「金色のカクテル。素材として考えられるものは、おそらくこの村では手に入りません」
ギルドに帰るやいなやチハヤはきっぱりとそう言った。
「だったら、どうす──」
「きゃーチ・ハ・ヤくぅん!! 会いたかった~!! あのゴーレムの魔法~すごかったですぅ!!!」
私の言葉をかき消すクリスさんの声が大きすぎて思わず耳を塞いだ。ホントにこの人は……だから、連れて来たくなかったのに。
「方法はありま──」
「きゃー! こっち見た!!」
おい! 方法があるのかないのか肝心なところ、聞こえなかったじゃねぇか!
「……ですが、そのために──」
またクリスさんが嬌声を上げたところでチハヤが手をかざすと、クリスさんはなぜか目をハートにしたまま止まった。凍ったみたいに動きが止まっていた。
「えっ……魔法?」
「はい。致し方ありませんでしたので、とっておきの時空魔法を使わせていただきました。念のため申し上げておくと、まったく命に別状はありません」
そう言うと、チハヤはいつものように紅茶を飲んだ。じ、くう魔法? よくわからんけど、まあクリスさんが邪魔しないならなんでもいいや。
「さて。話を進めましょう」
「うん。村では材料は手に入らないと言っていたけど、手はあるんだよね?」
「あります。この村に来る前に世界各地を回りましたが、世界にはまだまだたくさんの食材があります」
「金色の飲み物もあるの?」
「それはありません。金とはつまりゴールド。鉱石のあの色のことを指します。似ているものはあるでしょうが」
なるほど。そりゃそうだな。金は硬貨に使われたりしているあの金でしかない。クリスさんのような金糸のような髪色もゴールドに似ているから、だし。
「なので方法としては、材料を組み合わせて再現するしかありません。私はその手のことに詳しくはないですが、錬金術と呼ばれるいくつかの材料を混ぜ合わせることで、全く別の新しい物質を創り出す魔法がありまして。そこでは金を作る研究も盛んに行われています」
「だったら、その錬金術を使うってこと?」
「考え方はそうですが、今回使うのはカクテルなので人体に安心安全なものでなければ。そこで思いついた材料が二つあります。その名は──」
*
【白毫銀針】
「えっと、なんて読むんでしたっけ?」
「はくごうぎんしん、よ」
全く覚えられる気がしねー。
「よく覚えていましたねクリスさん。こんなヘンテコな紋章みたいな文字」
「それはもう、チハヤくんが手取り足取り、あんなことやこんなことをして体に刻み込んでくれたから!!」
んなわけねぇだろ。ただ、言葉を何回か繰り返しただけだ。手も足も使ってないわ!
「クリスさんちょっと集中しましょう。私たちはなぜか今からこの
言いながら本当になんでだよと思いたくなる。私とクリスさんの二人は今、村からかけ離れた……かけ離れすぎてどのくらいの距離にあるのかもさっぱりわからないような、見たこともない場所へ
チハヤが言うには、この白毫銀針が金色のカクテルを作りだすメインの材料らしい。
そしてそれはこの村から遠い異国の地にしかないらしく、入手するために私とクリスさんを飛ばした。魔法で。
お前は来ないのかよ。という質問は愚問だ。
奴ならこうほざくだろう。「サラ様がギルドマスターです。ギルド員のいない今、ギルドの仕事はサラ様がす・べ・て引き受けなければなりません。あまり魔法使いたくありませんし」──とかなんとか。
「なんだか、雰囲気が全然違うね。ウチと同じくらい小さな村みたいだけど」
クリスさんは背の高い真っ白な大木から顔をのぞかせて村の様子をうかがっていた。チハヤなりの配慮なのかいきなり村の中心にバーンとかじゃなくて、バレないような茂みの中に私たちを移動させてくれた。
「そうですね。なんか、同じ木造りの家ですけど木の種類が違うのかな? 全体的に壁の色がちょっと薄いっていうか」
「そう。あと、あの黒い瓦屋根なんてすごく面白い形だよ。なんか重ね合わせたみたいな。重そうだけど、落ちないんか、あの感じで。しかもところどころくるんって曲がってるし」
「それから人の格好も違いますよ。質素ですけど華やかというか。きちきちっとしてて。どうやって着るんだあんな服?」
クリスさんじゃ着こなせない気がするな。いや、私もだけど。それよりも気になっていることが一つあって。
「そんなことより、クリスさん、なんか寒くないですか?」
「あぁ、サラちゃんも? そう、実はここに来てからずっと体が震えていて」
白シャツから伸びたクリスさんの腕と、短いパンツから伸びたほっそい足がぶるぶる震えている。
<それはそうです。そこはもう山の中ですから、アビシニア村よりだんぜん寒いです>
クローバーのブローチからチハヤの声が聞こえてくる。おい、それ、早く言ってくれ!
「ってことは──」
今からこの寒さの中で材料を探さないといけないってワケ!?