緋葉が抑揚のない口調で言った。
「はやく帰れ。じゃないと、ここから……帰れなくなる」
どういう意味だ…………?
歩は緋葉の言った言葉の意味を考えるが、思い浮かぶものは、負の事ばかりである。この状況では仕方ないだろう。彼岸花に畏怖する日がこようとは――誰が思おうか。
「……緋葉」
「名前知ってるんだな」
「話し声が、聞こえたから」
「そうか。お前は何を問う?聞かなくともわかるが、教えてくれ。
言葉は言霊だ。いざとなった時、お前を救う武器になるかもしれない」
歩は警戒心こそ解けないものの、緋葉を信じてみてもいいかもしれない、と思った。これは直感だ。なら、信じた方がいい。
「俺は、元の場所に戻りたい」
この他に、一体何を願うと言うのか。
答えをわかっていても聞いたのは、自分で願いを口にしなければ意味がないから――だと歩は解釈した。