隼政はふと思った。管理人のプロフィールくらいはあるだろうと。自己紹介は常識中の常識だ。
「プロフくらいはあるよな?」
「まあ、あるにはあるんだけど……ハンドルネームと意味深な言葉しかないんだよね」
「男か女かもわからないのかよ? ……で、ハンネと意味深な言葉って?」
雪芭は近くにある緑茶のペットボルを手に取り、一口飲む。
「ハンドルネームは、彼岸花。意味深な言葉は“神隠しは終わらない”―――」
再び沈黙がおりた時、隼政はぎょっとする。
栗色のボブに肩だしの長袖のTシャツ、短パンの
季節感を特に気にしない水露は、常に世間とはずれた格好をしている。去年の夏なんか、羊みたいにもこもこのカーディガンに冷え性対策の靴下。隼政がちょっとからかっただけで、見事にみぞおちストレート、ノックダウン。
その水露だ、しかもすでにもう不機嫌。
「はや、いい加減頼んだ雑誌買いに行きなさいよ!!!」
受話器越しに叫んだ声が伝わり、思わず雪芭は離し顔をしかめた。
隼政も負けじと言い返す。
「水露姉が買いに行けばいいだろ、大体彼氏いるんだから彼氏に頼めよなっ」
密かに雪芭はため息をついた。隼政の両親は離婚していて、姉の水露とその
ケンカは日常茶飯事と聞いている。実際にこの目で見ているから今さら驚きもせず、雪芭は言い合いが終わるまで携帯をいじって待つ事にした。
相変わらず騒がしい姉弟である。