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第3話 エイリスと名乗る少女

「ひぃ!」


 突然の出来事だったので、足がもつれ、転んでしまいました。情けないポンコツメイドです……。

 顔を上げると、帽子とマントを身に着けた女の子が手を伸ばしていました。


「驚かせちゃってごめんね。立てる?」

「は、はい。ありがとうございます」


 爽やかで堂々とした声です。初対面のはずなのに、安心感を覚えるのは何故でしょうか。身長は私と同じくらいですね。

 そこでようやく顔を見ることが出来ました。

 すっごい顔が整っていました。声からして明らかに女の子のはずなのに、まるでどこかの国の王子様のようです。私は自然と背筋が伸びていました。もし何かを命令されたら、従ってしまいそうです。メイド魂をくすぐる雰囲気を放つ方ですね。


「自己紹介が遅れてごめんね。ボクの名前はエイリス。君の名は?」

「アメリア・クライハーツと申します。よろしくお願いします、ご主人様」

「ご主人様?」

「……忘れてください。ぽろっと心の中が漏れてしまったようです」


 つい思っていることが口に出てしまいました。恥ずかしすぎて死にそうです。

 幸いエイリスさんは気にしていないようで、話を続けてくれました。


「ガルヘイン・タオコール卿の屋敷を探しているんだけど、この辺で合っているかな?」

「えと……その」

「ん? どうしたんだい?」


 私は色々考えた末に、ガレキを指差しました。


「ここです」

「……ここで何が起きたのかな? 先ほど、凄まじい魔力の気配がしたと思っていたけど、まさかここだったとはね」

「お話します。ですが、私も整理しながら話すので、お聞き苦しかったらすいません」


 一度深呼吸をし、私はエイリスさんに事のあらましを説明した。

 太陽の化身と名乗る存在が突然屋敷を襲ったこと、皆が死んでしまったこと、そして何とか撃退したことなどなど。情報量の多さにめまいがするが、それでもなんとか話しきることが出来た。カサブレードについては、あえて省いてみました。フランマはカサブレードを狙っていましたので、聞かれるまで隠そうと思います。


 私が喋っている間、エイリスさんは一度も口を挟むことなく、しっかりと目を見て、何度も頷いてくれました。一言でいうと、安心しました。私自身、これが本当に起こった出来事なのか、自信が持てなかったので、傾聴してくれるエイリスさんに安心感を抱きました。


「そういうことだったんだね。ありがとう話してくれて」

「いえ、こちらこそ聞いてくれてありがとうございます」


 すると、エイリスさんはすぅっと目を細めました。この表情の意味はすぐに分かりました。伊達にメイドはやっていません。メイドならば顔を見れば、相手が何をしてほしいか一目瞭然なのです。

 その経験上、端的に言うと、「誤魔化しているな」と言いたげな表情でした。私、話すの下手すぎるのでは?


「けど腑に落ちないところがあるね。君はそのフランマという存在をどうやって撃退したのかな?」

「き、奇跡が起きたのです」

「奇跡じゃそんな存在を追い払えないだろう?」

「うっ……!」

「あはは、ごめんね。責めているわけじゃないんだ。ただ、君はどうやっても何かを誤魔化すのは向いていないようだね」

「うぅ……私はポンコツメイドです……」

「おっとごめんね。ボクは君のことを善良な人間だと思っているよ。だから、どうしてもその話を聞いたら、疑問が浮かんできちゃうんだ」


 エイリスさんが申し訳無さそうにしています。そもそもカサブレードのことを話さなかった私が悪いのに。

 私自身、今の話で押し通せるわけがないと思っていました。見ての通り、ポンコツメイドがそんな存在をどうやって倒したのか疑問符が浮かぶことでしょう。

 私はカサブレードについて話すことを決めました。


「……ごめんなさい。そのとおりです。ちゃんと話すので、ちょっと待ってください」

「? 良いよ、待つ待つ」


 そこで私は止まりました。どうやってカサブレードを見せようかと。カサブレードは先程、光の粒子となって私の中に入り込んでしまいました。

 胸をえぐって取り出す? いやいや怖すぎます。


「えっと、どうしたのかな? 急に手を伸ばして、うんうん唸り出したけど」

「ご、ごめんなさい! もう少し待ってください!」


 これただの不審者ですね。絵面がかなりやばいです。このままだとエイリスさんがドン引いた末に、かわいそうな子扱いされて終わってしまいます。

 出てくださいカサブレード。出ろ出ろ出ろ……。

 その時です。私の胸の内から、何か手応えを感じました。何かが引っかかっているような感じ。もう少し力を入れたら、抜けそうです。

 私の右手に光の粒子が集まってきました。


「出てくださいー!」


 何かを引っこ抜いたような感覚。同時に、光の粒子が傘の形を成しました。ようやく出てくれましたね、カサブレード。

 エイリスさんはカサブレードを見て、固まっています。すいません、急にこんなヘンテコなもの出されても、意味が分からないですよね。

 説明しようとすると、エイリスさんが傘の名を呟きました。


「カサ、ブレード……」

「そうですけど、エイリスさん知っているんです――」



「カサブレードォォー!? なななな、なんでこんなところに伝説の古魔具が!? いやいやいやいやまだこれが本物と決まったわけじゃない。どれどれ……この内包されている魔力、神秘性、構成している物質も未知の素材、リミッターは……ない! ハッハッハ。……カサブレードだぁぁぁぁ!?」



 言葉と感情の波が私を飲み込みました。エイリスさんの目の色が変わっていました。

 あんなに余裕たっぷりだったエイリスさんの豹変ぶりに、私は思考が追いつきません。

 エイリスさんはしばらくの間、狂喜乱舞していました。

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