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第49話 アビシニア村に名物はねぇ

 そんなこんなで半ば無理やり、私たちは山道の近くの村長の家にやってきた。


「村長~いますか~?」


 呼びかけると中から物音が聞こえて、数秒の後にドアが開く。出てきたのは髪の毛がふさふさの村長だった。


「うぐっ……ぐっ」


 忘れてた。王都でチハヤにカツラを頼んだんだ。いつもとまるで違う姿に思わず笑いが込み上げ──いや、失礼だぞサラ! 容姿で人を判断するなんて失礼だ!! カツラはファッションの一つ!


「お~サラちゃん、どうしたんじゃ? あっ、これか? なんだか最近急に髪の毛が生えてきてのぉ、気にせんでくれ」


「そ、そうだったんですね。お似合い……くっ! くぅっ!」


 なにを笑おうとしてるんだサラ! いくら真実を知っていようとっ! 無理にごまかしているとわかってはいても! 村長は私に気を遣っているんだ! 笑うわけにはいかない!! 人として恥ずかしいことだぞサラ!!!


「どうしたんじゃ? なにか用事があって来たんじゃないのか? ほら、上がりなさい」


「はっ、はい。でもその前に!!」


 私は自分の右拳で思い切り自分のお腹をなぐった。くっ……痛い。仕方ないんだ。これは村長を笑い者にしようとしてしまった浅ましい自分への罰だ。


「よしっ。では、おじゃまします!」



「──グランドなんちゃらはよくわからないんじゃが、村の発展か。うーむ。実は、わしもちょっと前からそのことは考えていたんじゃ。ほら、エルサちゃんが王都へ行ったときじゃな。わしもギルドに依頼したじゃろ。内容は超極秘、重要案件じゃったが。それも踏まえると、王都ほどとはもちろん言わない。けど、村にもっといろんなお店があった方が活気づくんじゃないか……と思ったんじゃ」


 裏の事情を知らない人から見たら、見た目も本物と変わらないカツラを触りながら村長は威厳たっぷりに言った。


 うん、カツラのことだよね。もし、そのカツラになにかあったらまた王都まで買いに行かないといけないし。


 でも、その方が話は早い。


「村の発展は必要だと思います。ギルドをこれ以上に発展させるためにも。前にチハヤが言っていました。日に日にモンスターの力が増していると。アビシニア村にもいつモンスターが現れるかわからないとも」


「モンスター!? それはいかん! 我が先祖が平穏な島を見つけ開拓した歴史が台無しに……このアビシニア諸島に拓かれたアビシニア村は──」


「あぁ! 村長! 歴史も大事ですけど、未来の話しましょう! どうやって発展させるか考えないと!!」


 村長は腕を組んでうなりがなら頭をひねる。


「うーむ……どうやって発展させるか、いざ考えると難しい……サラちゃん、なにかいい案はないか? なんかこう、若者らしく都会の人間が夢中になれるようなやつじゃ」


「そうですね。アビシニア村には自然があります。あと、村人の温かさとモンスターのいない平和が──」


 ……逆に言うとそれしかない。


「じゃが、それがウケるのであれば今頃この村には観光客がどっと押し寄せているはずだと思うんじゃ」


 そうだ。いくら喧騒から離れた自然を楽しめるとしても、王都からは通常、船で5日間はかかるくらい離れているし。娯楽と言っても本屋か酒場かレストランくらいしかない。


 なにも、なにもないから私だって都会を夢見ていたんじゃないか。


「困ったのう。……そうじゃ、チハヤくんならなにかいいアイディアがあるんじゃなかろうか。異世界転生者だし、この世界にはない新しい知識とかでなんとか」


 チハヤ。そうか、チハヤか。またしてもやつに頼らなければいけないのがなんとも面白くないけど、トーヴァさん怖ぇし、聞くしかないよな。


「わかりました! じゃあ、行こうグレース!」


 いつの間にか私のひざで眠っていたグレースを引きずり、私は外に出た。


 まぶしい日差しに目を細める。うだるような焼けるような暑さだ。もし、王都に私が住んでいたとしたら、こんな暑いとこにわざわざ来たいとは思わないけどな。



 なんの収穫もなく、再びギルドへと戻ると2階からとてつもない怒号が聞こえてくる。


「お帰りなさいませ。サラ様。どうでしたか?」


 迎えてくれたチハヤがすぐに魔法で冷たいアイスティーを用意してくれた。もう一つはグレース用のミルクだ。グレースは、眠たそうだったのに急に目をパッチリと開けてミルクをうれしそうに飲み始める。


「どうって、どうせ聞いてたんでしょ?」


「ええ。ですが、村の発展に村長の協力を得られたのは大きいです。転生前も転生後もいろんな話を聞いてきましたが、発展に非協力なリーダーもたくさんいらっしゃいますからね」


「ふーん、そういうもんなのか。……で、2階はどうなってるの?」


 聞かなくても予想はつくが、一応聞いておこう。


「エルサ様の修行です。さっそく始めたようですね。1階は一応、受付スペースなので現状なにもない2階を使ってもらうことにしました。……ものすごい集中力と成長スピードですよ。美容室のお客さん、ほったらかしにしていますからね。私が赴いて事情を説明しましたが」


 あのエルサさんがお客さんを忘れて剣に打ち込んでいる? 血と戦うことが大の苦手だったのに?


「ほえ~人は変わるもんだね」


 言いながら私も席について、アイスティーに手を伸ばした。


「サラ様、感心している場合ではありません。エルサさんもそうですが、ギルドはもう動き始めています。私もこのあとすぐに王都へ旅立つことになりました」


 カランカラン、と氷が鳴った。


「へ? 王都? チハヤがなんで?」


「魔法使いのグランドマスターの資格を得に行きます。クリスさんの修行をするためにはグランドマスターが必要ですが、今はいないので私が資格を得ればちょうどいいかと、トーヴァさんと話になりまして」


 なるほど──そうか。それが最適解かもしれない。だけど。


「えっと、いくらなんでも急すぎない?」


「ですから、ギルドはもう動き始めているのです。私も含めそれぞれがギルドの発展のために仕事を始めていますので、サラ様もサラ様の仕事をしていただければ、と。それでは──」


 紅茶を飲み干すと、チハヤはスックと立ち上がった。


「お、おいちょっと待って! 村長との話は聞いてたでしょ! 村の発展のアイディアを~!!」


 と、叫んだときにはもうチハヤの姿はなかった。


「もういねーし!! あいつ……!! 魔法で飛びやがった!! あ~もうどうすればいいんだよ!!」


 髪の毛をかきむしると、上階から軽快な足音が降りてくる。


「──いや~はっはぁ!! 本当に思った以上の才能だ!! これならすぐに実践に……おっと、ちょうどいいところにサラ! 村長と話はついたのかい?」


 もう一人の悪魔の声が近づいてくる。顔を見ればニヤニヤとした意地悪そうな笑みが浮かんでいる。絶対に収穫ゼロを気づいている。う~。


「サラちゃんお帰り! 執事さんは? もう王都へ向かったの?」


 エルサさんはなんか生き生きとしている。タオルで体についた汗を拭く姿は、どこかさわやかだった。


「執事には計画を話したからな。どっかのギルド長と違って話が早いやつだ」


「う……のろまなギルド長ですみませんでしたって!!」


 いちいち腹立たしい。嫌味はチハヤ以上だな。


「まあ、そうカッカするな。執事もお前に信頼があるから余計なことは言わずに飛んだんだろ」


「どうですかね。元々人使い荒いですから、私のことなんてなにも考えてないと思いますけど」


 また、コップを回して氷を鳴らす。く~なんでかいらいらする! マジ、チハヤ、許さねぇ……。


「ああん? もしかして、置いてかれてすねてんのか?」


「すねてないです! すねるわけないです!!」


「トーヴァさん、あんまりからかうのはよくないですよ~。サラちゃん、怒ると怖いんですから。虎みたいになっちゃうんですから」


 エルサさん、それ、フォローになってないから!


「大丈夫だ。余計なことは考えないようにさせてやるから。サラ。一応、私の方でこれからギルドに必要なものをリストにまとめて置いた。見ておいてくれ」


 そう言うと、トーヴァさんはデカいカバンの中から紙を取り出して、机の上に叩きつけるように置いた。ばか力……。もうちょっと丁寧に置けよな。机壊したら請求すんぞ、おら。


「え~っと、なになに? ギルド発展のために必要なものリスト。訓練場のほか別ギルドのギルド員が泊まれる宿泊施設、武器や防具の整備ができる鍛冶屋、魔法ショップなどなど……」


「特に訓練場はマ・ジで必要だ。ここじゃ狭すぎるし、そもそも受付だろ? エルサの成長のためには欠かせない」


「いやいや待って……こんなのムリだよ」


 訓練場に宿泊施設? 鍛冶屋に魔法ショップ? どれもこの村にはいらない施設だ。


「それにこんなの簡単につくれないよ! お金もないし、人手もないし、材料もない!! ムリムリムリムリムリ!!」


「じゃあ、ランクアップは諦めるか? こんなシけた村だけの依頼じゃすぐに天井突くぞ? 借金も返せないし、膨らむばかり、遠くない未来にせっかくつくったギルドは解散し、お前は路頭に迷うことになる、いいのか?」


「う……い、いやだ!!」


「じゃあ、やるしかないんだよ! 施設を充実させて村をギルドを発展させて、有名ギルドになれ! 稼げるギルドにしたいだろ?」


「そうだけど、だけど、ムリだよ~~~~~!!!!!!!!」

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