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第24話 急接近!

【亜沙美の部屋】

「そう言えば、毎日の配信は1時間なのか?」


「うん。21時から22時のだいたい1時間にしてる。あまり長い時間やるとさ、毎日の配信だから喉を痛めるかも知れないし…朝、起きれなくなりそうじゃない?」


「なるほどな…朝起きるようにしてるのは、まだ完全に学校に行かないつもりじゃないんだな?」


「ま、まあね…」


VTuber活動のだいたいの説明を終えた亜沙美は喉が渇いたので、コーヒーを煎れに1階のキッチンへ降りていった



「はい。コーヒーお待たせ!」


「おう、ありがとうな」


亜沙美はコーヒーと一緒のお盆に砂糖とミルク、クッキーを入れて持ってきた


「さっきの配信してる時の声だけどさ、いつもの声と若干違う気がするけど…少し変えているのか?」


「うん。まんま地声で話してたら、スグに身バレしちゃうじゃないかと思って、少し上げて話してるんだよ」


「……2オクターブだっけ?…ソコを維持したまま雑談し続けるのって厳しそうだな…」


「突発的に笑わされたり、驚かされたりした時に思わず地声にならないように、かなり注意して喋ってるんだよ」


亜沙美から配信に関する説明をざっと聞いた太一。コーヒーとクッキーを飲食して、ひと休みした2人は出掛ける事にした




【電車内】

「で、今日は何処に行くんだ?」


「水族館に行きたいんだぁ♪」


日曜日の昼前、亜沙美と太一は三重県の南に向かって電車に乗っている。車内の客はまばらで2人は車両の端の方で、向かい合わせのシートに座って会話していた


「へ〜、行った事は無いけど…デートの定番コースって感じだな…!?」

(待て!デート?…俺と亜沙美がか?…一緒に出掛けてるのは、あくまで高校復帰を促すためのモノで…亜沙美と付き合ってる訳じゃないんだが…)


学校に連れ戻したい太一が、亜沙美を外に連れ出すことで完全な引き籠もりにさせない様にしよう!という作戦だったが冷静に考えると…他人から見たらデートにしか見えないことに今更気が付く太一


「ど、どうして水族館なんだ?」


「えへへー…やっぱりさ…デートの定番って言ったら、水族館とか映画館じゃない?」


「で、で、デートぉ!?」

(やっぱり亜沙美はデートのつもりなのか?)


亜沙美は太一とは長い付き合いなので、こういう話で迂闊にからかうと距離を置こうとする癖がある事を…今までの経験で理解している

だから敢えて口でアレコレ言わずに、前かがみで顔を近付け柔らかい笑顔を魅せてデートの雰囲気を醸(かも)し出そうとする作戦のようだが…


「うん!楽しみだねぇ…」


「カーブに差し掛かります。車両が揺れますので、お気をつけ下さい」


線路が比較的、大きなカーブに差し掛かり電車がかなり左右に揺れた


「うひゃっ!?」


前かがみになっていた亜沙美は、その振動で身体のバランスを大きく崩し床に倒れそうになった


「うえっ!?」


「ベタッン!」


向かい合わせに座っていた2人。車両の揺れで更に前に押され、そのまま太一の腕の中にダイブする形になった


「………………………」

「………………………」


突然のアクシデントで抱き合う形になった2人。2人とも顔を真っ赤にして、無言で固まっていた


……………………………………………


「次は〜松阪〜松阪に止まりマース」


「うあっ!?ご、ごめんね(汗)」

「(;゜∀゜)イヤイヤイヤイヤ...大丈夫だったか?」


突然抱き合った2人はしばらく無言で固まっていたが、流れてきた車掌のアナウンスで我に返ってすぐさま距離を取った


もちろん2人とも家族以外の異性と、ZERO距離で引っ付いた事など初めての経験だった。向かい合わせのシートに座る2人は、強く激しくなっている心臓の鼓動が相手に聞こえてしまうんじゃないか?と心配した為なのか…


「今日は晴れて良かったねぇ…」


「水族館ってクジラ居るのかなぁ…」


「早く泳ぎたいねぇ…」


「波も穏やかだからなぁ…」


と、お互いに噛み合わない雑談がしばらく続いていた。電車は間もなく伊勢市に入ろうとしていた




続く

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