すっかり冷え切った闇の中、雪芭は疾走している。こんなにも走るのはいつぶりだろう――歩と隼政と賭け事した時以来だろうか。ジュースやお菓子といった手頃な物を景品として。もちろん、いつも勝つのは……と思わず懐かしんでしまう。
こんな時でも、人は笑えるのだ。
昼間こそ人通りはあるものの、夜はまったく人通りもない。不気味なまでの静寂が漂う。――夜出歩くのを禁じる言い伝えも多いくらいだ。信憑性がなくとも語り手が巧妙に語るものだから、信じてなくとも怖がって誰も出歩かない。
街灯も少なく決して明るいとは言えないが、ないよりはマシだった。
静寂の中、自分の走る音だけが鮮明に響く。
隠れは何かを隠している、それは雪芭の直感だった。