「お渡しします! そんな危ないもの、私のようなポンコツメイドが持っていて良いはずがありません」
「話が早くて助かるよ。ボクは他の誰にも負けない古魔具オタク、責任を持って管理することを誓うよ」
「お願いします。それでは」
私はすぐにカサブレードをエイリスさんへ手渡しました。これで全てが解決です。あとは新しい職場を探しつつ、平和を満喫しようと思います。戦いなんて危ないこと、二度とやりません。あぁ、やはり平和が一番ですね。
次の瞬間、カサブレードが発光しました。
「わっ。なんだ」
バチッという音がしたかと思ったら、エイリスさんがカサブレードを落としていました。そしてカサブレードが一度、光の粒子となって消えたかと思ったら、なんと私の手に戻ってきました。
「え、なんで?」
「なんということだ。手に電撃が流れて、たまらず離してしまったよ。まるでカサブレードがボクを拒絶しているようだ」
「もう一度、渡します」
「やってみよう。……無駄だとは思うけどね」
エイリスさんの言った通りになりました。再びカサブレードはエイリスさんを拒絶し、私の手の中に戻ってきました。
「うん、無理だね。アッハッハッハ!」
「笑ってる場合じゃないですよ。あ、それならカサブレードを捨てます!」
言うよりも早く、私はカサブレードを放り投げました。申し訳ないですが、カサブレードはここに置いていきます。
しかし、カサブレードは先程と同様、一瞬消えたと思ったら、私の手の中に戻ってきたのです。
「嘘だ……」
なんということでしょう。カサブレードを渡すことも、捨てることも出来ません。
これからのことを考えると、私は気を失いそうになってしまいました。